ジロ・デ・イタリア2022有力選手プレビュー、マリアローザは誰が着る!?
福光俊介
- 2022年05月04日
2022年のロードレースシーズン最初のグランツールであるジロ・デ・イタリアが5月6日、ハンガリー・ブダペストでスタートする。3週間かけて、総距離3445.6kmを走る長き戦い。出場全22チームの顔触れが出そろったところで、今大会の活躍が期待される選手たちを挙げていきたい。
3年ぶりの頂点目指すカラパス 絶好調S.イェーツ、若さのアルメイダにもチャンス十分のマリアローザ争い
前回覇者のエガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)は欠場。現在は事故によるケガからの回復を図りながら、少しずつトレーニングを始めているが、事故がなくとも今年はジロを回避する予定だった。代わって、イネオス・グレナディアーズのエースを務めるのはリチャル・カラパス(エクアドル)だ。
前回大会の勝者に与えられるゼッケン1番を引き継ぐカラパス。今大会の出場選手の中でも、経験と実績は群を抜いている。ジロ参戦は個人総合優勝を果たした2019年大会以来となるが、ときにライバルを圧倒する登坂力や勝負強さで2回目の頂点を目指す。山岳アシストにリッチー・ポート(オーストラリア)やパヴェル・シヴァコフ(フランス)といった、自身も総合成績を狙えるだけの力を持つ選手をそろえた。チーム力でも今回は一番と見てよさそうだ。
しっかり今大会に合わせてきた印象なのが、サイモン・イェーツ(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)。直前のブエルタ・アストゥリアス(スペイン)ではステージ2勝して、最高の仕上がりをアピール。今季はタイムトライアル能力の向上が著しく、3月のパリ~ニースのTTステージで好走。また、パリ~ニースとアストゥリアスでは独走で勝つシーンもあり、要所でアタックを決めて逃げ切る展開がジロでも見られるかもしれない。そうなると、総合タイムを一気に稼いで優位に立つチャンスである。
前々回大会で15日間マリアローザを着用し、一躍注目を集めたジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)は、いよいよジロの頂点に立つチャンスがやってきた。今季はここまでボルタ・ア・カタルーニャでのステージ1勝だけだが、早くからジロを目指すと公言していたこともあり、着々と仕上げているとみてよさそう。グランツールで絶大な力を見せる現チームへと今季加入し、充実のバックアップを受けられる点も大きい。気になる点を挙げるなら、タイムトライアルの距離が短く、得意のシチュエーションでタイムを稼ぎ出すことがさほどできなくなるあたり。そこは向上する登坂力でしっかり埋め合わせしたい。
複数リーダー制を敷くチームがどのように戦いを進めていくかも見もの。バーレーン・ヴィクトリアスは、ペリョ・ビルバオ、ミケル・ランダ(ともにスペイン)、ワウト・プールス(オランダ)。アスタナ・カザクスタン チームは、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)、ダヴィ・デラクルス(スペイン)。ボーラ・ハンスグローエは、ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)とジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)をそれぞれ立てる。
バーレーン・ヴィクトリアスは、直前のレースではビルバオが好成績を挙げており、それをランダがサポートする形が多かった。グランツールの実績だけ見ればランダが上を行くが、本番では果たして。
アスタナ・カザクスタン チームは、ハンガリーからイタリアへ舞台を移してすぐのシチリアステージで島のヒーローであるニバリを前線へ送り込むことだろう。ただ、長い戦いを見据えるなら、ロペスでマリアローザを狙っていくことが現実的。苦手の個人タイムトライアルの総距離が短いこともプラスになるか。
2年前の再現、そしてその上を狙っていくのがケルデルマンとヒンドレーのコンビ。あの時はチーム サンウェブ所属だったが、今回はボーラ・ハンスグローエとダブルリーダーとして臨む。グランツールでの実績も十分なエマヌエル・ブッフマンとレナード・ケムナ(ともにドイツ)がバックに控えており、チーム力の高さも重要な要素。
忘れてはならないのが、トム・デュムラン(ユンボ・ヴィスマ、オランダ)の存在だ。最終日の大逆転でジロを制してから5年。再び総合エースとしてこの大会に戻ってくる。昨年は一時的に戦線を離れて休養したが、復帰後は時間をかけつつ状態を戻してきている。今年はここまでビッグリザルトはないものの、チームは自信をもって彼をリーダーに擁立した。前回個人総合9位のトビアス・フォス(ノルウェー)とサム・オーメン(オランダ)が脇を固め、デュムランの上位進出を後押しする。
