はじめてのアイスクライミング、「アイスキャンディフェスティバル」で挑んじゃえ!~初心者体験記~
PEAKS 編集部
- 2024年03月15日
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赤岳鉱泉で例年開かれている、「アイスキャンディフェスティバル」。
「冬山登山の安全啓発」をテーマにした講習会やツアー、アイスクライミングにより親しむ機会を——という趣旨のもと初心者体験会なども行なわれるイベントが、2月3~4日にかけて今年2024年も開催された。
普段あまりなじみがない冬のアクティビティだが、“取りつく”には絶好の機会とのことで、未経験者の編集部見習いコイケが「アイスキャンディフェスティバル2024」にてアイスクライミング初体験。
「ほんとうに初心者でも大丈夫なのか……」と一抹どころではない不安を抱えながら登ったその先に、はたして完登はなったのか…⁉
写真◉宇佐美博之 Photo by Hiroyuki Usami
そもそも、アイスキャンディフェスティバルってナンダ?
ときは2月初めての週末、ところは八ヶ岳・赤岳鉱泉。
南八ヶ岳の稜線をバックに、氷の塊がドデーンと座っていた——。
赤岳鉱泉は、南八ヶ岳で通年営業している山小屋だ。夏山シーズンはもちろんのこと、冬季も硫黄岳やバリエーションルートを目標にする登山者が行き交い、ベース基地としてにぎわいを見せる。
そこに冬の間、重厚にたたずんでいる“氷の塊”は人工氷瀑=氷のクライミングウォールで、その愛称こそが「アイスキャンディ」。鉄骨の足場を組んだところに、初冬から散水による氷結作業を地道に続けて作られていく。
今シーズンは降雨と高温、雪の少なさから水不足となってしまうなか、散水用の水を確保するために小屋番さんたちの間で節水が心がけられ、“氷結職人”がノウハウを駆使して仕上げるに至ったという。
自然がもたらす折々のコンディションに対応して作られた「アイスキャンディ」は、チーム赤岳鉱泉の努力の結晶なのだ!
赤岳鉱泉、冬の風物詩。アイスクライミングのほかにもコンテンツ目白押しなイベント。
週末には初心者体験会や技術講習会が開かれ、アイスクライミング入門の場となっているアイスキャンディ。
2003年にはじまり昨年2023年に20周年を迎えた「アイスキャンディフェスティバル」は、アイスクライミングに手軽に挑戦できる絶好の機会として知名度が高まっていて、いまや赤岳鉱泉の毎冬恒例、冬の風物詩的なイベントといっていい。
アイスアックスやハーネス、縦爪クランポンなどの登攀に必要なギアは、赤岳鉱泉や出展しているアウトドアブランドからレンタルが可能。さらに、第一線で活躍しているアルパインクライマーや山岳ガイドからなる講師陣が手ほどきしてくれると同時に、安全確保を担うビレイヤーも務めてくれる。
赤岳鉱泉、アウトドアブランド、講師陣が三位一体のサポート体制でバックアップ——。アイスクライミング初挑戦にあたって、これほど頼もしいことはない。
ワカン歩行やビーコン捜索の体験会などアイスクライミング以外のアクティビティもあり、ナイトトークショー、無料のBBQ・豚汁の振る舞いから、協賛メーカー提供の賞品をめぐってのじゃんけん大会まで、もうお腹いっぱいなリアルイベントが「アイスキャンディフェスティバル」なのだ。
眼前に氷壁。青空教室で学ぶ、アイスクライミングの“いろは”
「アイスキャンディフェスティバル2024」では、9つのアウトドアブランドがそれぞれイベントを開催した。そのなかで今回は、アイスクライミングの初心者体験会を行なったマムートチームに加えてもらえることに。
ハーネスを腰に着用し、縦爪のクランポンを装着。ヘルメットを被り、サングラスをかけて準備は完了。人生初のことなので、心のもちようも勝手もわからないがひとまず一歩一歩、いまから張りつくことになる氷壁に近づいていく……。
