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フランス・シャモニでのクライミングトリップ|筆とまなざし#382

円安の痛手を感じながらもシャモニをベースにクライミング。マルチピッチルートへ。

7月1日に日本を経ち、翌2日にミラノ・マルペンサ空港に到着した。シャモニだけならジュネーブから入るのが一般的だが、オルコに行くためミラノ入りにしたのである。

レンタカーを借りて一路シャモニへ。途中、フェニス城というフレスコ画で有名なお城に立ち寄り、モンブランのイタリア側の登山基地クールマイユールに向かう。クールマイユールからモンブランの山のなかに掘られた全長11.8kmのモンブラントンネルを抜ければもうシャモニである。通過料金は55€。最近のひどい円安で高額だが仕方ない。トンネルが近づくと真っ白く大きな山が迫ってきた。ヨーロッパ最高峰モンブランである。氷河が流れ落ちる谷、鋭くそびえる無数の岩峰。晴れてはいるが、上部はガスがかかって見えない。

トンネルの入り口で料金を払うだけであっけなくゲートを通過。かつて事故火災があったそうで、制限速度が50〜70km、車間距離を150m以上あけなければならないというルールがある。トンネルを抜けるとどんよりとした曇り空の下、深い谷の間にシャモニの街が見えた。

街にはいくつかキャンプ場があるが、中心地に近い、レ・アロールキャンプ場を拠点にすることにした。買い出しや山へ向かうロープウェイ駅に近いので、なにかと便利そうである。

知り合いのガイドふたりがちょうど入れ違いで日本に帰国するということで、調味料やガスカートリッジをもらいに彼らが滞在しているアパートへ向かった。ここのところ天候に恵まれず、あまり思うように登れなかったとのこと。天気予報サイトやガイドオフィス、クライミングショップなどを教えてもらってキャンプ場へ帰った。

翌日は生憎の天気。車で30分ほどの街パシーにあるクライミングショップと大型スーパーへ買い出しに行った。チョークやシングルロープ、そしてガスカートリッジを購入。カートリッジは230gで6.9€、1€170円計算でなんと1173円である。日本だったら600円くらいなのでおよそ倍。フランスメーカーのギアだって日本で買うのと1割程度しか安くなく、食料品も割高。シャモニはリゾート価格なのもあるだろうし、フランスはイタリアより物価が高いというのもあるだろう。元々円安が厳しかったが、出発の数週間前にさらに拍車がかかった。これはなかなか大変な滞在になりそうだ。

翌日はシャモニの街の西側にあるブレバンの岩場へマルチピッチを登りに出かけた。ロープウェイを乗り継いで標高2,500mの山頂駅へ。手軽に行けるが39€。待ちに待った晴れの日ということもあり、目的のルートは大変な順番待ちだった。翌日も晴れだったので、ロープウェイを使わなくても行けるスイスとの国境に近い岩場へマルチを登りに出かけた。アプローチ20分ほどで、300m以上、10ピッチのクライミングが楽しめる。次の日は午前中から雨が降っていたが、被っていて雨でも登れるというスポートルートの岩場へ。思ったよりも立派な岩場で、多くの人で賑わっていた。

ミディ南壁、シャモニの有名ルートへ。

そろそろ山のほうへ出かけたい。2日間の晴れ予報の日を選んでミディ南壁に出かけることにした。エギュー・ド・ミディは、シャモニの街からロープウェイで上がれるもっとも有名な観光スポットだ。標高は3,842m。岩と氷河の世界へひとっ飛びで運んでくれる。その南面が200メートルほどの岩壁になっていて、シャモニでのクライミングのひとつのシンボルにもなっている。なかでも「Rebuffat-Baquet,6a,10ピッチ」というルートは1956年にガストン・レビュファらによって初登されたクラシックルートで、シャモニでももっとも有名なルートの一本だろう。

多くのクライマーが近くの氷河上にテントを張っているのだが、山中でのキャンプは一応禁止されているらしい。近くに避難小屋があり、小さいが無料で使えるという情報を得たのでその小屋を拠点にすることにした。

エギュー・ド・ミディのロープウェイはコロナ以降予約制になった。天気の良い日の朝の便はすぐに予約が埋まってしまうという。避難小屋に先客があると泊まれないかもしれないので前日入りすることにした。バックパックにクライミングギアと画材と寝袋を詰めて、午後4時のロープウェイに乗った。

途中、プランの駅でロープウェイを乗り継ぐと、ものの20分足らずでミディ駅に到着。岩峰の上に作られた駅で、高度感がすごい。駅はクライマーや登山者のほかに観光客でも賑わっていた。こんなに手軽にアルパインエリアに来られるとは。ところで料金は78€、岐阜から東京までの新幹線代より高い。

ベンチでハーネス、アイゼンを装備し、ロープを結ぶ。氷河歩きがあるのでクレバス落下の万一に備えてロープに結び目を作る。アイススクリューとマイクロトラクションもラッキングした。

駅を出るといきなり両側が切れ落ちた雪稜で緊張した。急な斜面を下ると徐々になだらかになり、右手にぱっくりと口を開けたクレバスを迂回するとミディ南壁の全貌が姿を現した。赤茶けた、いかにも硬そうな花崗岩。登るルートのラインを目で追う。南面だが夕方になると日が陰るのがわかった。

氷河を少し下ったところにモンブラン登山の拠点となるコスミック小屋があり、その左の崖の上に小さな小屋が見えた。前日までの雪でトレースは消えていたので先客がいないのがわかる。重荷と高度のせいで意外と時間がかかって小屋に到着。入り口のドアは壊れ、土間の部分はすっかり硬くなった雪に埋められていた。床には抜けそうな板が乗せられているだけで、小屋というよりも廃屋に近い。上段左右にベッドが作られていて、入り口から吹き込む風をまともに受けないぶん、寝るには都合が良さそうである。東面には小さな窓があり、窓越しに眺める山々の風景がすばらしい。夕食を済ませ、翌日に備えて早めに寝ることにした。

住めば都というのはこのことである。快適な一夜をすごし、夜明け間近に目を覚ました。空は明るくなり、快晴。氷河を抱いた山々が逆光に霞んでいる。針峰群とはよくいったもので、本当に針のように尖った岩が無数に連なっている。しばらくその風景に見惚れていると妻がゴソゴソと起き出した。

「うー、頭が痛くて気持ち悪い……もう少し寝させて……」

懸念していた高山病の症状である。一気に標高3,800mまで来れば無理もない。ぼく自身、12年前にユングフラウに登ったときは下山途中にひどい吐き気と頭痛に襲われた。出発前に富士山に登っておきたかったのだが忙しくて叶わず、ミディなら歩く時間も少ないからとぶっつけ本番でやってきてしまったのだった。今晩もここに泊まるしいまは夜の9時をすぎても明るく、それほど急ぐ必要もない。妻の体調が回復するのを待つあいだ、窓越しにそ臨む朝焼けの景色をスケッチした。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

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