ヴィンゲゴーが個人総合2連覇。パリ・シャンゼリゼは伏兵メーウスが勝つ|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2023年07月24日
ツール・ド・フランス2023は現地7月23日に閉幕。大会最終日は恒例のパリ・シャンゼリゼでのスプリント。3週間を走り抜いたスプリンターたちの競演は、ヨルディ・メーウス(ボーラ・ハンスグローエ、ベルギー)が勝利。4選手が横並びの混戦を制した。そして、最高栄誉の個人総合優勝は、前日までトップを守ってきたヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)が最後まで走り切ってマイヨ・ジョーヌを確定。2連覇を達成した。
次回大会はフィレンツェ開幕、ニース閉幕
7月1日にスペイン・バスク自治州のビルバオを出発し、第3ステージからフランスに入国。大会序盤から起伏に富んだステージが次々と登場し、第1週ではピレネー山脈と中央山塊。第2週はジュラ山脈とアルプス山脈。第3週ではヴォージュ山脈へ。5つの山脈を越える間にはスプリントステージあり、丘陵ステージあり、個人タイムトライアルステージあり、3週間を通して見どころ満載のレースが展開された。そして、最後を飾るのはパリ・シャンゼリゼ。3週間を走り抜いた選手たちがパレード走行しながら、パリの中心部へと帰還する。
今大会最後のスタート地は、サンカンタン・アン・イヴリーヌ。2024年パリ五輪では、自転車競技のうちトラック・マウンテンバイク・BMXの会場となる。また、ロードレースでも通過地となる。スタートからしばしパレード走行で、途中で4級山岳が申し訳程度に用意されているが、競うことはまず考えられない。パリ市内に入ると、ルーヴル美術館の敷地内を進んで、58.9km地点からシャンゼリゼの周回コースへ。ここから“レース開始”となって、6.8kmのコースを8周回してフィニッシュを迎える。シャンゼリゼでのステージ優勝争いは、スプリンターたちをして「世界スプリント選手権」と言わしめるほど。そんな夢の一戦を終えると、3週間の戦いに終止符が打たれ、今大会の王者、各賞が正式決定する。
“形だけの”リアルスタートが切られると、ファーストアタックはヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー、ベルギー)。終盤ステージでの逃げをはじめ、果敢な走りが評価されて今大会の「スーパー敢闘賞」に選出された。1分ほどリードを得ると、ゆっくりとトップ走行を堪能。しばらくして集団へと戻っている。
パレードの間は、チャンピオンチームのユンボ・ヴィスマがレースに残る7人で記念撮影を行い、シャンパンでの乾杯も。4賞ライダーが残っての撮影タイムなどもあり、多くの選手が長き戦いの労をねぎらいあう。42.8km地点に置かれた4級山岳では、今大会の山岳賞を決めているジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック、イタリア)のために、チームメートのマッズ・ピーダスンとマティアス・スケルモース(ともにデンマーク)が祝福の1位通過を演出した。
選手たちが思い思いにパリ市街地までの道を進み、いよいよ「最後の戦い」へ。ユンボ・ヴィスマが牽引役を引き受けて、ルーヴル美術館のピラミッドの前やコンコルド広場など、パリの名所めぐり。シャンゼリゼの周回コースに入ると、1回目のコントロールライン通過をもって“レース”が始まった。
すぐにアタックが出るもなかなか決まらず。その均衡を破ったのは、個人総合2位とヤングライダー賞のマイヨ・ブランをほぼ手中に収めているタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)だった。1周目の終盤にアタックすると、すぐに集団からリードを確保。ここはユンボ・ヴィスマもネイサン・ファンホーイドンク(ベルギー)がチェックに動いて、2人で10秒ほど先行した。
それからも集団は慌ただしく、3周目に追走を図った8人がポガチャルに追いつく。10選手が前を行く形になったが、4周目には集団へと戻されている。この直後にはサイモン・クラーク(イスラエル・プレミアテック、オーストラリア)のアタックに、ネルソン・オリヴェイラ(モビスター チーム、ポルトガル)とフレデリック・フリソン(ロット・デスティニー、ベルギー)が追随。再びポガチャルがアタックする局面があったが、3人が集団に対して20秒ほどの差をつけて周回数を減らしていった。
残り距離がわずかになって、集団はチームごとにスプリントに向けて態勢を整えていく。自然とスピードが上がって、先頭3人との差は縮小。残り10kmまでに捕まえて、勝負はスプリントにゆだねられた。
パリ市内が小雨に見舞われていたこともあり、最終周回に入る段階でのコントロールライン通過タイムがこのステージの有効記録となることに。これを受けてヴィンゲゴーらユンボ・ヴィスマ勢は集団から下がってウイニングセレブレーションに備えた。
最後のチャンスに賭け、スプリンターチームは激しい位置取り争い。チーム ジェイコ・アルウラーやリドル・トレック、コフィディスなどが前に上がってくる。残り1kmを切ると、ボーラ・ハンスグローエやアルペシン・ドゥクーニンクも前線へ。コンコルド広場を抜けて最後の800m直線に入ると、アルペシン・ドゥクーニンクが主導権を奪った。
残り450mでマチュー・ファンデルプール(オランダ)が満を持してのリードアウト。マイヨ・ヴェール獲得が控えるヤスペル・フィリプセン(ベルギー)を発射するのみとなったところで、ディラン・フルーネウェーヘン(チーム ジェイコ・アルウラー、オランダ)が加速。ここにピーダスンが続き、フィリプセンも狭いスプリントラインを突いて上がってくる。
しかし、この日一番のスピードを見せたのがメーウスだった。3人の逆サイドから駆け上がると、4選手横並び状態でのフィニッシュ。それでも、タイヤ1本分の差をつけて勝利。ツール初出場で初のステージ優勝をシャンゼリゼで挙げた。
「世界スプリント選手権」を制したメーウスは、プロ3年目の25歳。年代別のベルギー王者に就いた経験があり、プロ入り後はステージレースやワンデーレース問わずに活躍の場を広げてきた。それでも、シャンゼリゼでの勝利が記念すべきUCIワールドツアーで最初の勝ち星。最高の舞台で最高の走りを演じてみせた。
