ベトナム・カットバ島の岩場、バタフライバレーへ|筆とまなざし#362
成瀬洋平
- 2024年02月14日
いっしょに登るはずだった友人夫婦は帰国。レンタルバイクを借りて石灰岩の岩場へ向かう。
ようやくカットバ島に到着した日の夕方、日本から緊急の連絡があり友人夫妻は帰国してしまった。いっしょに登れなくて残念だったが、いちばん残念なのはこの旅を企画した友人である。友人を見送ると、いつものように妻とふたりの旅となった。
翌日からクライミングに出かけた。カットバ島にはフィッシャーバレー、バタフライバレー、ヒドゥンバレーなどのいくつかに岩場があるほか、ボートでアクセスするディープウォーターソロも有名だ。今回はアクセスに大変なディープウォーターソロは割愛し、まずはもっともルート数の多いバタフライバレーへ行くことにした。
島の交通手段はレンタルバイクである。一日100,000ドン、600〜700円ほど。それにしても、ベトナムの通貨の数字の大きさにはなかなか慣れない。たとえば150,000ドンの場合、小数点以下を抜かして英語で「one fifty」と言ってくれると分かりやすい。日本円に計算する際は、今のレートだと6〜7倍すればいいからだ。しかし親切に日本語で「15万ドン」と言われると(ハノイの観光地でしか日本語は聞かなかったが)途端にわからなくなる。安い屋台でフォーが一杯20,000ドンである。それを考えると、そもそも1ドンの商品なんてないのだからこの「0」の連なりは必要なのか? と思ってしまうのだが、物価の上がる前は1ドンのものもあったのかもしれないし、これもベトナムの文化というものだからおもしろい。
街中ではどこでもレンタルバイクが置いてあった。適当なところでバイクを借りる。しかしガソリンのメーターがほとんどエンプティーである。レンタル屋のお兄ちゃんは「あの橋を渡ったところでガソリンを入れてください」と、メインストリートを出たところにある橋を指差して言った。
バックパックを両足で挟みこみ、ふたり乗りをして出発。しかし、橋を渡ったところにガソリンスタンドらしきものはない。代わりにおばちゃんが手を振っている。その後もスタンドはなく、これではガス欠になってしまうと思ったところで、再び別のおばちゃんが手を振っていた。見ると、他の観光客がバイクを停めてペットボトルからガソリンを入れてもらっている。看板には「PETROL」と書かれていた。
バイクを停めてペットボトルからガソリンを入れてもらう。メーターの半分で100,000ドン。高いな、と思いながらもとりあえずこれでクライミングに行ける。バイクに乗るのはひとり暮らしをしていたとき以来、10年以上ぶりだ。道幅は広く、街並みや海を眺めながらの快適なライディングである。ところで、翌日もバイクを借りてバタフライバレーに出かけたのだが、バイクのガソリンメーターはエンプティー。なるほど、返却されたバイクから毎日ガソリンを抜き、再び橋の袂で入れさせるのである。まったく、よくできた仕組みに感心するばかりである。
海岸沿いの道から山手に入り、急な坂のアップダウンを何度か繰り返すと前方の森のなかに立派な石灰岩の壁が見えてきた。道は突き当たりで行き止まりになった。岩場の周辺は放牧地になっていて何頭もの牛が草を食んでいた。バイクを停めて放牧地の小道をたどって岩場へ向かう。アプローチは至便である。岩場は横並びに幾つかのセクターに分かれていた。友人から借りたトポを片手に、まずは易しめのルートが多い左奥のセクターへ向かった。
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