ジロ・デ・イタリア2022は過去に類を見ない山岳比重の3週間。コース全容が明らかに
福光俊介
- 2021年11月15日
INDEX
3週間で走破する3410.3kmのうち、個人タイムトライアルの総距離はわずか26.3km。これは過去60年間で最短の数字……。
このほど、ジロ・デ・イタリア2022のコース全容が明らかになった。既報のとおり、東欧・ハンガリーで開幕から3日間過ごし、第4ステージ以降は本来の舞台であるイタリア各地をめぐる。グランツールの個人総合争いにおける重要な要素である個人タイムトライアルは2ステージと、ここ数年のステージ編成としては変わりないが、その距離が短く、いつもとは違った意味合いをもつことになりそうだ。いっぽうで、山岳比重が高まり、ピュアクライマーにとってはチャレンジ精神を駆り立てる大会となることだろう。
3週間の総獲得標高は約51,000m!!
©︎ LaPresse 2021年のジロより
ジロ2022年大会のコースを明らかにするにあたって、主催者RCSは少々イレギュラーな手法を用いた。先日お届けしたとおり、開幕地ハンガリーでの3ステージについては同地でのプレゼンテーションを行ったが、残る18ステージについては11月8日から11日まで、平坦・丘陵・山岳・最終日&全体ステージ編成と、4回(1日1回)に分けてコースを発表していった。
カテゴリーごとに明らかになった各コース。スタート・フィニッシュ地とレイアウトも発表されたが、それだけでは大会何日目に設定されたステージなのかが読めず、日を追うごとに観る者の緊張感をあおった。
そして迎えた11日。大会を締める第21ステージがヴェローナでの個人タイムトライアルであることを打ち出すとともに、全21ステージ・総距離3410.3kmの全容が公開されたのだった。
そこで分かったのは、個人タイムトライアルの距離の短さとともに、山岳比重の高さだった。総獲得標高は約51,000mにも上り、近年のグランツールのなかでもとりわけ過酷なルーティング。後述するが、ハンガリーでの3日間を終えてイタリアへ移動すると、すぐに本格山岳ステージが登場するなど、大会序盤からマリアローザを意識した戦いがはじまりそうだ。
個人タイムトライアルの意味合いについては、「1つ(第2ステージ)はマリアローザを数日間着られるチャンスになり、もう1つ(第21ステージ)はこのジロを決めるものとなる可能性がある」と大会ディレクターのマウロ・ヴェーニ氏。2ステージ合計の距離こそ短いが、大会の方向性を左右する重要なステージとなることを示唆している。
エトナ、ブロックハウスを上る第1週
ジロ2022の開幕は5月6日。すでに発表されているとおり、ハンガリーの首都・ブダペストで幕を開ける。同国内では3ステージを走った後、イタリアへの移動日が設定される。目的地は南部のシチリア島だ。
イタリアでの初日となる第4ステージは、今大会最初の山頂フィニッシュとしてエトナ山を上る。ルート的には2018年にも採用された南側のラガルナからの登坂。中腹に控えるわずかな下りも特徴的だ。翌日の第5ステージまでシチリア島を走る。
第6ステージからイタリア本土へ。ティレニア海を横目に進み、第7ステージでは獲得標高が約4,490mの丘陵区間を走行。第8ステージでは、ナポリを基点とする海沿いの周回コースが採用される。
第1週の最後となる第9ステージは、アペニン山脈のブロックハウスを上る山岳ステージ。長い急坂でこの大会の形勢がある程度見えてくることだろう。
丘陵ステージが多い「つなぎ」の第2週
休息日明けの第10ステージは、詩人ジャコモ・レオパルディの生まれ故郷レカナーティ、2017年にトレーニング中の事故で命を落としたミケーレ・スカルポーニの故郷であるフィロットラーノを経由するメモリアルデー。続く第11ステージはオールフラットでスプリンター向けの1日。
丘陵ステージにカテゴライズされる第12ステージは、終盤の2級山岳がポイント。フィニッシュ地ジェノバへと向かう下りは、逃げ切りを狙う選手にとって重要なダウンヒルとなる。
前半に控える3級山岳以外はさほど難しくはない第13ステージ、トリノを基点とする周回コースを走る第14ステージとこなして、週の最終日・第15ステージでアルプス山脈へ。山頂フィニッシュのコーニュへ向かう上り自体は2級山岳だが、その前に2つの1級山岳を越える必要があり、それもレース後半に集中。フィニッシュ前80kmのうち46kmほどが登坂区間で占められており、消耗戦の様相を呈する可能性が高い。
アルプス、ドロミテの山々が勝負を決める第3週
©︎ LaPresse 2021年ジロより
運命の第3週。その初日となる第16ステージは、ゴレット・ディ・カディーノ、パッソ・デル・モルティローロ、サンタ・クリスティーナと3つの1級山岳越えが待ち受ける。獲得標高は5,440mであるうえに、サンタ・クリスティーナからフィニッシュ地・アプリーカまでの約6kmのダウンヒルもポイントになる可能性がある。
