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セップ・クスがマイヨ・ロホ。ブエルタ2023第1週レビュー|ロードレースジャーナル

vol.64 大会序盤から個人総合争い激化ログリッチ、ヴィンゲゴー、クスを擁するユンボ・ヴィスマが順調

国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。2023年最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャが8月26日に開幕し、本記執筆時点で第1週の戦いを終わらせている。やはりブエルタらしく、山岳比重の高いコース設定に、早くも個人総合争いが本格化。ベストメンバーをそろえるユンボ・ヴィスマ勢、前回覇者であり自身への包囲網を打ち破ろうと躍起のレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)が中心の戦いとなりつつある。そこで今回はブエルタ第1週の戦いを振り返るとともに、次の1週間の見どころを押さえていきたい。

ユンボvs.レムコの構図となりつつある個人総合争い

総距離3153.8kmに及ぶ壮大な旅の始まりは、バルセロナでのチームタイムトライアル(14.8km)で幕開け。おおよそ2カ月ぶりという降雨に見舞われた同地だが、レースが始まる頃には大雨に。スタートして早々に落車する選手や隊列の乱れるチームが続出し、スムーズに走り切ったチームは皆無。そんな中で、出場22チーム中2番目にコースに飛び出したチーム ディーエスエム・フィルメニッヒが大金星。チームTTを得意とするチームが軒並み苦戦した中、早い時間帯でのスタートを生かした格好となった。

©️ UNIPUBLIC / SPRINT CYCLING AGENCY

今大会最初のマイヨ・ロホは、ディーエスエム勢で一番にフィニッシュラインを通過したロレンツォ・ミレージ(イタリア)に渡された。総合系ライダーを抱えるチームのうち、ユンボ・ヴィスマやスーダル・クイックステップは遅い時間帯の出走によって、辺り一面真っ暗な中での走行を余儀なくされた。

©️ UNIPUBLIC / SPRINT CYCLING AGENCY

選手たちを悩ませる雨は第2ステージ(182km)でも降り続き、勝負どころとなるはずだったバルセロナの名所・モンジュイックの丘はすべてニュートラルに。フィニッシュ手前9kmでこのステージのタイムが計測される措置がなされた。一方でステージ順位は有効とされ、多くの選手がリスクを回避する中、モンジュイックで飛び出したアンドレアス・クロン(ロット・デスティニー、ベルギー)がグランツール初勝利を手繰り寄せた。

©️ UNIPUBLIC / SPRINT CYCLING AGENCY

個人総合争いは第3ステージ(158.5km)で早くも動き出した。今大会1回目のピレネー入りで、総合系ライダーたちによる上りスプリントを制したのはレムコ。早くもマイヨ・ロホに袖を通している。また、敗れたもののユンボ・ヴィスマ勢も攻撃的な走りを見せて、セップ・クス(アメリカ)がアタックしたほか、ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)がレムコに最後まで食らいつくなど、状態の良さを見せている。なお、レムコはフィニッシュ直後に、前方に控えていた関係者と衝突し落車。右目上に裂傷を負ったが、レース継続には支障が出ていない。

©️ UNIPUBLIC / SPRINT CYCLING AGENCY

いったんピレネーを離れた第4ステージ(185km)は、今大会最初の集団スプリントに。ここをカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク、オーストラリア)が制している。また、グローブスは翌日の第5ステージ(186.5km)でも快勝。第4ステージはフィニッシュ前が上っていたが、第5ステージは上下の変化がなく、色合いの異なる2つのステージを巧みに制してみせた。これで、ポイント賞首位に立ちマイヨ・ベルデを着用している。

©️ UNIPUBLIC / SPRINT CYCLING AGENCY

第6ステージ(183.5km)でいよいよユンボ・ヴィスマ勢が動き出した。最大40人超となった大人数の逃げがレースを支配し、その中に入った4人のユンボ勢が主にコントロール。最後の上りとなった1級山岳ピコ・デル・ブイトレでクスが独走に持ち込み、そのままステージ優勝。チームメートのヴィンゲゴーとプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)は、メイン集団からアタックしレムコを振り切ることに成功。総合タイムの遅れを幾分取り戻すことができ、1日を通して“ユンボ・ヴィスマデー”とした。このステージを終えてのマイヨ・ロホは、2位でフィニッシュしたレニー・マルティネス(グルパマ・エフデジ、フランス)へ。20歳51日での個人総合首位は、ミゲル・インドゥラインが持つ最年少リーダー記録(20歳283日)を更新するものとなった。

©️ UNIPUBLIC / SPRINT CYCLING AGENCY

第7ステージ(201km)は、今大会4回しかない平坦ステージの1つ。フィニッシュ前2kmからの連続コーナーで各チームのトレインが崩れてしまうなか、最終コーナーを一番に抜けたのはジョフレ・スープ(トタルエネルジー)。最後の350mを先頭で走り抜き、35歳にして初のグランツール勝利を挙げた。

