【PEAKSギアレビュー】もうこれしか使えない……ミステリーランチ・ブリッジャー55の最高なポイントとは??
森山憲一
- 2023年08月03日
日々、多くの登山用具に触れ、山で使い込んでいるPEAKS編集部とライター陣が、「これは!」と感じた道具を現場主義でレビューします。実際に自身が山で使っているものにかぎり、その良いところも悪いところも登山者目線でレポートするのがこのコーナーの基本方針。今回は、ミステリーランチの新定番バックパック「ブリッジャー55」をレポートします。
文・写真◉森山憲一
”ミステリーランチ”
それはアメリカン・バックパッキングの本流。
バックパック界の革命児。
追随を許さぬ質実剛健。
さまざまな形容のしかたがありますが、孤高のオーラを放つオンリーワンのブランドであることに異論はないでしょう。
さて、私もついにそのミステリーランチを使える日がやってまいりました。入手したのは、2022年に発売された「ブリッジャー55」。往年の名作の名前を受け継ぎ、仕様を現代向けに徹底的にリファインした ”新定番” といえるモデルです。
昨年から注目度は高く、登山雑誌やウェブメディアですでに多くのレビューがなされております。いまさら私がレビューしたところで周回遅れなのかもしれませんが、一年使ってきて、「どうしてもこれだけは言いたい!」というポイントがひとつありますので、そこを中心にこのブリッジャーを紹介してみたいと思います。
<ここでいつものお断り>
このブリッジャーはメーカーからの提供品です。ただしだからといってレビューに忖度は交えません。以下、感じたことをそのまま書いておりますのでそこはご安心を。
これは2気室の革命
「2気室」とは、バックパック内部に仕切りがあって、荷物を2箇所に分けて入れられるようになっている仕様のことをいいます。ほとんどは上下で分かれており、下部荷室はファスナーで開けられるようになっているので、バックパック底部に入れた物も簡単に出し入れできることがメリットといえます。
参考:テント泊パッキングを見直してみよう!3名のパッキング例を大公開
……が、昔からこの2気室構造がわたしゃ嫌いでね……。
というのも、パッキングがしづらい。下部荷室にへんな空間ができてしまったりしてうまくパッキングが決まらない。
さらに。多くの2気室パックはカーブしたファスナーで開閉をするようになっているのですが、これが動きがよくないことがほとんど。カーブしているのでそもそも構造的に動きのスムーズさに欠けるわけです。パンパンに詰めたときなど、閉めるのにもひと苦労。
結果、2気室パックも仕切りを外して1気室にして使うことがほとんど。こんなのは重量増につながるだけの余計な機能なんじゃないかと、否定的だったわけです。
ところが。
ブリッジャーの2気室構造を見ていただきたい。
あまりにもスムーズ。荷物をグイグイ詰められる。へんな空間ができない。ファスナーは直線なので、動きはきわめてスムーズ。まったくストレスなく、下部荷室に荷物を入れられるのだ!
さてここで、もう一度動画を見ていただきたいと思います。あなたはいま、雨が降っているテント場で、テントを撤収して出発しようとしている。そういうシチュエーションだと仮定して、再度、動画を見てください。
……このありがたさがよくわかったんじゃないでしょうか。
雨が降るなかでのテント撤収は、登山のなかでもトップクラスにストレスフルなシチュエーション。テントはできればバックパック下部に収納したいのだけど、雨が降っていたら外で荷物を広げることなどできず、テントは最後にバックパック最上部に収納することになりがちです。しかしそうすると、濡れたテントがその下の荷物を濡らしたりする。それを嫌って、わざわざテントをビニール袋に入れたりする人もいる。そして行動中にバックパックから何かを取り出したくなったとき、最上部に入れてあるテントをそのたびに出さなくてはならない。そもそも、濡れていると滑りが悪くなってテントを収納袋に収めるのもひと苦労だ。ああ、もう、なにもかもメンドくせー!!
一方、ブリッジャーならば、テント内で上部荷室のパッキングを済ませ、外に出てテントを撤収したら、たたむ必要も収納袋に入れる必要もなく、そのまま下部荷室に押し込んじゃえばいいのです。ついでにレインウエアやパックカバーなどの濡れ物も隙間に詰めて、ファスナーをビッと閉めれば出発OK。次のテント場まで中をあさる必要もない。なんてノーストレスなんだ!!
