地元の岩場で開拓した「カンカンクラック」|筆とまなざし#355
成瀬洋平
- 2023年12月20日
オルコにいるときでさえ考えていた、心惹かれる地元の岩。
旅から帰ってひと月が経ち、また近くの岩場へ開拓に出かける日々が始まった。海外の岩場もいいけれど、それに勝るとも劣らない魅力がここにもある。オルコにいるときでさえ地元の岩のことを考えていた。遠い近いというのは問題ではなく、心惹かれる岩があるかどうか。それが全てなのだと思う。
先日登ったのは、8月に触ってみたもののにっちもさっちもいかなかったワイドクラックだった。暑くなる前の早朝に出かけたがひどく滑った。しかし滑るという以前にどう登ったらいいのかがわからなかった。100~110度ほどに被ったキャメロット5番サイズで、出だしのフットジャムは3番から4番サイズ。リービテーションは決まるものの足はニージャムが使えず、両手を離すことができない。アームバーの真っ向勝負では辛すぎてすぐに吐き出されてしまう。
このクラックは旅先でもときどき頭をよぎっていたのだが、たまたま本の中で見つけた写真にヒントがあるように思われた。早くトライしに行きたいと思っていたのだが帰国してからは別の仕事が忙しくなかなか叶わなかった。そしてひと月経ってからようやく再訪することができた。
この岩場ではボルダーもルートもグランドアップで登ると決めている。大掛かりな掃除が必要なラインが出てきたら考えることにして、とりあえずそれはいまも継続中である。一便目は真っ向勝負でいってみるも身体極まりテンション。右差し、左差しといろいろやってみるもうまくいかない。そして件のムーブを試してみることにした。アクロバティックな動きがこのクラックでできるかどうかわからなかった。けれど、それは不思議なくらいにうまくハマり、おもしろいようにムーブが繋がった。ワイヤーブラシで苔や土を落としながらトップアウト。スリングを木から伸ばして終了点とし、懸垂しながら掃除。夕暮れ間近の次のトライで登ることができた。
ワイドクラックなど決して好きではなかった。けれどいまは、発想力とテクニックを駆使しながら登るその魅力にすっかり魅了されている。どこにあっても間違いなく三つ星ルートだろうこのワイドクラックを「カンカンクラック」と名づけることにした。クラックの奥に錆びた空き缶が挟まっていて、登りながら苔や結晶がこぼれ落ちるたびに「カンカン」と可愛らしい音を立てたからだ。グレードはさっぱりわからない。終了点を回収するために岩の上に立つと、群青色の空の下に雪を被った山々が白く浮かび上がっていた。
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