クライミング小屋建設計画|筆とまなざし#398
成瀬洋平
- 2024年11月20日
実家の敷地内の一画に、クライミング小屋を建てる。
クライミング小屋を作る場所は実家の敷地内に決めた。いまは実家から少し離れた借家に住んでいるのだが、実家の敷地なら今後どこかへ引っ越しても取り壊す必要がない。これまで資材置き場兼駐車場として使われていた広場に建てることにした。
まずは散らばった木材や石材やレンガなどを整理し、周囲に繁茂した草を刈る。メジャーで空き地の広さを測り、左右前後に余裕を持たせて小屋は7メートル四方とした。プライベートウォールとしては十分な広さだ。7メートル以上の木材はなかなか手に入らないので材を継いで使わなければならない。その工夫が必要だけれど、それはまた必要なときに考えることにする。木の杭と麻紐を使って小屋の建設予定地を囲う。基礎にはたくさん散らばっている石やレンガを活用することにした。イタリアのオルコ渓谷の村でよく見た、石造りの納屋がモチーフである。とはいえ、地震の多い日本では石だけで建物を作るのは危険だろう。基礎に石とコンクリートを使って上部は角材で組むことにする。できるなら、小屋が取り壊されたときにほとんど自然に還るもので作りたい。壁は木舞を組んで土壁や漆喰で作れないだろうか。そうすれば夏の暑いときや冬の寒いときにも比較的快適にすごせるはずだ。
かつて、この場所の入り口には小さな沼があった。ぼくがまだ小学生のころのことである。その沼は底なし沼で、一度足を踏み入れてしまうと沼の底まで沈んでしまう……幼かったぼくはそう信じ込んでいた。ある日、5歳年上の姉が沼にはまってしまった。これはまずい。そう思ったがなにもすることができない。たまたま遊びに来ていた父の友人の牧野さんが助けてくれて難を逃れたのだが、その一件は30年以上経ったいまでも覚えている。けれども沼は怖い場所だけでなく、イモリなどの生き物が棲む楽しい場所でもあった。
いつの間にかその沼はなくなってしまったのだけれど、水が集まってくる地形なのだろう、いまも大雨が降るとぬかるみやすい場所である。小屋は沼のあった場所からできるだけ遠ざけた場所に建てるつもりなのだが、水はけを良くすることも考えなくてはならない。
麻紐で囲った建設予定地には草が地面を這うように生えている。その草を鍬で掘り起こしながら取り除いていく。腰にくる、気の遠くなる作業だなと思ったけれど、要領がわかると効率が上がった。土のなかにはたくさんのミミズ。日が当たると蒸し返す草いきれ。そんな草と土の匂いを嗅ぐと、この場所に生きていることを実感する。草のなかからひょっこり、1匹の雨蛙が飛び出してきた。少し薄くて鮮やかな緑色は、まるで翡翠のように美しかった。
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