そして、ツール・ド・フランスの王座をヴィンゲゴーが防衛した。シャンゼリゼ周回に入ってからは淡々とレースを進めて、最後周回はチームメートとのウイニングライド。大会を途中離脱したワウト・ファンアールト(ベルギー)をのぞく7選手が横一列に並び、喜びの瞬間を迎えた。
マイヨ・ジョーヌを戴冠したヴィンゲゴーは、1986年12月10日生まれの26歳。2019年に現チーム入りし、ツール初出場だった2021年大会で個人総合2位。以来、グランツールレーサーの仲間入りを果たし、自国デンマーク開幕だった前回大会でツール初制覇。今季は2月にスペインでシーズンインすると、3月のパリ~ニース個人総合2位、4月のイツリア・バスク・カントリーと6月のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは個人総合優勝と、出場するレースすべてでハイクオリティーな走りを見せていた。そして、迎えたツールではポガチャルらとの戦いを制し、2連覇を達成した。
勝ったヴィンゲゴーと2位ポガチャルとの最終的な総合タイム差7分29秒は、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)がジャンクリストフ・ペロー(フランス)に対し7分37秒差とした2014年大会以来の大差に。2人に続く個人総合3位には、アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ、イギリス)が入った。
その他の賞では、ポイント賞のマイヨ・ヴェールにフィリプセン、山岳賞のマイヨ・アポワにチッコーネ、ヤングライダー賞のマイヨ・ブランにポガチャルがそれぞれ輝いている。また、チーム総合はユンボ・ヴィスマが獲得している。
全21ステージ・総距離3405.6kmに及ぶ世界最大の戦いは、これで閉幕。次回2024年大会は、イタリアのフィレンツェで開幕、フランス・ニースで閉幕することが決まっている。
ステージ優勝 ヨルディ・メーウス コメント
「今日は間違いなくキャリア最高の1日だ。ここ数日は状況が改善される可能性を感じていた。実際に結果を出せてとてもうれしい。今日はレース中を通じて調子が良かったし、フルアクセルになった段階でも脚の感触も問題なかった。スプリントに向けてはマルコ・ハラーが最高のポジションに導いてくれた。ピーダスンをマークし、彼のスリップストリームから加速した。ツールの初勝利がこのタイミングだなんて本当に信じられない」
個人総合時間賞 ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「とても誇らしい。デンマークからたくさんの人が駆けつけてくれて、最高の気分だった。チームと家族だけではなく、デンマーク国民全員に感謝したい。みんなが私をサポートしてくれたと思っている。
長い旅だったが、あっという間だった。タデイとの毎日の戦いはとても充実していて、非常にハードだった。ツールには来年必ず戻ってきて、3連覇ができるようトライしたい。それがいまの最大の計画だ」
ツール・ド・フランス2023 第21ステージ結果
ステージ結果
1 ヨルディ・メーウス(ボーラ・ハンスグローエ、ベルギー) 2:56’13”
2 ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)ST
3 ディラン・フルーネウェーヘン(チーム ジェイコ・アルウラー、オランダ)
4 マッズ・ピーダスン(リドル・トレック、デンマーク)
5 ケース・ボル(アスタナ・カザクスタン チーム、オランダ)
6 ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、エリトリア)
7 ブライアン・コカール(コフィディス、フランス)
8 ソーレン・ヴァーレンショルト(ウノエックス・プロサイクリングチーム、ノルウェー)
9 コービン・ストロング(イスラエル・プレミアテック、ニュージーランド)
10 ルーカ・モッツァート(チーム アルケア・サムシック、イタリア)
個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク) 82:05’42”
2 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)+7’29”
3 アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ、イギリス)+10’56”
4 サイモン・イェーツ(チーム ジェイコ・アルウラー、イギリス)+12’23”
5 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ、スペイン)+13’17”
6 ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)+13’27”
7 ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストラリア)+14’44”
8 フェリックス・ガル(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストリア)+16’09”
9 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)+23’08”
10 ギヨーム・マルタン(コフィディス。フランス)+26’30”
ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)
山岳賞(マイヨ・アポワ)
ジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック、イタリア)
ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合時間賞
ユンボ・ヴィスマ 247:26’17”
- CATEGORY :
- BRAND :
- Bicycle Club
- CREDIT :
- TEXT:福光俊介 PHOTO: A.S.O. / Pauline Ballet A.S.O. / Charly Lopez
SHARE
PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。