グランツールの個人総合トップ10常連のギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)やヒュー・カーシー(EFエデュケーション・イージーポスト、イギリス)、直前のツアー・オブ・ジ・アルプスを制したロマン・バルデ(チーム ディーエスエム、フランス)あたりも、実力通り走れば戦線をにぎわせるはず。今季限りで引退のアレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム、スペイン)、開幕地ハンガリー国民の期待も大きいアッティラ・ヴァルテル(グルパマ・エフデジ)の走りにも注目したい。
マチューやギルマイの参戦でマリアチクラミーノ争いは群雄割拠に
マリアローザ争いに引けを取らないくらい、ポイント賞「マリアチクラミーノ」をかけた勝負も激戦となりそうだ。
最大のトピックはマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス、オランダ)の参戦だ。故障の影響でシーズンインが3月と遅れ、出走レース数の少なさを懸念。あくまでツール・ド・フランスを最大目標としており、そこから逆算して必要なレース数をジロで埋め合わせしていく公算だ。とはいえ、調子の良さは春のクラシックで証明済み。上りフィニッシュの第1ステージからチャンスはあり、そのままポイント賞争いの中心に立つ可能性さえある。「必要レース数」が満たされた時点で今大会から離脱することも考えられるが、3週間走り切るとなればそれなりの成果は挙げられていることだろう。
純粋なスプリントであれば、カレブ・ユアン(ロット・スーダル、オーストラリア)の右に出る者はいない。チームとしてユアンのスプリントに賭けるシフトを敷いており、平坦ステージではレースをコントロールするはず。ロット・スーダルは現在、UCIワールドランキングで低迷しており、今季終了後に入れ替えが予定される同ワールドチームのリストから漏れる可能性が出てきている。グランツールは格好の稼ぎどころであり、その意味でもユアンのスピードに託されるものは大きくなる。
マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファヴィニル、イギリス)は、ひとまずジロへ乗り込む。本人は昨年に続くツール出場を望むが、チーム事情もありそれがかなわない可能性が高い。かすかな希望を抱きながら、当初から出場が予定されていたジロを迎えていることが、“ひとまず”と表した理由だ。そんな状況下でも、発射台を務めるミケル・モルコフ(デンマーク)らリードアウトマンをそろえて、勝利量産へ条件は整っている。カヴェンディッシュ自身も今季は3勝を挙げており、状態はよさそうだ。
ヘント~ウェヴェルヘムに勝って一躍ヤングスターとなったビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、エリトリア)は、スプリント戦線の構図を大きく変えるかもしれない。初のグランツールだが、チームがエースナンバーを与えたあたりに期待度の高さをうかがわせる。好調のチームによる後押しも十分で、今大会のラッキーボーイへ一気に駆け上がることだってありうる。マリアチクラミーノ争いのダークホースとして押さえておきたい。
アルノー・デマール(グルパマ・エフデジ、フランス)、ジャコモ・ニッツォーロ(イスラエル・プレミアテック、イタリア)のマリアチクラミーノ経験者を見落とすわけにはいかない。ともに今季は未勝利だが、経験は豊富とあってジロにしっかり合わせてくるはず。直前のエシュボルン・フランクフルトで2位のフェルナンド・ガビリア(UAEチームエミレーツ、コロンビア)、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで3勝を挙げたマグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト、デンマーク)もきっかけひとつで大躍進の可能性を秘めている。
その他の見どころ
25歳以下の選手が対象のヤングライダー賞「マリアビアンカ」は、マリアローザ候補でもある23歳のアルメイダが順当にいけば袖を通すことになるだろう。
大会最初のマリアローザ着用者が決まる第1ステージは、上りスプリントとなる可能性が高い。総合系ライダーが初日から勝ちに行くことは考えにくく、上れるスプリンターやパンチャーが有利とみられる。ファンデルプールやギルマイあたりが有力視されるが、思わぬ伏兵が現れても不思議ではない。
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。