視界に占めるアイスキャンディの面積がかなり大きくなったところで、比例するように心の圧迫感と不安感も出てきた。というのも、遠くから見るぶんには「意外とすんなりいけそうだな」なんて思いなしていたのが、いざ眼前にドデーンと構えられてしまっては、そうはアイスキャンディが卸さないのだ。
思いなしを撤回。「ほんとうに登れるのだろうか……?」と翻意したところで、マムートチームの講師を務めるアルパインクライマーの青木達哉さんと、ビレイをしてくれる山岳カメラマンの三戸呂拓也さんのもとに着いた。
青木さんから手渡されたアイスアックスを握ってみると、「もう少し外向きに回した角度にして、握り直したほうがいいですよ」と早速のアドバイス。
「アックスは狙いを定めて後ろから振りかぶって、遠心力を活かして氷に刺し込むイメージ。最後、刺し込む瞬間に手首のスナップを利かせてあげるといいですね」
フムフム、と首を縦に振りながら青木さんの動きをマネして素振りしてみる。
「振り方はそんな感じ。あとは、最後はできるだけ腕をまっすぐにして突き刺せるように、ですかね」
続いて、足の動きをザッとレクチャーしてくれた。
「腕は振り下ろす先がわかりやすいけど、足については両足が近すぎないように気をつけて。目標点を定めたら、ヒザ下から曲げて蹴り下ろす感じです」
「できるだけカカトを落としてまっすぐに蹴り込むように。怖くなってカカトが上がってしまい、つま先が下がると、どうしても刺さりが浅くなってしまうので」
こちらにもフムフムと相槌を打つわけだが、“素蹴り”をしようものなら、たちまちすっ転びそうなので控えておく。
要点を教えてもらったところでもう1本のアックスも受け取り、2、3歩進んで三戸呂さんのもとへ。
アイスキャンディには、あらかじめ壁面上部に支点が確保されたロープでビレイをしてもらいながら登る「トップロープ」で登っていく。
安全確保を担うビレイヤーを三戸呂さんにお願いし、ハーネスにロープを結んでもらい、さらに歩を進めて氷壁直下へ向かった。
いざ、取りつく!上へ、上へのその先に完登なるか……。
さて、取りつくか——。
まずは教えてもらったとおり、右腕をいったん後ろに引いてから勢いよく切り返し、氷に振りかぶってみる。
しかし、「あれ、刺さらないぞ……」ということで、もう1度振りかぶってみるがうまくいかない。
「ツルツルした傾斜のキツイところじゃなくて、モコモコしたくぼみに引っ掛けるようなイメージで狙ってみて。あと、スナップも少しかけて」
背中ごしにすかさず、青木さんのアドバイスが届く。
「わかりました!」
なるほど、氷壁の表面にはスムーズな箇所もあれば、デコボコモコモコしている箇所もある。間近から見上げると、凹凸が際立つのでよくわかるのだ。あたりかまわず力任せに振り下ろすのではなく、状況を観察してみよう。
そこで右上にモコモコゾーンを探し、目標点をくぼみに合わせクイッとスナップもかけてみると、「お、刺さった!」
アックスの刃の先端、ピックがしっかりと然るべきところに刺さった感覚が返ってきた。
「次は左腕で。右腕とだいたい同じ高さに来るように。両腕の次は足にいく感じです」
「わかりました!」
適当なくぼみにあたりをつけ、左手のアックスを振るう。と、「こっちも刺さった!」
これで両腕のすべき初手は完了したので、次は両足のターンだ。
最初に教えてもらったとおり、右足をヒザ下から曲げて蹴り下ろしてみる。
が、爪の入りが甘く、うまい具合に刺さってくれない。体重を右足にかけようとすると、爪が氷から外れてしまう感じがプンプンする。
……。
そうだ、ポイントは「まっすぐに蹴り込むように」とのことだった。数分前に青木さんから伝授してもらったコツを思い出し、氷に対して斜めにならないように意識して、「フン!」ともう一度蹴り込んでみる。
すると、クランポンと氷壁がガチッとはまった感触。しっかりと刺さってくれた。
その勢いで左足も蹴り込み、両足のターンも終了だ。
初心者向けのラインを登り切るためには、この「腕→腕→足→足」の一連の動きを繰り返していけばいい。
「なんだ、意外と単純な動作の積み重ねでいけそうじゃん」とこのとき思ったは、早とちりだった。
