パレパントルが逃げ切りで第4ステージ勝利、マリア・ローザはレックネスンへ移動|ジロ・デ・イタリア
福光俊介
- 2023年05月10日
ジロ・デ・イタリア2023第4ステージが現地5月9日に行われ、雨が降り続くタフなコンディション下でレースをリードした逃げメンバーから、オレリアン・パレパントル(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、フランス)が終盤の競り合いを制してステージ優勝。グランツール初勝利を飾った。個人総合首位でスタートしたレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)は、パレパントルから2分1秒差でのフィニッシュ。これにより、ステージ2位に入ったアンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム、ノルウェー)が大幅に総合ジャンプアップに成功し、マリア・ローザを手にしている。
スタートから2時間後に決まった逃げがそのままフィニッシュへ
イタリア半島南部を走行中のプロトン。第4ステージでは南アペニン山脈を横断し、その間に3つの2級山岳を越える。いずれも最大勾配10%超の上りで、最後の上りはフィニッシュ前12.6kmから始まるコッレ・モレッラ(登坂距離9.6km、平均勾配6.2%、最大勾配12%)。頂上からの3kmを下りと平坦路を走り、フィニッシュへと到達する。
マリア・ローザのエヴェネプールは、第1ステージで勝った時点からこの日の「ジャージ譲渡」の意思を見せており、それを受けたプロトンがどのように反応するのかが焦点に。実際、スタートから激しい展開となった。
リアルスタートからアタックとキャッチが繰り返され、集団からの飛び出しがなかなか容認されない。ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト、アイルランド)やシュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ、スイス)、ブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ、アメリカ)らが逃げを試みるが、数人単位のパックを形成するもいずれも集団へと引き戻される。やがてプロトンがいくつにも分断され、レムコやジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)といった個人総合上位陣が後方に取り残される場面も。雨が一層ハードさに追い打ちをかけ、早い段階で遅れを喫する選手も出始める。
そんな流れのまま1つ目の2級山岳パッソ・デッレ・クロチェッレ(13.6km、4.3%、11%)を迎え、山岳賞のマリア・アッズーラを着るティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ、フランス)が1位通過。同賞のポイントを伸ばしている。
この頂上からのダウンヒル区間で、ようやく7人の逃げが決まる。一瞬の緩斜面でリズムが変わったのを利用し、パレパントル、レックネスン、ニコラ・コンチ(アルペシン・ドゥクーニンク、イタリア)、ヴィンチェンツォ・アルバネーゼ(エオーロ・コメタ、イタリア)、ワレン・バルギル(チーム アルケア・サムシック、フランス)、アマヌエル・ゲブレイグザビエル(トレック・セガフレード、エリトリア)、トムス・スクインシュ(トレック・セガフレード、ラトビア)がリードを開始。この中で個人総合最上位は、1分40秒差の18位につけるレックネスン。
スタートして2時間、ようやく逃げが決まりメイン集団は一時の休息。タイム差が約3分の開きになったところでリーダーチームのスーダル・クイックステップが統率を始めるが、しばらくは先頭グループがペースで上回り、6分近い差まで拡大する。この間、ブルーノ・アルミライル(グルパマ・エフデジ、フランス)が単独で追走を試みたが、これは失敗に終わっている。
95.9km地点に置かれた1回目の中間スプリントポイントはアルバネーゼ、110.2km地点が頂上の2級山岳ヴァーリコ・ディ・モンテ・カッルォッツォ(19.9km、3.8%、11%)はゲブレイグザビエルがそれぞれ1位通過。4~5分の差で続くメイン集団では、ウインドブレーカーとレッグウォーマーの重装備で走っていたレムコがウォーマー類を外し、終盤戦に備える。
159.2km地点に設けられた2回目の中間スプリントポイントではレックネスンが1位通過し、3秒ボーナスを獲得。最後の上りへと向かう段階でもメイン集団とのタイム差は大きく変わらず、先頭メンバーの逃げ切りは決定的に。集団はスーダル・クイックステップがペースを制御し、タイムギャップを一気に減らすような動きは見せなかった。
コッレ・モレッラを上り始めてすぐにコンチがアタック。これでバルギルが遅れたが、残る選手たちはテンポで追随。代わってスクインシュが先頭に立つが、これも決定打にはならない。残り6kmを切ったところで今度はレックネスンが仕掛けると、ついていけたのはパレパントルとゲブレイグザビエルの2人。レックネスンはさらにアタックを繰り返し、ゲブレイグザビエル、パレパントルと順番に振り切って独走を狙う。しかし、勾配が緩んだところでパレパントルが勢いを取り戻し、残り3.5kmで再合流。そのまま山岳ポイントに到達し、パレパントルが1位で通過した。
一方、メイン集団では上りに入ってイネオス・グレナディアーズがスピードアップ。ここまでコントロールしてきたスーダル・クイックステップの選手たちは次々と脱落し、レムコは単騎となってしまう。なおもイネオス・グレナディアーズのペーシングは続き、先頭との差はあっという間に2分台に。
それでも、貯金を生かして逃げ続けたパレパントルとレックネスンは、先頭交代を繰り返しながら最終局面へ。最後の1kmはマリア・ローザ奪取の可能性にかけてレックネスンが引き続け、パレパントルはステージ狙いに集中。最後の150mからのマッチスプリントはパレパントルが先行し、そのままフィニッシュ。プロ5年目の27歳が、98kmに及ぶ逃げを実らせてキャリア3勝目を挙げた。
レックネスンは2秒差の2位で終え、リーダージャージ獲得へメイン集団の帰りを待った。そしてその一団はパレパントルから2分1秒差でフィニッシュラインへ。この瞬間、レックネスンのマリア・ローザ着用が決まった。
