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ズイフトで才能開花のオールラウンダーが開幕戦制覇、ダウンアンダーまとめ|ロードレースジャーナル

vol.53 元eスポーツ王者のジェイ・ヴァインがダウンアンダー快勝!
UAE移籍で勢いに乗りグランツール上位進出にも現実味

国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。今回は、1月17日から22日にかけて開催されたUCIワールドツアー開幕戦、ツアー・ダウンアンダーをまとめていく。新シーズンを迎えた各チーム・選手の動向をうかがううえではピッタリの戦いとなった。

2年の空白を経て復活開催、ステージ編成がフルアップデート

シーズンの開幕戦として定着して久しい、真夏のオーストラリアでの熱戦。これまで多くのビッグネームが好勝負を繰り広げてきたが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大にともない、2021年・2022年と大会は中止。今回は実に3年ぶりの開催で、“復活”を遂げた大会でもあった。

生まれ変わった大会を象徴するように、短距離個人タイムトライアルによるプロローグの新規取り入れや、かつては個人総合争いの重要ポイントであったウィランガ・ヒルの不採用など、新型コロナ前のステージ編成を一掃し、フルアップデート。日々のステージ争いはもとより、個人総合争いもこれまでにはなかった戦術が見られるものと予想された。

メインとなるステージレースに先立ち、14日にはアデレード市街地で大会参加選手たちによるクリテリウム「シュワルベクラシック」が開催。1.35kmのコースを39周回(52.65km)で争われ、今回は所属元のロット・デスティニーではなくオーストラリアナショナルチームの一員として参戦したカレブ・ユアンが優勝した。

Photo: Jack Bennett

雨のプロローグから熱戦がスタート

17日から始まったステージレースは、前述したプロローグから。アデレード市街地に設けられた5.5kmのコースは、コーナーが多いテクニカルなレイアウト。南半球でのレース開催で輸送負担を軽減するため全選手ロードバイクでの走行が義務付けられた。そうしたなかでも、空力特性を生かすべく、ディスクホイールの使用やハンドルブラケットの内向き設定など、各チーム趣向を凝らせてレースに挑んだ。

そんなレースを勝ったのが、全体4番出走だったアルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト、イタリア)。6分19秒(Ave 52.243km)で走破した。もっとも、前半スタート組から雨に見舞われ、ベッティオルら早い時間帯に飛び出していた選手だけがドライコンディションで走ることができたという条件下だった。これで、ベッティオルはリーダージャージを着用。

プロローグを制したアルベルト・ベッティオル Photo: EF Education-EasyPost

続く第1ステージは、複数の周回コースをめぐる149.9km。5度の丘越えがあったものの、難易度としては低く、スプリンター陣はおおむねメイン集団に生き残った。一方で、集団の各所で落車が多発。パトリック・ベヴィン(チームDSM、ニュージーランド)、ロベルト・ヘーシンク(ユンボ・ヴィスマ、オランダ)がその場でリタイアした。

混乱が多かったものの、セオリーどおりのスプリントフィニッシュ。これを制したのは、フィル・バウハウス(バーレーン・ヴィクトリアス、ドイツ)。終始レースをコントロールしていたオーストラリアナショナルチームは、ユアンを2位に送り込み、個人総合優勝を目標に今大会を走るマイケル・マシューズ(ジェイコ・アルウラー、オーストラリア)が3位に続いた。また、リーダージャージはベッティオルがキープ。

スプリントフィニッシュの第1ステージはフィル・バウハウス(前列右から2人目)が制した ©️ Team Bahrain Victorious

個人総合争いが動いたのは第2ステージ。154.8kmに設定され、獲得標高が2500mに近い丘陵コースでは、集団分断が起こるなど慌ただしい展開。レース後半の重要区間であるネトル・ヒルに差し掛かったところで、波乱が生じた。

まず、マシューズが他選手との接触でメカトラ。これでメイン集団から遅れて、上位進出の芽がなくなってしまう。さらに、リーダージャージのベッティオルが左太腿のけいれんに見舞われストップ。こうしたトラブルをよそに、ジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ、オーストラリア)がアタックし、これをローハン・デニス(ユンボ・ヴィスマ、オーストラリア)、サイモン・イェーツ(ジェイコ・アルウラー、イギリス)、マウロ・シュミット(スーダル・クイックステップ、スイス)、ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストラリア)がチェックした。

そのまま5人が逃げ切り、ステージ優勝争いへ。残り800mでヒンドレーがするすると抜け出すが、これを見逃さなかったデニスが早めのスプリントへ。他の4人を退けて、一番にフィニッシュ。ステージ優勝と合わせて、個人総合でもトップに立った。

