ロードレース2022年シーズン10大ニュース グランツール・シーズン後半編|ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2022年12月29日
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vol.50 新型コロナ禍を乗り越えロードレース界復興のシーズン。
グランツールや世界選では若き王者が誕生
国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。2022年シーズンの振り返りは、後編としてグランツールやシーズン後半の話題をまとめていく。いま一度、今年のビッグトピックをおさらいしよう!
シーズン前半編はこちら。
ロードレース2022年シーズン10大ニュース(グランツール・シーズン後半編)
6.エリトリア人ライダー、ビニヤム・ギルマイが“アフリカ初”づくしの大活躍
アフリカ大陸が誇る自転車王国エリトリアからヤングスターが誕生したのは、3月27日のヘント~ウェヴェルヘムでのこと。「北のクラシック」に数えられる伝統レースで、4人による優勝争いを制したのが、当時21歳のビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)だった。
昨年のUCIロード世界選手権では、アンダー23部門で銀メダルを獲得。今年に入って石畳系のレースを中心に前線へ顔を見せており、プロトン内での注目度も高まっていた中で、その見方に違わないビッグサプライズ。アフリカ人ライダーとしては、初めてのクラシックレース制覇でもあった。
これで完全にトップライダーの仲間入りを果たしたギルマイは、グランツール初出場となったジロ・デ・イタリアでも快走。第1ステージで2位に入ると、第10ステージで劇的な勝利。エリトリア人選手としてはもとより、純アフリカ系選手としても初めてとなるグランツールでのステージ優勝だった。
7.ジャイ・ヒンドレーが最終日前日に大逆転 ジロ・デ・イタリア初制覇
今年1つ目のグランツールだったジロ・デ・イタリアは、前述のギルマイやマチューの活躍、伏兵のフアンペドロ・ロペス(トレック・セガフレード、スペイン)のマリアローザ10日間着用などもあり、終始華やかなイベントとなった。
そして大会後半は、王者決定の行方が日々注目度を増していった。第19ステージまでを終えての個人総合トップはリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)。ただ、前半から好調をキープしてきたジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストラリア)も僅差で続き、勝負は最後の2ステージにゆだねられた。
歴史的戦いに決着がついたのは、第20ステージだった。フィニッシュへと続く1級山岳マルモラーダでカラパスが脱落したのだ。大会を通じヒンドレーを支えてきたレナード・ケムナ(ドイツ)が大仕事。カラパスを後退させると、最後のミッションとしてヒンドレーを急坂区間へと放つ。そのままグングンと突き進むと、このステージだけで両者のタイム差は1分28秒もつき、翌日に控えていた最終の17.4km個人タイムトライアルを前に、ヒンドレーは安全圏を築いた。
新王者のヒンドレーは新型コロナ禍で行われた2020年大会で大躍進の個人総合2位。以来、グランツールレーサーとして定着し、今年の偉業につなげた。タイムトライアルをさほど得意としておらず、2023年は山岳比重の高いツールを目指すとこのほど宣言した。
8.ポガチャル包囲網を敷いたユンボ・ヴィスマが2年越しのツール・ド・フランスでのリベンジ ヨナス・ヴィンゲゴーが新王者に
初の北欧・デンマーク開幕に沸いたツール・ド・フランス。ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)は、チームプレゼンテーションの盛り上がりに感涙し、その後のレースへの力にしてみせた。
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)が「圧倒的有利」「個人総合3連覇は固い」といった見られ方がされていた中、チーム力を発揮し続けたのがユンボ・ヴィスマ。石畳を走った第5ステージで絶対エースのプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)が激しくクラッシュし、その後のプラン変更を余儀なくされたが、前回大会で躍進したヴィンゲゴーが代役……いや、大会の主役へと躍り出る快走を披露。
