似て非なるもの、新型ドグマFデビュー|PINARELLO
安井行生
- 2024年06月20日
INDEX
ピナレロの旗艦、ドグマFのモデルチェンジが発表された。これまでとは違い、車名の変更はなし。見た目も前作に酷似している。どこが変わったのか。自転車ジャーナリストの安井行生がお届けする。
レーシングバイクの雄、ドグマが11代目に
初代ドグマのデビューは2003年。マグネシウム合金のメインフレームにオンダフォーク、カーボンバックという構成だった。2004年のドグマFP、2007年のドグマFPXと熟成を重ね、ロードバイク金属フレーム時代の最終章を飾るモデルとして名を馳せた。
2010年にはカーボンフレームのドグマ60.1に進化。左右非対称設計や高弾性カーボンを取り入れたことでトップクラスの走行性能を誇り、「金属フレームが得意なピナレロ」から、「カーボンフレームも上手いピナレロ」へと転身。2012年にはドグマ2、そのたった1年後にはドグマ65.1へと矢継ぎ早にニューモデルを投入。2014年にはディスクブレーキ版も追加する。
2014年、ドグマはがらりと形状を変え、ドグマF8に。このときから空力性能を強く意識した設計となり、2017年のドグマF10、2019年のドグマF12へと進化を続ける。
F8、F10、F12と1つ飛ばしで数字を進めながらグランツールで勝利を量産してきたエアロ時代のドグマだが、2021年に数字を廃した「ドグマF」を発表。ドグマF12からさらなる軽量化と、空力性能強化、剛性向上を実現しており、ディスクブレーキに加えリムブレーキモデルも用意されていた。
そして、オリンピックイヤーとなる2024年に発表された次世代のドグマは、前作と同じ「ドグマF」を名乗る。モデル名を完全に継承するのはドグマ史上初のことだが、これは現在のピナレロのラインナップが「レーシングバイク=Fシリーズ」、「エンデュランスバイク=Xシリーズ」と整理統合されたことによるものだろう。
ドグマF
どこが変わった?
名前は同じ。そのうえ、見た目も一見すると前作とほぼ同じ。F世代のドグマは形状が似通っているのが特徴だが、第1世代のドグマFと新型、第2世代のドグマFの違いは、今まで以上に小さい。しかし細部を見ると、空力的・構造的に正常進化と言える違いが見て取れる。
ドグマに使われるカーボン素材
まずはフレーム素材。これまでもピナレロは東レの60トンカーボンや65トンカーボン、T1100などの高性能繊維を採用してきたが、新型ドグマFに使われているのは東レのM40Xという最新世代の高弾性繊維だという。炭素繊維の強度(壊れにくさ)と弾性率(変形しにくさ=剛性)は、基本的にはトレードオフの関係にある。素材の特性と製法上の都合によって、炭素繊維は弾性率を上げると強度は下がってしまう。強度を上げると弾性率は低下する。
しかしM40Xは、高い弾性率を有しながら、強度も犠牲になっていないという特性を持つ。もちろんフレーム全部がM40Xで作られているわけではないが、この素材を使うことで、軽量化と高剛性化を同時に実現させられることになる。新型のフレーム重量は第1世代とほぼ同じだというから、性能余剰分を高剛性化に振り分けたのかもしれない。ただし、シートクランプやシートポスト、ベアリング周りなどの軽量化で、フレームセットでは前作比108g軽くなっているという。スラム・レッド完成車(ホイールはプリンストン・ピーク4550)で6.63kgだ。
なお、新型ドグマにリムブレーキ版は設定されず、当面は第1世代ドグマFのリムブレーキモデルを併売する。
コラム形状が「楕円」に変更、ハンドルは専用品に
次に、空力性能のブラッシュアップ。バイク全体の空力性能に大きく影響する専用ハンドル、タロン・ウルトラファスト一体型コックピットは、トレンドであるフレア形状を取り入れつつ、よりエアロな形状に。
楕円形になったフォークコラム
そのハンドルが付くコラムは、第1世代の真円から横方向に広い楕円断面になった。これにより、ブレーキケーブルのルートがコラム脇からコラム前面へと移動、それだけヘッドチューブが薄くなり、空力的に洗練された。そのトップチューブに連なるダウンチューブ上部もスリムになっている。
第1世代ではコラム脇にケーブルを通すため、ヘッドベアリングは上下とも1.5インチだったが、新型はコラムを異形断面にしたことで、上側:1-1/8インチ、下側:1.5インチとなった。