続く第17ステージもタフな山岳ルート。スタート直後から上りが控え、一度下るがレース後半に2つの1級山岳が待ち受ける。とりわけ、2つ目の1級山岳であるモンテ・ロヴェレは第一次世界大戦中にオーストリア・ハンガリー軍が敷設した道路を採用し、この大会の開幕地とのリンクを図っている。
第18ステージは2022年大会最後の平坦ステージ。ポイント賞「マリアチクラミーノ」の行方はどうなるか。同様に最後の丘陵ステージとなるのが第19ステージ。途中で隣国スロベニアを通過するが、その最中で上る1級山岳コロヴラトがレースの流れに大きな意味合いを持つことになりそうだ。逃げによるステージ優勝争いとなれば、確実に絞り込みが行われるだろう。
この頃にはマリアローザ争いの有資格者はどの程度の人数になっているだろうか。泣いても笑っても、最後の2日間で決定する。「クイーンステージ」に位置付けられるのが第20ステージ。標高1,918mの1級山岳パッソ・サン・ペッレグリーノ、この大会のチーマ・コッピ(最高標高地点)似せて地されるパッソ・ポルドイ、ジロではおなじみの2つの上りを越え、いったん下った後にアタックするのが登坂距離14km、平均勾配7.6%のマルモラーダ。頂上を目指すルートのパッソ・フェダイア(フェダイア峠)は高低差にして1,062mで、フィニッシュ前約3kmで最大勾配18%に達する。この上りを誰が制するか、またマリアローザ争いが大筋決しているのか、はたまたもつれているのかでも、翌日のステージの色合いは変わってくる。
©︎ LaPresse 2021年ジロより
その大きな1日は、全日程の最後・第21ステージ。ヴェローナでの17.1km個人タイムトライアル。この街で大会が閉幕するのは5回目となる。今回はコース半ばに4級山岳があり、上りと下りを含めたペースコントロールがカギとなる。果たして、混戦の総合争いを決めるステージとなるのか、あるいはマリアローザのウイニングライドとなるのか。いずれにせよ、最終目的地となる円形劇場アレーナに到達したときに、ジロ・デ・イタリア第105回大会のすべてが決まる。
ジロ・デ・イタリア2022 ステージ一覧
5月6日 第1ステージ ブダペスト~ヴィシェグラード 195km 平坦 ★★
5月7日 第2ステージ ブダペスト~ブダペスト 9.2km 個人タイムトライアル ★★★
5月8日 第3ステージ カポシュバール~バラトンフィレド 201km 平坦 ★
5月9日 休息日(移動日)
5月10日 第4ステージ アーヴォラ~エトナ 166km 山岳 ★★★★
5月11日 第5ステージ カターニア~メッシーナ 172km 平坦 ★★
5月12日 第6ステージ パルミ~スカーレア 192km 平坦 ★★
5月13日 第7ステージ ディアマンテ~ポテンツァ 198km 丘陵 ★★★★
5月14日 第8ステージ ナポリ~ナポリ 149km 丘陵 ★★
5月15日 第9ステージ イゼルニア~ブロックハウス 187km 山岳 ★★★★★
5月16日 休息日
5月17日 第10ステージ ペスカーラ~イェージ 194km 丘陵 ★★★
5月18日 第11ステージ サンタルカンジェロ・ディ・ロマーニャ~レッジョ・エミリア 201km 平坦 ★
5月19日 第12ステージ パルマ~ジェノヴァ 186km 丘陵 ★★★★
5月20日 第13ステージ サンレモ~クーネオ 157km 平坦 ★★
5月21日 第14ステージ サンテナ~トリノ 153km 丘陵 ★★★★
5月22日 第15ステージ リヴァローロ・カナヴェーゼ~コーニュ 177km 山岳 ★★★★
5月23日 休息日
5月24日 第16ステージ サロー~アプリーカ 200km 山岳 ★★★★★
5月25日 第17ステージ ポンテ・ディ・レーニョ~ラヴァローネ 165km 山岳 ★★★★
5月26日 第18ステージ ボルゴ・バルスガナ~トレビーゾ 146km 平坦 ★
5月27日 第19ステージ マラーノ・ラグナーレ~サンチュアリオ・ディ・カステルモンド 178km 丘陵 ★★★★
5月28日 第20ステージ ベッルーノ~マルモラーダ(パッソ・フェダイア) 167km 山岳 ★★★★★
5月29日 第21ステージ ヴェローナ 17.1km 個人タイムトライアル ★★★
総距離 3,410.3km(大会開催までに距離調整あり)
平坦ステージ 7
丘陵ステージ 6
山岳ステージ 6(うち山頂フィニッシュ4)
個人タイムトライアルステージ 2
休息日 2
移動日 1
SHARE
PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。