まあ、こういうことはブリッジャーでなくても、2気室構造のバックパックならば、昔からできたこと。いまさら驚くことではないのですが、なぜ私はこれまでこういう使い方をしてこなかったんだろうか。それは、旧来の仕組みがとにかく使いにくかったからです。
ここで私は、ブリッジャーのこの独特な仕組みの意味を理解したのです。
最初は下部荷室の複雑な開閉口の意味がわからず、なんかやけにゴテゴテしてるな、もうちょっとシンプルにしてくれないかな、なんて思っていたのですが、使ってみれば、この構造には重大な意味があったことに気づいたのです。
まず、この大口径。これだけ大きく開くので、荷物の出し入れがすごくラク。旧来の仕組みでは到底実現できない広口です。
そして直線ファスナー。カーブしていたり邪魔なフラップ類が付いていたりしないので、ズバッと軽い力で閉められます。
詰め込んだ荷物は、両サイドに広がったウイングをバチッと締めることでコンプレッションが効いて安定します。ヘンな空間ができることもありません。
さすがミステリーランチ、よく考えたなと思います。数十年間、大した変化がなかった2気室構造の革命といってもいいんじゃないでしょうか?
……と、興奮ぎみに書いておりますが、この機構はブリッジャーで初めて採用されたわけではなく、同社のテラプレーンやグレーシャーなどの大型パックにはとっくに搭載されています。ミステリーランチファンにはいまごろなに言ってんのと言われそうですが、この便利さを理解していなかった人は私だけではないはず。ここで興奮してお伝えする意味もあるんじゃないかと思うのです。
少なくとも私にとっては、もうこの機構(SpeedZipシステムというらしい)が付いていないバックパックは、テント山行では使いたくなくなってしまった――というくらいの衝撃でありました。
そのほかのポイントも少しだけ
ブリッジャーでお伝えしたいことは以上です。ほかにも紹介すべきポイントはあるのですが、それはほかのレビューや記事でもさんざん説明されてきたと思うので省略します。
個人的に特筆したいポイントを2点だけ以下に記します。
雨蓋のポケットがガバッと大きく開くので、中に入れた物が取り出しやすい。収容力もたっぷりあります。これは個人的にかなり好きなポイント。雨蓋のポケットが小さかったり開口部が狭かったりするものは行動中に使いにくくて好きではないので。
次に、難点というか疑問に感じたところ。
雨蓋を取り外すとヒップバッグとして使えるのですが、ファスナーを上に向けると、左の写真のようにバランスが悪くなります。体にフィットするように装着すると、ファスナーが下向きになって物を取り出すことができません(右の写真)。
これはベルトの取り付け位置のせいでこうなってしまうのですが、なぜここにベルトを取り付けたのか? 5cmほど取り付け位置がズレていれば問題なかったはずなのに。細かいところまで使い勝手が計算されているブリッジャーにしては、唯一、詰めが甘く感じたポイントです。それともなにか意図があるのかな??
より小型版も出た
じつはブリッジャー55、自分には若干大きいという難点もありました。装備の取捨選択と軽量コンパクト化を長年かけて洗練させていった結果、私はテント山行でも45リットルが適正サイズになっており、55リットルでは容量が少し余ってしまうのです。大は小を兼ねるので別にいいんですが、あと少し小さめだったら最高だったな。
と思っていたところ、なんと今年、ブリッジャー55の機能をそのままに容量だけサイズダウンさせたブリッジャー45が登場しました。パック重量も55より400グラム軽くなっています。うわ、こっちがよかったな……といっても後の祭り。
一般的には55のほうが無理なく使えると思いますが、軽量コンパクト派には45の登場は魅力的かと思います。SpeedZipシステムが付いていませんが、さらに小さいブリッジャー35も同時に登場しています。
どれもミステリーランチらしく、丈夫な生地とパーツを使っており、そうそう壊れそうにありません。そのぶん、最近の軽量パックに慣れた体には少し重く感じますが、使っていて安心感があります。テラプレーンやグレーシャーはとても背負いきれないという人もブリッジャーならいけるはず。新定番とされている理由も納得であります。
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PROFILE
PEAKS / 山岳ライター
森山憲一
『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com
『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com