フォークコラムが楕円となったことで、専用ハンドルのコラムクランプ部も楕円に。よって新型ドグマには他社のステムは装着できない。その代わり、ステム長が80~140mmの7種類、ハンドル幅は340(レバー取り付け部)-400mm(ドロップ部)、360-420mm、380-440mm、400-460mmの4種類と、豊富なサイズラインナップを用意している。
前方にオフセットしエアロになったBB
また、一目見て変わったと分かるのはダウンチューブ。BB部分に対しダウンチューブ下部が前方にオフセットする設計となり、「エアロキールボトムブラケット」と呼ばれるボリュームのあるBBエリアとなった。これは、アワーレコードにチャレンジしたボリデから受け継がれた技術なのだという。結果、バイク全体で0.2%の空力性能向上を達成した。まさにマージナルゲインだが、現代のロードバイクのブラッシュアップ作業とはこういうものなのだろう。
マージナルゲインを減らしたオンダフォーク
ピナレロのアイコンの一つであるオンダフォークも新設計。空力を向上させつつ、フォークオフセットを前作の43mmから47mmへと伸ばし、ハンドリングと安定性を高めた。フォークとフレームのエンド部分も改良された。スルーアクスルのシャフト穴のネジ山側がふさがれ、ルックスがすっきりしたうえ、空力性能向上にも貢献しているという。
より軽くなったシートクランプ
前作では上面が露出していたシートクランプだが、新型では完全内蔵。クリーンなルックスとなったうえ、汗や汚れの侵入を防ぐ。金属製のクランプパーツは小型化され軽くなった。なお、シートポストの挿入部分の断面形状は前作とほぼ同じようだが、新型シートポストは上半分がより薄くなっており、空気抵抗削減努力の痕跡が見て取れる。
このように、ほぼ同じに見えるフレーム形状だが、細部は細かく改良されており、エンジニアに言わせれば「似ているのはトップチューブくらいのもんさ」ということらしい。
イタリアンロードの心
ジオメトリ面ではピナレロ流儀が貫かれている。第1世代同様、新型ドグマFのフレームサイズは11種類。1サイズごとに高価な金型が必要になるカーボンフレームにもかかわらず、ここまで多くのフレームサイズを用意するのは他のメーカーには真似できない施策だ。ハンドルサイズのバリエーションの多さも含め、ここはいくら褒めても褒めすぎにはならない。フレームサイズを4~5種類でよしとするメーカーのみならず、「空力がよけりゃいいんだろ」とばかりにハンドル幅を360mmの1種類とするメーカーも出現するなか、この点においてやはりピナレロは素晴らしい。イタリアンロードバイクのハートはここにまだ生きている。
販売形態はフレームセットのみ。完成車が当たり前になっている今となっては珍しい手法だ。トップモデルらしく、フレームカラーは6種類と豊富。塗装はイタリアで行っているそうだが、どのカラーもさすがに丁寧な仕上がりだ。もちろんピナレロのカラーオーダーシステム「マイウェイ」にも対応しているため、“世界に一つだけのドグマF”を作ることも可能だ。
フレームセット価格は専用シートポスト込みで115万5000円。この価格に専用ハンドルは含まれておらず、別売(19万円3600円)となる。ロードバイク界きってのハイブランド・ピナレロの最新鋭トップモデルとはいえ、フルセットで130万円を超える。果たしてその価値はあるのか――。後日公開のファウスト・ピナレロ氏インタビューや新旧ドグマF比較試乗を通して、新型ドグマFとピナレロの今に迫る予定だ。
ドグマ F
価格:115万5000円(フレームセット、専用シートポスト込み)、19万円3600円(専用ハンドル タロン・ウルトラファスト)
- フレーム素材:カーボン(東レ・M40X)
- カラー:LUXTER RED GOLD、EDGE CHRISTAL WHITE、LUXTER VENICE、LUXTER BLUE、BOB、AURIK YELLOW
- タイヤクリアランス:30C
- BB:スレッド式(イタリアン)
問:カワシマサイクルサプライ https://www.riogrande.co.jp/
▼ファウスト・ピナレロ氏のインタビュー記事はコチラ
▼新型ドグマF試乗記“F世代”の集大成、記事はコチラ
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