結果を知り、喜びで泣き崩れたレックネスンは23歳のオールラウンダー。昨年は地元開催のアークティックレース・オブ・ノルウェー(UCI2.Pro)で個人総合優勝しており、次世代のグランツールレーサーとしての呼び声も高い。このジロはキャリア2回目のグランツール。ノルウェー人選手としては史上2人目、北極圏以北出身の選手としては史上初めてとなるマリア・ローザ着用者になった。
ここまで首位を走ってきたレムコはメイン集団でレースを終え、個人総合では28秒差の2位。当初イメージしていたとおり、いったんジャージを手放して、次のチャンスでもう一度シフトチェンジする構えのようだ。なお、個人総合3位にはタイム差30秒でパレパントルが浮上。アルメイダが2つ順位を下げて4位、プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)が5位となっている。
新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は、早い段階で後方グループにポジションを移して、ポイント賞のマリア・チクラミーノを着るジョナサン・ミラン(イタリア)らとステージを完走している。
10日に行われる第5ステージは、171kmの平坦コース。前半から中盤にかけてアップダウンが繰り返されるが、それをクリアできれば最後の50kmは下りとフラットなレイアウト。東海岸のティレニア海に面したサレルノの街にフィニッシュする。
ステージ優勝 オレリアン・パレパントル コメント
「今大会の目標は個人総合上位入り。今日は路面が滑りやすかったが、何とか走り切ることができた。マリア・ローザを目指して走っていたが、レックネスンが自分より上位にいることは把握していた。逃げている間に彼と少し話をしたが、互いにステージ優勝を狙っていて利害が一致しなかった。それでも、スプリントになれば私の方が速いと分かっていたし、最後の3kmで勝利を確信していた。私たちのようなチームがステージ優勝できるのは素晴らしいことだし、金曜日(第7ステージ)のグラン・サッソ(1級山岳)でマリア・ローザを狙えるかもしれない。そうなればためらわずにトライしたい」
個人総合時間賞、ヤングライダー賞 アンドレアス・レックネスン コメント
「マリア・ローザはサイクリストの夢。今日のことは生涯忘れないだろう。マリア・ローザを目指した争いがスタートから始まっていて、個人的には最初のアタックで好感触を得ていた。ほぼすべての動きに乗じていて、大変なレースになったけどチャレンジして良かった。逃げが決まったのは下り区間。マリア・ローザがかかっていることは分かっていたが、上りで無理しすぎないよう努めていた。ステージ優勝を目指すうえではもう少し違った動きが必要だったかもしれないが、今日やるべきことはすべて果たせたと思っている」
ジロ・デ・イタリア2023 第4ステージ結果
ステージ結果
1 オレリアン・パレパントル(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、フランス) 4:16’04”
2 アンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム、ノルウェー)+0’02”
3 トムス・スクインシュ(トレック・セガフレード、ラトビア)+0’57”
4 ヴィンチェンツォ・アルバネーゼ(エオーロ・コメタ、イタリア)ST
5 ニコラ・コンチ(アルペシン・ドゥクーニンク、イタリア)+1’02”
6 アマヌエル・ゲブレイグザビエル(トレック・セガフレード、エリトリア)+1’07”
7 クーン・ボウマン(ユンボ・ヴィスマ、オランダ)+2’01”
8 ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)ST
9 エディ・ダンバー(チーム ジェイコ・アルウラー、アイルランド)
10 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)
148 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス、日本)+26’11”
個人総合時間賞(マリア・ローザ)
1 アンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム、ノルウェー) 14:35’44”
2 レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)+0’28”
3 オレリアン・パレパントル(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、フランス)+0’30”
4 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)+1’00”
5 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)+1’12”
6 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+1’26”
7 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)ST
8 トムス・スクインシュ(トレック・セガフレード、ラトビア)+1’29”
9 テイオ・ゲイガンハート(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+1’30”
10 ジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ、オーストラリア)+1’36”
155 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス、日本)+42’59”
ポイント賞(マリア・チクラミーノ)
ジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)
山岳賞(マリア・アッズーラ)
ティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ、フランス)
ヤングライダー賞(マリア・ビアンカ)
アンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム、ノルウェー)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ 43:51’01”
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。