というのも、2振り2蹴り上へ登っていくにつれて、「高所にいる」という本能的な恐怖がもたげてきて腰が引いてしまい、へっぴり腰の姿勢になってしまったのである。
これでは、ヒザから下が氷壁にへばりついた状態になってしまい、アックスとクランポンを効果的に打ち込めない。
進むことも戻ることもできず立ち往生に陥ってしまったのを見て、青木さんからお助けの一声。
「足はしっかり刺し込んでいて大丈夫だから、後ろに体重をかけるようにして体を起こしてみて」
前までとは違い、覚悟の色を決めて返事した。
「わかりました!!!」
理性で本能を制御。腰から曲がった姿勢を起こし、両足を伸ばしてみる。
すると、どうだろう。
クランポンの爪が氷にしっかり食い込んでいるので、重心をつま先からカカト方面に移しても後ろに倒れ込まない。むしろ、すっくと立てたおかげで、アックスの打ちどころを目視しながら狙いを定めて打ち込むことができる。
立ち往生は無事解消、「腕→腕→足→足」で着々と登り進め、このラインを完登することができた。
上まで登り切ると、刺し込んだアックスのピックを氷から抜いて、ビレイヤーの三戸呂さんに呼びかける。
「テンションお願いします!」
ロープを張ってテンションをかけてくれているなか、体重を後ろに傾け両足でバランスを取りながら徐々に降下。
地上に戻り、三戸呂さんにビレイを解除してもらったところで、初アイスクライミング完了となった。
初心者体験会のようすをフォトギャラリー風レポート。
氷壁には、面ごとに人、人、人。
合計で3面あるアイスキャンディのラインに、マムートチームをはじめ各アウトドアメーカーのイベント参加者が順番に登っていく。
「初心者体験会」なのでアイスクライミング用のギアをはじめて身に着け、人生初の氷壁に挑んでいる人ばかりなのだが、講師陣のサポートを背にグングンと上へ、上へ。
なかなか氷に刺し込めず苦戦する人も、ゆっくり着実に登っていく人も、スラスラと進んで講師に「なかなかセンスあるねぇ~」と言わしめる人も、みなさん続々と完登していく。
順番を待っている間にも、ほかの人が登っていくルートを観察したり、同じチーム内で感触や動作のコツを共有したり、講師を務めるその道のプロからコツを聞き出したり——。
クライマーを見上げては声援を送るなど、協力プレーで和やかに進行していくその雰囲気も、このリアルイベントの醍醐味だろう。
さて、先ほどの完登により心が少々浮つきはじめたところだったが、マムートチームの講師を務める国際山岳ガイドの山下勝弘さんから「もう少し難しいほうに行ってみようよ」と一声がかかった。
そう、最初に登ったのは前のめりな傾斜がついた、3面のうちでは初心者向けの面。
チーム全員がこちらを完登したので、次なるラインをすすめてくれたのだった。
ひとつめの面よりは明らかに難しそうだ……。傾斜もしっかりついていて、最上部はほとんど垂直に見える。
ひとまず取りつこうと、アックスの打ちどころや足の蹴り込むスポットを探してみるのだが、手がかりが少なくあたふたしてしまう。
と、そこに山下さんからアドバイスが飛んできた。
「右足は右下の白くなっているところね」「もうちょっと左腕は下のところ」「いや、右足はもうひとつ上の段!」
「わかりました!」と返して、続けざまの具体的な動作指示を実行。手さぐり足さぐりの暗中模索かと思われたところを、プロが見切った“正解”を手取り足取り教えてもらって2振り2蹴り、着実に登っていく。
その調子で前半部分を進み、いよいよ傾斜のきつくなる後半へ。下からも見えていたとおり、氷壁がより立ち上がりそり立って見えてきた。
どうしたものか……としばしフリーズしていると、山下さんの“正解”が届いた。
「目の前に入っているくぼみに体を通らせつつ、腕と足はサイドの両面にかけていくべし」という攻略法を授かり、上へ。
若気の力任せの登り方ゆえに両腕両足がプルプルしてきたため、二、三度の小休止を挟みつつ上へ、上へ。
限界も近いが、立ちはだかる壁に「フンッ!フンッ!」と懸命に両腕を振り上へ、上へ、上へ!