優勝候補にトラブルが発生した第2ステージ。ローハン・デニスが勝って、この時点でリーダージャージをゲット Photo: Santos Tour Down Under

ヴァインが大会初制覇、今季はジロでUAEのエースに

大会後半戦に入り、リーダージャージ争いはさらに激化。117kmに設定された第3ステージは、名物の上り・コークスクリューで有力どころが仕掛けた。

この日も落車やメカトラが集団内で相次いだ中、トラブルを回避し勝負に出たのはヴァイン。最大勾配24.4%の急坂でアタックすると、イェーツとペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)が追随。頂上を越えてからはフィニッシュへ向かってのダウンヒル。ここで3人逃げを確かなものとし、ステージ優勝争いへと移った。ここはスプリント力に勝るビルバオに軍配。3人は個人総合でも順位を上げ、ヴァインにリーダージャージ。15秒差でビルバオ、さらに1秒差でイェーツが続く。

名物コークスクリューを越えた第3ステージはペリョ・ビルバオが制した ©️ Team Bahrain Victorious

終盤でのアタックからの逃げが多かったここまでだが、第4ステージ(133.2km)は久々のスプリントフィニッシュ。とはいえ、途中では強風による分断作戦を実行するチームが現れるなど、集団は常時慌ただしい。結局、後方に取り残された選手たちは、最後まで前線復帰はかなわなかった。

そうして40人ほどまで絞られた集団によるスプリントは、上り基調の最終局面を得意とするブライアン・コカール(コフィディス、フランス)が残り250mで2番手から早掛け。一瞬反応に遅れた他のスプリンターが追い切れず、コカールが十分なリードを得たままフィニッシュへ。かつてはトラックでも世界を席巻した30歳が、初となるUCIワールドツアー勝利を挙げた。

第4ステージを制して喜ぶブライアン・コカール。これがUCIワールドツアー初勝利 Photo: Santos Tour Down Under

最後を飾った第5ステージは、序盤のワンウェイルートを経て、約28kmの大周回へ。1級山岳マウント・ロフティを4回越え、レース距離112.5kmながら獲得標高は3131m。今大会のクイーンステージとなった。

序盤から大人数の逃げグループが形成されるが、メイン集団はビルバオでの上位確保を狙うバーレーン・ヴィクトリアスが高速巡航。早々に逃げを捕まえて、最終周回での勝負へとゆだねられる。

アタックとキャッチが繰り返される中、最後のマウント・ロフティへ向けて、総合タイム差11秒で2位につけるイェーツがアタック。これに反応したのは、やはりリーダージャージのヴァイン。さらにはジャンプアップを狙うベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)もジョイン。この日は3人が他をしのぐ登坂力で、最後まで逃げ切り。個人総合と最終ステージのW勝利を狙ったヴァインがスプリントで先に仕掛けるが、そこは百戦錬磨のイェーツ。しっかりと対応し、ヴァインに先着してみせた。

第5ステージを勝ったサイモン・イェーツ。個人総合でも2位となった Photo: Team Jayco AlUla

これらの結果により、初の個人総合優勝に輝いたのが27歳のヴァイン。ダウンアンダー初出場でビッグタイトルを勝ち取った。もともとは自国のコンチネンタルチームで走っていたが、ヴァーチャルサイクリングのズイフトが主宰するプログラムから才能を見出され、25歳でプロ入り。2シーズンはアルペシン・ドゥクーニンクで走り、昨年はブエルタ・ア・エスパーニャでステージ2勝。今季からUAEチームエミレーツに移って、早速の勝利となった。すでにチーム内での信頼を勝ち取っており、今年はジロ・デ・イタリアで総合リーダーを務める予定だ。

初のビッグタイトルを勝ち取ったジェイ・ヴァイン。ズイフトから飛躍した注目のオールラウンダーだ Photo: Santos Tour Down Under

各大陸でも続々とシーズンイン

新型コロナによる困難を乗り越えたロードレース界は、いよいよ通常運行へ。UCIワールドツアーの次戦は、1月29日に同じくオーストラリアで行われるカデルエヴァンス・グレートオーシャン・ロードレース。

また各大陸でも続々とシーズンイン。南米アルゼンチンで開催されるブエルタ・ア・サンフアンでは、世界王者のレムコ・エヴェネプールが始動。また、1月30日から2月3日まで行われるサウジ・ツアーには、JCL TEAM UKYOの参戦が発表されている。

福光俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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