ブエルタ・ア・エスパーニャ2023の見どころ・注目選手プレビュー|ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2023年08月24日
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vol.63 テーマは今年も「上り」トゥルマレ、アングリルなど「魔の山」をめぐる3週間
国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。2023年のグランツールは残りひとつ。ブエルタ・ア・エスパーニャが8月26日に開幕する。5月のジロ・デ・イタリア、7月のツール・ド・フランスにならぶ……いや、それ以上ともいわれる難易度と出場選手の顔触れに、開幕前から「名勝負間違いなし」の声も。激動の3週間を前に、今大会の見どころや注目選手をまとめておこう。観戦のお供にぜひ!
平坦ステージはわずか4つ 上り基調の3週間
今年のブエルタは、8月26日から9月17日までの会期で開催される。全21ステージ総計3153.8kmに設定され、大小問わず上りフィニッシュがなんと10を数える。それを象徴するように山岳比重の高いステージ構成になっていて、純粋な平坦ステージは4日間(第7・第12・第19・第21ステージ)しか設けられない。あとは、平坦ステージ上りフィニッシュ(2ステージ)、丘陵ステージ(6ステージ)、山岳ステージ(7ステージ)、タイムトライアルステージ(個人1、チーム1)となっている。
ブエルタでは恒例でもあるチームタイムトライアルによる第1ステージ(14.8km)で幕開けし、隣国アンドラのアリンサルにフィニッシュする第3ステージ(158.5km)から早速個人総合争いが動き出すとみられる。この日が最初の山岳ステージにあたり、続く同等ステージはハバランブレ天文台に向かう第6ステージ(183.5km)となる。
今大会最初の平坦カテゴリーとなる第7ステージ(201km)を経て、第8ステージ(165km)ではフィニッシュ目前で最大勾配22%の1級山岳ショレト・デ・カティを上る。
第2週は、25.8kmの個人タイムトライアル(第10ステージ)から。第11ステージ(163.5km)では、「平坦ステージ上りフィニッシュ」とのブエルタならではのカテゴリー設定がなされ、第13ステージ(135km)では再びピレネーに戻ってフランスに入国。超級山岳オービスクを越え、フィニッシュはトゥルマレの頂上。翌日の第14ステージ(156.5km)でスペインに戻り、この日もピレネーの山を行く。
第3週は、フィニッシュまでの4.8kmで平均8.8%・最大15%の急勾配を上る第16ステージ(120.5km)で始まって、第17ステージ(124.5km)では名峰アングリルへ。フィニッシュ前の約7kmは20%超の激坂が続く。5つのカテゴリー山岳を上る第18ステージ(179km)と合わせたこの3日間が、個人総合成績の行方を決定的にすると見られる。
平坦の第19ステージ(177.5km)、3級山岳だけで10を数える第20ステージ(208km)を終えると、最後は首都・マドリードに向かってのパレードと市街地でのスプリント決戦でフィナーレを迎える。
大会を彩る4賞ジャージは、個人総合が「マイヨ・ロホ」。ポイント賞が「マイヨ・ヴェルデ」。山岳賞が「マイヨ・ルナレス・アスーレス」。ヤングライダー賞(25歳未満)が「マイヨ・ブランコ」とそれぞれ呼ばれる。
連覇狙うレムコに、ログリッチとヴィンゲゴーが迫る トーマスらも調子を上げる
今季最後のグランツールには、そうそうたる面々が集うことになる。ビッグタイトルを賭けて、本気の戦いが見られるはずだ。
最大栄誉のマイヨ・ロホ争いから見ていこう。前回王者のレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)が、連覇をかけてスペインに戻る。先のスーパー世界選手権では、ロードレースの王座こそ明け渡したものの、個人タイムトライアルを初制覇。新しいマイヨ・アルカンシェルのお披露目の場がブエルタにもなる。昨年は第6ステージ以降、トップを明け渡すことなく最後まで走り抜いたが、今年はどこで仕掛けるだろう。第10ステージの個人タイムトライアルも、アドバンテージを得るには重要となる。山岳アシストも抜かりなくそろえた今回は、新型コロナウイルス感染で途中離脱を余儀なくされたジロの雪辱戦でもある。
対抗馬は、ユンボ・ヴィスマが誇るスター2人、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)とヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)で異論はないだろう。かつてブエルタを3連覇した“ミスター・ブエルタ”ログリッチと、ツール2連覇が鮮烈なヴィンゲゴー。昨年のツール以来となるタッグで、打倒レムコ、そしてチームに2年ぶりのブエルタのタイトルをもたらしたい。両者とも、現時点ではダブルリーダー体制であることを強調。レースの流れを見ながら、どちらで最終的に勝負をかけていくか決めていくことになりそうだ。山岳アシストにセップ・クス(アメリカ)、ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)、アッティラ・ヴァルテル(ハンガリー)とエースクラスの選手をそろえ、ディラン・ファンバーレ(オランダ)もツールに引き続きメンバー入り。戦力と組織力は、間違いなく今大会ナンバーワンである。
