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イタリアの車事情|筆とまなざし#354

マニュアル車、左ハンドル、環状交差点。極めつけはイタリア人の運転の荒さ。

 フィアット、アルファロメオ、フェラーリ。イタリアは車でも有名な国である。デザイン性の高いメーカーが多いのも特徴で、なるほど、スポルティバやモンチュラなど鮮やかなカラーリングデザインが特徴の山ブランドが多いのも頷ける。

 イタリアへ出かけて気づくのは、レンタカーのほとんど全てがマニュアル車であること。いや、レンタカーのみならずイタリア人は多くの人がマニュアル車を運転しているのである。日本でオートマを運転している僕にはこれが結構大変で、しかも左ハンドルだからさらに混乱する。おまけに信号の代わりにラウンドアバウトと呼ばれる環状交差点が多いため忙しく車を操作しなければいけない。極めつけはイタリア人の運転の荒さである。オルコ渓谷の細いくねくね道でさえ時速80kmでかっ飛ばし、2台も3台も平気で追い抜かしていく。しかも運転席を見るとおじいちゃんやおばあちゃんだったりするからたまらない。

「オートマだとおもしろくないし、イタリアは坂が多いからね。マニュアルのほうがいいのさ。ヨウヘイはそんなに遅く走ってるの?」

 グラチアーノにイタリアの車事情を聞いてみるとそんな答えが返ってきた。

「自分では遅いとは思わないけどねぇ」

 くねくね道も時速60kmくらいでは走っていて日本では決して遅くはないスピードだ。イタリア人の運転の荒さが筋金入りなのはロカーナの街中広場に来ていた移動遊園地で知った。ゴーカートのアトラクションがあったのだけれど、10歳にも満たない男の子も女の子もものすごい勢いで車をぶつけ合って遊んでいたのである。思わず彼女たちの行く末を案じてしまったのだけれど、それよりも妙に納得してしまった感のほうが大きかった。それにしても、滞在中に一度も交通事故現場を見なかったのが不思議である。

 そんな交通事情もあって、今年はより安全運転ができるようにとオートマにした。オートマのレンタカーは少なく、マニュアルより随分高いのが普通なのだけれど、インターネットで格安のオートマ車が見つかったのである。車種はフォルクスワーゲンのポロ。やっぱりドイツである。しかしこのレンタカーがわかりにくかった。予約をするとレンタカー会社のアプリをダウンロードするようにとの連絡。ミラノ中央駅のすぐ目の前で借りられるはずなのだけれど、どこにも事務所が見つからない。右往左往していてわかったのは、事務所自体がないことだった。車は無人の地下駐車場の片隅に停めてあり、全ての手続きをアプリで行なう。車のロックもアプリで操作。なるほど、だから安いわけである。車体はきれいなのだけれど、タイヤは古い印象。まあいいや、やっと車を手に入れられたと、オルコのアパートに向かったのである。

 旅が始まって一カ月がすぎたころ、タイヤから異音が聞こえる気がした。見ると、前輪左のタイヤが1cmほどの大きさで抉れていた。ここから空気が抜けているのかもしれない。放っておくとパンクになりそうだ。そう思って近くの自動車整備工場へ駆け込んだ。日本なら「すぐに替えなきゃダメです」と言われそうだったのだけれど、イタリア人整備士は「ノープロブレム」。本当かなぁと思いながらも、前輪と後輪を替えてもらい、バランス調整をしてもらって旅を続けることにした。街の駐車場でほかの車をみると明らかにタイヤがぺちゃんこだったりして、それに比べればたしかにノープロブレムだと思った。フィナーレリーグレまでの高速ドライブは不安だったが、結局無事に旅を終えることができた。レンタカーを返却したとき、適当そうなイタリア人整備士をようやっと信用することができた。

 ちなみに先日アメリカへ行った友人の話では、ほとんどのレンタカーが自動運転機能付きらしい。同じ時代にあって、この国民性の違いがなんともおもしろいものである。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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