とりわけ、第2週からのチーム総動員の奇襲は、ポガチャルをもってしても対応しきれず。グラノン峠を駆けた第11ステージでヴィンゲゴーがマイヨジョーヌを奪うと、その後のステージでは再三再四ポガチャルが攻撃するもヴィンゲゴーのみならず、ユンボ・ヴィスマそのものが揺らがなかった。
山岳最終決戦となった第18ステージでは、ワウトらを逃げに送り込んで“前待ち”させたユンボ・ヴィスマが作戦勝ち。ヴィンゲゴー、ポガチャルともに下りでトラブルを起こして攻めきれなかったことも関係し、結果的にユンボ勢が人数をかけて勝負どころに持ち込むことができた。そしてヴィンゲゴーはステージ優勝。2日後の個人タイムトライアルもポガチャルを上回る走りを見せて、文句なしの大会制覇とした。
ユンボ勢はワウト・ファンアールト(ベルギー)もステージ3勝を挙げ、ポイント賞のマイヨヴェールを獲得。第20ステージではフィニッシュでヴィンゲゴーを出迎え涙したシーンは、世界中のファンの心を打った。ヴィンゲゴーとワウトの共闘は2023年も継続。ここに新加入のディラン・ファンバーレ(現イネオス・グレナディアーズ、オランダ)も含めた3人を中心に、ツールのオーダーを組んでいく見通しだ。
今年のツールでは、新型コロナ感染者が多発し、大会の途中で急きょチームバブルが敷かれたほか、バイクメーカー各社の新作投入も話題に。レースの盛り上がりとともに、各所の動きにも注目が集まった。
9.若武者レムコ・エヴェネプールがビッグタイトル総ナメ 22歳にしてロード世界王者に
今シーズン最大級の衝撃となったのが、22歳レムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファヴィニル、ベルギー)の激走だ。
1つ目の“衝撃”は、4月のリエージュ~バストーニュ~リエージュ。フィニッシュまで30kmを残した段階で独走に持ち込んで、そのままフィニッシュまで駆け抜けてしまった。確かにシーズン序盤から好調ではあったが、多くの選手が照準を定めるレースでここまでの走りを見せるのはまったくもって予想外だったといえよう。
その後も出場したレースでは外すことなく順調にシーズンを送ると、今年の目標の1つであったブエルタ・ア・エスパーニャへ。この大会最初の本格山岳だった第6ステージで攻撃を繰り出してマイヨロホをゲット。若さやグランツールの経験不足が指摘されるもどこ吹く風。その後のステージではタイムトライアルに勝ち、山岳ステージでも勝利。終わってみれば2位以下に2分以上の差をつけて、グランツール初制覇を果たした。
ブエルタが2つ目の“衝撃”なら、3つ目は直後のロード世界選手権だ。有力選手が前後のグループに分かれる中、前線で展開していたエヴェネプールは、残り30kmを切ったところでアタック。5kmも行かないうちに他の選手を退けて独走に持ち込むと、そのままフィニッシュまで突き進んだ。約25kmの独走劇は、史上7番目の若さでの世界王者に。
レース中の大事故で戦列を離れたのが2年前。それを乗り越え、強さを取り戻し……いや、完全にスケールアップしたと言える今季の走りだった。
10.ダヴィデ・レベリンが事故死
アルデンヌクラシック3連勝など、数多くの偉業を成し遂げてきたダヴィデ・レベリン(イタリア)が、11月30日にトレーニング中の事故で亡くなった。51歳だった。
レベリンはこの10月まで現役ライダーとして走り、ロードレースから引退後もグラベルレーサーとして活動していくことを表明していた矢先だった。
犯人はドイツ人のトラックドライバーで、レベリンとの接触に気づき車から一度降りていたことが近くの防犯カメラの映像で明らかになっている。その後ドイツ国内で身柄が拘束され、現在はイタリア当局がその引き渡しを求めている段階だという。
「シーズン前半編」「グランツール・シーズン後半編」に続き、番外編も急きょ製作! 10大ニュースから漏れたトピックや国内レースシーンの話題に触れる。
福光俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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TEXT:福光俊介 PHOTO:LaPresse A.S.O. / Pauline Ballet Tim De Waele / Getty Images Veneto Classic
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。