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「だから、私は山へ行く」 #11 矢部華恵さん

10代のころから山歩きを始めたエッセイストの矢部華恵さん。本誌でも山についての文章を多く綴ってきた彼女が、いま、山へ向かう理由。そして、読み手に伝えたいこと。

「だから、私は山へ行く」
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矢部華恵として踏み出す新しい一歩

「いまの私にとって“矢部華恵”でいることが一番しっくりくるというのが大きな理由です。“華恵”という名前は表に出る役として知ってもらっているけれど、じつはほかにもやりたいことがたくさんある。だから30歳になるこの春から、矢部華恵と名乗ることにしました」

華恵から矢部華恵へ。名前を変えた理由を尋ねると、そんな答えが返ってきた。山歩きのことや大好きな本のことをまっすぐな視線で綴ってきたエッセイストの華恵さんは、気になる人に自ら取材・ラジオ出演依頼などもしているという。

「エッセイだけでは表現しきれないことが、いよいよ出てきたんだって思います。まだまだうまく書けないんですけど、時事問題について調べてみたり、シナリオ講座に通ってみたり、絵本のコンテストに応募してみたり。『この人、ぶれてるなぁ』と思われてもいいから、いまはいろいろなことに挑戦したいんです」

山との出会いと先生の教え

小学生のころからモデルと文章を書くことを仕事にしていた華恵さんが、山へ行くようになったのは中学生のとき。写真家のホンマタカシさんに誘われて山梨県の乾徳山に登ったことがきっかけだった。

「どこかの撮影で私が『学校登山が楽しみ』と言っていたのをホンマさんが覚えていて『山、行かない?』と誘ってくれたんです。そのころは山そのものに興味があるというより、山での人間関係がおもしろかったですね。たとえば撮影現場では無口なアシスタントさんが山ですごく頼りになることもあれば、ふだん仕事をバリバリこなす編集者さんが道に迷って焦ることも。それぞれが得意なものをもち寄って歩いていく感じが楽しかったですね」

そんな華恵さんに転機が訪れたのが、高校1年生のときのこと。「山の先生」となる山岳ガイドの今井制夫さんと出会い、本格的な登山やクライミングを教わるようになる。

「先生は山に対して厳しい人でした。たとえばジグザグ道を歩くときに片方の手だけでストックを使っていると『ストックは山側!』と毎回指摘してくれる。見守るというよりも、きちんと言葉に出して言ってくれる人。クライミングでは、日和田山の岩場によく行きました。先生はこれから山岳ガイドの資格を取る人を指導することも多かったのですが、彼らに対する激の飛ばし方はすごく怖くて。『命がけの仕事だから、このくらい真面目にやらなければいけない』ということを遠回しに私にも教えてくれていたのかな。厳しいけれど『この人の言うことを聞いていれば大丈夫』という安心感がある先生でした。それに、高校時代って筋肉がとてもつきやすい時期。自分の体が変化していくことで、岩との向き合い方も変わる。その感覚が楽しくて、山に夢中になりました」

2年間、山の厳しさと楽しさを学んだ華恵さんだが、高校3年生の春に今井さんが病気で他界してしまう。

「いっしょに山へ行く人がいなくなったことと受験の時期だったことが重なって、部活動のように取り組んでいたクライミングはひと区切り。その後は、気まぐれな山歩きがいままで続いている感じです。でも、先生に教えてもらった山の歩き方や岩の登り方、山小屋でのマナーなどは、いまになって『なるほど』と思うことも多いんです。先生は私の山歩きの基礎を作ってくれた人。とても感謝しています」

山を歩くことと文章を書くこと

文章を書くことを日々の中心に置く華恵さんは、いまもときどき山へ行く。それは「街なかで眠らせていた感受性を取り戻す」ためだという。

「ずっと文章を書く生活をしていると、なんにも感動しなくなることがあるんです。文章を書いているときはいい意味で自分に厳しくなっていて、山の風景を『きれい』と感じたことを書こうとした次の瞬間に『いやいや、そんなの誰だって考えることじゃん。つまんないから、ボツ』と否定してしまう。それを繰り返していると、自分が何に感動していたのかわからなくなってしまうんです。そんなときに山に行くと、素直になれるというか、感受性が戻ってくる感じがします。歩き始めに着ていたダウンを脱ぐとき、山の景色に目が慣れてきたとき、沢の音に耳を澄ますとき。山を歩いていて、五感が少しずつ帰ってくるのを感じると『山っていいな』と思います」

山歩きのエッセイも数多く発表する華恵さんだが、山について書くとき、一番伝えたいこととは何か。

「山へ行く理由、です。たぶん山が好きな人同士だとすぐに伝わるんですけど、ふだん山に行かない人に『なぜ山に行くのか』を伝えることって、すごく難しい。だから、山についての文章を書くときは、私が山に惹かれる理由をごまかさずに書きたい。たとえば『山に行ったことで取り戻せる自分があったよ』と書くことで『私も山へ行きたい』と思ってもらえたら、とてもうれしいですね」

 

 

 

矢部華恵さん
1991年4月28日、アメリカ生まれ。10歳からファッション誌でモデルとして活動。2002年に全国小・中学校作文コンクール文部科学大臣賞を受賞。2014年に東京芸術大学音楽学部楽理科を卒業。著書に『華恵、山へ行く。』(山と渓谷社)など

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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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