残り少ない余力を振り絞って、なんとか最上部へ登り着くことができた! (トホホ…)
手さぐりで挑んだはじめてのアイスクライミング。気も張っていて体感時間はとても長かったが、どちらのラインも実際は8分ほどの出来事だった。
自分のスタート&ゴール地点を下からも上からも一目で見通せるアイスキャンディでは、登るべき高さも登ってきた高さもわかりやすい。それも相まって、「完登できた!」という達成感をダイレクトに感じられるのも、アイスクライミングの楽しみのひとつなのだろう。
“お膳立て”あってこそのアイスクライミング初体験だったが、スターターにとってこれほど頼もしいお膳立てはそうそうない。取りつきにくいと感じるアクティビティだからこそ「アイスキャンディフェスティバル」は、はじめてのアイスクライミングに挑戦してみたいアウトドアラバーにとって、このうえない絶好の取っかかり的イベントなのだ!
アイスキャンディだけじゃない!イベントあれこれレポート。
イベントのウリは「アイスクライミング」なのだが、ほかにも楽しみどころが詰まっているのが「アイスキャンディフェスティバル」だ。
ナイトトークショー
イベント初日の土曜夜、赤岳鉱泉の食堂にて行なわれたのはゲストスピーカー各氏によるトークショー。
「ヤマテン」でおなじみの山岳気象予報士・猪熊隆之さんが、雪山でのリスクと安全登山のための知識について講演。ついで長野県警察と茅野警察署が、実際のレスキュー現場で記録された映像とともに山岳遭難の現況を報告、安全性を高めるための意識や装備について啓発した。
最後に国際山岳ガイドの江本悠滋さんから、昨年に出場・完走したアドベンチャーレース「Red Bull X-Alps」の報告があり、約2時間とボリューム感あるトークショーを締めくくった。
フード&ドリンクの振る舞い~。
山小屋泊の楽しみは、なんといっても夕食&朝食だ。それに加えてこのイベントでは、夕食後に甘酒・ホットワイン、アクティビティ時間中にBBQ肉、豚汁、コーヒーが振る舞われるなど、コンスタントに美味が提供される。
ただ、食べすぎには(飲みすぎはとくに)注意が必要。
賞品争奪じゃんけん大会
閉会式後にもうひとつの山場がある。大賞品じゃんけん大会!
メーカーコンテンツを出展したアウトドアメーカー、また協賛企業から提供された選りすぐりの豪華賞品をめぐる白熱の運試しだ。「アイスキャンディフェスティバル2024」には過去最多のおよそ220人が参加していて勝ち抜きは至難の業に思えるが、なにせ多くの協賛企業が参加しておりチャンスの幅はそれだけ大きい。
参加者の熱い視線が一点に集中することで会場には一体感が生まれ、「ともにイベントをつくっている」という共通感覚を得られるので、ボルテージのピークを打つような時間となった。
Other Cuts ~そのほかにも~
今回の「アイスキャンディフェスティバル2024」には、YouTuberのMARiA 麻莉亜さんも参加。
イベントのようすを伝える動画もUPされているので、ぜひチェックを!
また、イベントの一環でマイナンバーカードの実証実験も行なわれた。マイナンバーカードを活用し、登山計画書の作成・届け出を可能にするという将来的な展開を見すえたもので、より正確な情報把握や緊急時における救助側の迅速な連携に繋げることを構想しているという。
一抹どころではない不安を抱えながら臨んだはじめてのアイスクライミングだったが、専用のギアや講師陣のサポートを背に、終わってみれば安心安全のうちに初挑戦を満喫していたのだった。
そして、トークショーやじゃんけん大会などの楽しみどころがあり、コンスタントなフード提供もあり、あっという間に2日間はすぎてしまった。
来年以降も、冬の赤岳鉱泉における恒例イベントとして開かれる「アイスキャンディフェスティバル」。
はじめてのアイスクライミングに挑戦するもよし、リピート参加するもよし、ほかのアクティビティを目星にするもよし、である。
ただいずれにせよ、麓の生活で運気を高めてから向かうべし。そうすればきっと、ステキなお土産を携えて下山の途につけるだろう(願望……)。
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。