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シャモニ・ミディ南壁でクライミング|筆とまなざし#383

シャモニでもっとも人気のあるクラシックルートに取り付く。

 ひと眠りすると妻の体調も少しは回復したようだった。身支度を整えて出発する。遠目にすでに登っているパーティーが見えるのだが、順番待ちをしているから遅めのスタートでちょうどいい。取り付きは基部をほんの少し右に巻いた岩棚の上である。岩と氷河の間にできたシュルンドを避け、慎重に岩棚へトラバースすると、アメリカ人女性パーティーが登り始めようとしているところだった。

 ミディ南壁は、頂上から反対側に懸垂一回でミディ駅に降りることができる。そのため、登山靴やピッケル、アイゼンを背負って登るクライマーも多い。ぼくらは今晩も避難小屋に泊まる予定なので余分な荷物は取り付きにデポすることにした。右隣のルートを懸垂すれば取り付きに戻って来れると踏んだからだ。

 いよいよクライミングスタート。日差しが強く半袖でも登れるほど暖かい。出だしのカンテを左に回り込むと細めのクラックが続いていた。ヨーロッパのルートによくあるように、クラックの横にもボルトが打たれているのかと思いきや、プロテクションにはしっかりカムを使った。ボルトにクリップしてからスラブ面に這い上がるところが、グレードは低いながら悩まされる。少しランナウトして水平クラックをトラバース。わずかにクライムダウンするとハング下のアンカーに到着した。

 次のピッチが、トポに「THE pitch」と書かれたハイライト。S字のクラックが25m続く。登り始めて「おや?」と思う。クラックをアンダーで使うのでプロテクションが取りにくい。残置ピトンを使いながら登るが、ところどころクラックが閉じている。小さなカムを使いながら登っていく。途中にアンカーらしきものがあったが、先行パーティーはさらに上の終了点にいた。つられてそのまま登り続ける。さほど難しくはないがここもプロテクションが取れない。細い水平クラックがあったが2ピッチ繋げてしまったため小さなカムはすでに使ってしまっており、ランナウトを強いられる。少し緊張、いや、絶対堕ちるような場所ではないと言い聞かせ、いやらしいトラバースををこなす。あとは易しいクラックがアンカーまで続いていた。

 シャモニでもっとも人気のあるクラシックルートの一本。グレードも低く入門的だがなかなかタフなルートである。内容も非常に変化に富む。1956年にこのラインを見出し、初登したレビュファの凄さをいきなり思い知らされた。それにしてもこのロケーションがすばらしすぎる。見渡す限り続くモンブランの山々、氷河を眼下に眺め、見上げると真っ青な空。日差しは暖かく、岩は硬い。

 次のピッチは易しく、快適にクラックをたどると広いテラスにたどり着いた。しかし、ここにきて妻の体調が悪化。頭痛と吐き気がひどくなってきたという。あとは最終ピッチまでは易しいピッチが続くが、もうこれ以上は無理だ。名残惜しさを感じないわけではなかったが、下るしか選択肢はなかった。とりあえず、右下に見えるS字クラックの終了点まで下る。もう一度小さくピッチを切って、3回の懸垂で雪面に降り立つことができた。

 さて、降り立った場所は荷物をデポした取り付きではない。クライミングシューズのまま雪面を登り、取り付きへ向かう。当たり前だが非常に冷たく、シューズもびしょ濡れである。登山靴に履き替えるとほっとした。荷物をまとめて避難小屋へと戻った。

 人の声が聞こえて午前1時に目を覚ました。小屋の外に出ると、モンブラン・デュ・タキュルへと続く氷河にヘッドライトの灯りが一列になって続いていた。モンブランの頂上へ向かう登山者だった。見上げると満点の星空。それからなかなか寝付くことができなかった。簡単に朝食を済ませ、コーヒーを飲む。4時ごろになって妻が目を覚ましたが、体調は良くなっていなかった。回復するには標高を下げるしかない。

 見納めだとばかりに氷河の上で景色を目に焼き付け、ミディ駅へと向かった。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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