©️ UNIPUBLIC / SPRINT CYCLING AGENCY

第8ステージ(165km)からは、再び総合系ライダーたちの競演。4つのカテゴリー山岳を越え、最後に1級山岳ショレト・デ・カティに挑んだこの日は、ログリッチが勝利。最大勾配22%の大物をクリアし、わずかな下りと短い上りのフィニッシュ前ではレムコとの勝負に。ヴィンゲゴー、クスとのホットラインも機能し、徐々にユンボ勢が態勢を整えている。

©️ UNIPUBLIC / SPRINT CYCLING AGENCY

第1週最終日の第9ステージでは、今大会2回目の計測ポイント移動。2級山岳カラバカ・デ・ラ・クルスの頂上にフィニッシュラインが敷かれたが、その2.05km手前での計測とし、残り距離はニュートラルに。この日も雨で、フィニッシュライン前後は土の流入により滑りやすい状況にあった。

©️ UNIPUBLIC / SPRINT CYCLING AGENCY

このステージでは、逃げ切ったレナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)が優勝。これで全グランツールでステージ優勝を挙げた選手となった。メイン集団では、序盤と中盤に横風による分断作戦が決行され、終始慌ただしい流れに。結果的に分断による波乱はなかったものの、最後の上りでは総合系ライダーたちがしっかりと前線に残り、先々の戦いにつなげている。

©️ UNIPUBLIC / SPRINT CYCLING AGENCY

第1週を終えた段階でのマイヨ・ロホはクス。第6ステージの大逃げから上位に生き残っている選手も多く、第2週以降でまだまだ順位のシャッフルはありそう。レムコはクスから2分22秒差の個人総合4位、ログリッチは2分29秒差の同6位、ヴィンゲゴーは2分33秒差の同7位としている。

©️ UNIPUBLIC / SPRINT CYCLING AGENCY

ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 第1週終了時 個人総合順位

1 セップ・クス(ユンボ・ヴィスマ、アメリカ) 35:23’30”
2 マルク・ソレル(UAEチームエミレーツ、スペイン)+0’43”
3 レニー・マルティネス(グルパマ・エフデジ、フランス)+1’02”
4 レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)+2’22”
5 ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)+2’29”
6 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)ST
7 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)+2’33”
8 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)ST
9 フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)+2’43”
10 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)+2’55”

ポイント賞

カーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク、オーストラリア)

山岳賞

エドゥアルド・セプルベダ(ロット・デスティニー、アルゼンチン)

ヤングライダー賞

レニー・マルティネス(グルパマ・エフデジ、フランス)

チーム総合時間賞

ユンボ・ヴィスマ 105:39’44”

ブエルタ第2週の見どころ

第1週から激しいマイヨ・ロホ争いが見られているが、それは第2週で一層拍車がかかるはずだ。

まず、25.8kmで競う個人タイムトライアル(第10ステージ)で個人総合順位がシャッフルするだろう。クスはジャージを守れるか、追うレムコやクスのチームメートであるログリッチやヴィンゲゴーも順位を上げてくることが予想される。

ブエルタならではのカテゴリー設定「平坦ステージ上りフィニッシュ」の第11ステージ(163.5km)は、1級山岳ラグーナ・ネグラの頂上フィニッシュ手前で最大勾配14%ゾーンへ。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2023第11ステージ レイアウト ©️ Unipublic

今大会2回目の平坦区間となる第12ステージ(151km)は、風がレース展開にどう作用するか。プロトンを崩すほどの強風が吹けば、個人総合の行方にも影響があるかもしれない。

第13ステージ(135km)は、今大会の中でも極めて重要な1日。スタートして早々にフランスに入国し、ツール・ド・フランスでおなじみの超級山岳オービスク(登坂距離16.5km、平均勾配7.1%、最大勾配13%)、1級山岳スパンデル(10.3km、8.3%、15%)を立て続けに登坂。そして最後は、魔の山トゥルマレへ。この山の登坂距離自体は18.9kmだが、実質最後の35kmは上り通し。当然ながら超級山岳にカテゴライズされ、平均勾配は7.4%、最大勾配はフィニッシュ前の13%。頂上のフィニッシュラインは標高2115m。これらの山々を攻略した選手が、きっとレース後にマイヨ・ロホを着ていることだろう。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2023第13ステージ レイアウト ©️ Unipublic

続く第14ステージ(156.5km)も中盤までをフランス国内で走行。しばし平坦路を行き、超級山岳ウルセール(11.1km、8.8%、14%)で突如として山岳区間へ。いちど下ってから上る超級山岳ポール・ド・ラローは登坂距離14.9km、平均勾配8%だが、これは下りを入れての数字。実質15%前後の上りが続く難所で、この頂上からスペインへと戻る。3級山岳をはさみ、最後は1級山岳プエルト・デ・ベラグア(9.5km、6.3%)へ。その前の超級2つと比べると易しく、フィニッシュに向かって緩斜面となるが、そこへたどり着くまでの選手たちの消耗度はいかに。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2023第14ステージ レイアウト ©️ Unipublic

第2週最終日の第15ステージ(158.5km)は丘陵地を行き、2級と3級の山岳が合計3つ。最後の2級山岳からフィニッシュまでは8.5kmで、下りと平坦というレイアウト。フィニッシュめがけて駆け下る選手たちのスピード勝負となるか。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 公式ウェブサイト
https://www.lavuelta.es/

福光俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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