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峠の肖像 #1 渋峠(群馬・長野)

最高標高地点、とはいい響きである。ナントカは高いところに登りたがるという格言があるが、サイクリストも高いところに登りたがる。日本の国道最高標高地点、渋峠(しぶとうげ)には、何度でも訪れたくなるそんな表情がある。

国道最高地点の肖像

分水嶺たる峠というものは古来から文化圏の境界であった。渋峠はいまも群馬県と長野県の境に位置する。境界とはふたつの世界を分け隔てる線であると同時に、唯一の接触面である。それぞれに違う魅惑の山容を誇る両県の出会いの場が渋峠だとすれば、国道最高地点という看板がなくともこの峠を登る理由は充分にあるというものだ。

日本有数の「火山の道」

渋峠は国道292号線に属する。群馬県の草津温泉から長野県の湯田中・渋温泉を結ぶおよそ40kmの山岳路は、志賀草津高原ルートの名でも親しまれている。おおよそ、どちら側から登っても登坂距離約20kmの超級山岳である。

この地で教鞭をとり、『白根火山』の著書がある下谷昌幸氏はこの志賀草津高原ルートを「日本でも有数の“火山の道”」と評している。火山の副産物たる草津温泉の湯けむりをくぐり走り出すこと5kmほど、しばらくの森林地帯を抜け視界が開けたその瞬間に、サイクリストはそれを体感することになる。

殺生河原の名にふさわしい、荒涼とした火山地帯が眼前に開ける。ここまで登ってきた少し息の切れるタイミングで、サイクリストは硫黄の香りを味わうことになる。噴煙立ち上る死の世界を抜けると、いよいよ渋峠はその雄大さを持ってライダーを出迎える。

日本でも有数の酸性湯で知られる草津温泉の、源たる白根火山帯は、土壌も酸性で草花もまばら。森林限界は通常標高2500m付近からで日本の国道でこの標高を満たす場所はないが。しかし渋峠はこの地質によって擬似的な森林限界を持ち、登るにつれルート脇には岩肌が目立つようになる。

大地が生きている

ここが火山の道であることは、渋峠を走る際には充分に知っておくべきだ。単なる絶景の峠道ではない。2018年に突如として本白根山が噴火し、1名が死亡、11名が負傷するという凄惨な天災に見舞われた。休火山と目されていた本白根山の想定外の噴火により、拳大以上の噴石が降り注いだという。上記の噴火活動からしばらくは通行止めとなっていたが、噴火警戒レベルが1に引き下げられ車両の通行が認められるようになったのは近く2021年の春である。

今も、峠を登っているとコンクリート製の避難所がしばしば目に入る。この物々しいシェルターに逃げ込まなければならない可能性は、ゼロではない。いったん勾配が緩み、万座三叉路を超えて再び登った標高2000m付近では、遠くの岩肌から水蒸気が立ち上るのが見える。地球が生きていることを、改めて知る思いがする。

かつては牛道と呼ばれていた

晴れた渋峠は絶景としか呼べない風景が広がる。どこか浮世離れした、グランツールで観る超級山岳のような趣に、登坂の苦しみすら美観のスパイスだと感じられる。一方で、雨の峠道はまた、違った表情を見せる。黒光りする天空への道のりは、陰鬱だが、毅然としてもいる。霧に包まれ眺望をのぞむべくもないが、それがために下界と隔絶された世界で、ただ雨がジャケットとヘルメットを叩く音を聞きながら淡々と登るのも悪くない。春先には、消えゆく雪を惜しむスキーヤーの姿が視界に入るかもしれない。私達は雨でも2000m超えの山頂を目指すサイクリスト。誰もが物好きなのだ。

雨でも国道最高標高を踏もうと物好きなドライバーがクルマを走らせている。いまでこそクルマはもちろん、自転車もこうして走れる渋峠だが、道路として整備開通したのが1965年、全線舗装路が敷かれたのは1970年のこと。マイカーブームの観光道として当時は有料道路であった。だが自動車が登場する遥か前には、この道は長野方面と草津温泉を結ぶ文字通りの峠道であった。善光寺詣での旅人や、草津へ湯治目的の人が行き交う通行路だったが、同時に悪路でもあり、馬が通れず牛道とも称されたという。

舗装路面をロードバイクで走る限り、悪路の面影を探すことは難しい。ただ登るにつれ薄くなる空気と、緩斜面ながら20km近くを登り続けているというその事実だけが、渋峠の過酷さをサイクリストに伝えている……。

国道最高地点の証

再び視界が開け、常に吹きさらしの短い下り坂を終えて上りの最終セクションへと入る。もう日本国道最高地点へはあと少しだ。冬の間は閉ざされる渋峠が車両に開かれるのは例年4月の終わり。この時期には、最高地点付近には見事な雪壁を見ることができる。

登坂距離18km、獲得標高で約1000mを登ったら、日本国道最高地点の石碑前に写真撮影に並ぶ権利はある。雪壁の無い季節でも、この石碑が厳しくも美しい渋峠へのヒルクライムを達成したことを証してくれるだろう。

峠としての山頂は国道最高地点からさらに先にある。ここが群馬と長野の県境であることを、渋峠ホテルの味わい深い壁面にみることができる。いわゆる山のホテルだが、近年はサイクリストの宿泊も多いと聞く。合宿を張るクラブチームもいるらしい。渋峠から見る朝焼けはいかほど美しいだろうか。

遠方のサイクリストには、草津温泉に滞在しての渋峠ライドをお勧めしたい。必然的に山頂での折返しとなるが、標高2172mからの20km近いダウンヒルが待つ。盛夏以外は必ずウィンドジャケットを携行すること。

下り切れば、草津の名湯が待つ。長い長いダウンヒルに、登りに喘ぎながら見ていた風景を追体験しよう。下っていても、そのスケールの大きな超級山岳の魅惑に酔いしれることだろう。

薬効ゆたかな草津温泉は古来から湯治に利用されてきた。しかしこの地の唄に歌われるように、治せないものもあるという。

「♪お医者でも草津の湯でも恋の病はなおりやせぬ」

下りながらあなたはもう、再び渋峠を登りたいと希求している。草津温泉に浸かったとて、峠道への恋心は止むことはないのである。

渋峠(草津温泉側からのアプローチ)

登坂距離18km
獲得標高1000m
平均勾配5%
Stravaセグメント

渋峠を走ったギア

POC―Ventral Lite WF & Elicit

北欧ミニマリズムの追求|POC
記事はコチラから

PEARL iZUMi―Windbreaker

超級山岳のお守り
ウインドブレーカー|PEARL iZUMi 記事はコチラから

Pirelli―P ZERO™ RACE

伝統のブランドのハイパフォーマンスクリンチャー|Pirelli
記事はコチラから

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PROFILE

小俣 雄風太

小俣 雄風太

アウトドアスポーツメディアの編集長を経てフリーランスへ。その土地の風土を体感できる方法として釣りと自転車の可能性に魅せられ、現在「バイク&フィッシュ」のジャーナルメディアを製作中。@yufta

小俣 雄風太の記事一覧

アウトドアスポーツメディアの編集長を経てフリーランスへ。その土地の風土を体感できる方法として釣りと自転車の可能性に魅せられ、現在「バイク&フィッシュ」のジャーナルメディアを製作中。@yufta

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