世界的に有名な台湾の岩場、龍洞でクライミング|筆とまなざし#402
成瀬洋平
- 2024年12月25日
比較的天気が悪く、寒い冬の龍洞。一筋縄ではいかない砂岩のトラッドルートに挑む。
縁あって、台湾の岩場を訪れた。およそ10年ぶり、2度目の訪問である。
台湾は登山がとても盛んな国である。最高峰の玉山は3,952mで富士山よりも高く、3,000mを超える山はじつに200座を越える。九州より少し小さい面積にこれだけ高い山が集中しているのである。それゆえ渓谷も急峻で、近年では難度の高い沢登りでも知られている。
盛んなのは登山だけでなく、クライミングもまた然り。世界的にもっとも知られている岩場は龍洞(Long Dong)で、ぼくが訪れたのもこの岩場である。台北から車でおよそ1時間半。島の北東に位置し、トポには600本弱のルートが掲載されている。
龍洞の岩質は砂岩である。日本の砂岩は柔らかいものが多いが、龍洞はおおむね硬く、縦横にクラックが走っているのが特徴である。とくに水平クラック岩が崩壊した部分がルーフとなっており、第一洞、第二洞と大きなケイブを形成している場所もある。海岸には岩棚が続き、北風が運んできた荒波が勢いよく砕け散る。宮古島とほぼ同じ緯度に位置するにもかかわらず、見渡す景色は東北の日本海側のようである。実際、冬場は天気が悪いことが多く、5日間滞在したなかで青空が見られたのは1日だけだった。薄手のダウンを着込んでも寒いくらいである。
以前訪れたときはあまりクラックを登っていないころで、日本でも鳳来などどっ被りのスポートルートをメインに登っていた。龍洞でもほとんどボルトルートを登っていたのだが、じつはこの岩場の半分はリムーバブルプロテクション(カムやナッツなど)を用いて登るトラッドルートである。今回はこれらのルートを登るのも楽しみのひとつで、カムを3セット用意していった。花崗岩のすっきりとしたクラックと違い、カムのセットもムーブも多様で一筋縄ではいかない。その難しさが味となり、ここでのクライミングを楽しいものにさせてくれる。
クライミングに出かけたのは5日のうち3日間。小雨が降ることもあったけれどケイブの中では登ることができたし、雨後の乾きも早くて天候に恵まれなかったわりには登ることができたのは幸いだった。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。
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