ユンボ・ヴィスマに追いつけ、追い越せと、UAEチームエミレーツも戦力を整えている。総合エースはジョアン・アルメイダ(ポルトガル)とフアン・アユソ(スペイン)の2人。ともに20歳代前半ながら、すでにグランツールの総合表彰台を経験済み。これからは、その頂点に立つための戦いになる。こちらも山岳アシストはそろっているだけに、まずは第1ステージのチームタイムトライアルで、スーダル・クイックステップやユンボ・ヴィスマに対してどのあたりで終えるかがポイントになってきそうだ。
今年のジロではログリッチと激闘を繰り広げたゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)も、今季2つ目のグランツールに挑む。たびたび話題に上る年齢(37歳)はまだまだ関係ないといったところ。3週間をトータルで戦う安定度は経験がなす業である。イネオス・グレナディアーズはエガン・ベルナル(コロンビア)やフィリッポ・ガンナ(イタリア)といったスーパースターがメンバー入り。トーマスを上位に押し上げつつ、チャンスとあらばみずからもステージ狙いに行ける選手たちがそろう。
ツールの悔しさを晴らそうと地元レースに臨むのは、エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)。第1ステージで落車負傷し大会を去って以降、レースから離れていたが、ブエルタが復帰戦となる。ケガは癒えて、調子も取り戻していることだろう。今年のジロでステージ1勝を挙げたエイナル・ルビオ(コロンビア)ら、力のある選手たちが名を連ねるあたりは、自国グランツールに意気込むチームのムードがうかがえる。
ボーラ・ハンスグローエも、アレクサンドル・ウラソフ、レナード・ケムナ(ドイツ)、セルヒオ・イギータ(コロンビア)の総合エースをそろえて上位進出を狙う。ジロではウラソフがリタイアした穴をケムナが埋めて個人総合9位。イギータは今季ブエルタにフォーカスして調整してきたこともあり、その走りが見もの。
このほか、ツールでは本領発揮とはいかなかったミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)やロマン・バルデ(チーム ディーエスエム・フェルメニッヒ、フランス)、ジロで体調不良によるリタイアに終わっているヒュー・カーシー(EFエデュケーション・イージーポスト、イギリス)あたりは、このブエルタで名誉挽回したいところ。
数少ないチャンスとなるスプリントでは、経験豊富なブライアン・コカール(コフィディス、フランス)や今季ワンデーレース3勝のヘルベン・テイッセン(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ベルギー)、ジロでステージ1勝のカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク、オーストラリア)らが勝利を狙う。平坦ステージに限らず、上りを耐えて勝機をたぐりよせたいところ。
ステージ優勝を狙う選手としては、フィリッポ・ザナ(チーム ジェイコ・アルウラー、イタリア)、バウケ・モレマ(リドル・トレック、オランダ)、エマヌエル・ブッフマン(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)といった名が挙がる。2年前の山岳賞、マイケル・ストーラー(グルパマ・エフデジ、オーストラリア)も8月に入ってステージレースを制するなど調子を上げている。個人タイムトライアルステージでは、ガンナやシュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・イージーポスト、スイス)が優勝候補だ。
キアン・アイデブルックス(ボーラ・ハンスグローエ、ベルギー)とレニー・マルティネス(グルパマ・エフデジ、フランス)はともに20歳、将来のグランツール覇者と目されるほどのタレント性を持つ。彼らが初のグランツールとしてブエルタをセレクトした。また、かつて日本のレースを席巻したオールイス・アウラール(カハルラル・セグロスRGA)がついにブエルタへ。世界のトップシーンで羽ばたく彼の走りからも目が離せない。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 公式ウェブサイト
https://www.lavuelta.es/
福光俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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- TEXT:福光俊介 PHOTO:Unipublic Unipublic / Charly López A.S.O./Aurélien Vialatte LaPresse A.S.O/Billy Ceusters A.S.O./Pauline Ballet
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。