成長したい時に、本を手に取る。|『鮨とかみ』大将 佐藤博之さんが読んできた本
buono 編集部
- 2020年09月11日
「本はあまり読みません」
こう切り出すのは、銀座の地で予約困難な鮨屋としてその名を轟かせる『鮨とかみ』の大将・佐藤氏。
「こんな風に話すと、不勉強と思われるかも知れませんが、手にしないのは鮨の技術書の類です。多くの鮨職人は、長い長い修行時代に親方や兄貴分の仕事を盗み見ては、技術書で知識を補っています。姿勢としては素晴らしいですが、ずいぶんと遠回りなことをしているな、と」
カウンターの中は“狭い”から……
達観したような口ぶりは、同業からの反感を買いそうだが、実は佐藤氏自身、現在に至るまでは“遠回り”をしてきた張本人である。
「カジュアルダイニングのサービスマンから鮨屋での修行、その後の出会いから、現在。鮨職人としては変わったキャリアかも知れませんね。ですが、異なる環境に身を置いたからこそ気付かされたことがあります」
佐藤氏が料理人として最も大切にしていること。それは“人”であるという。
「料理を提供する先にはお客様が、つまり人がいます。そしてこちらも人。その人間関係こそが重要であると考えます。料理ばかり勉強して、人として成長していなければカウンターに立つことはできません。閉鎖的な厨房で多くの時間を過ごすからこそ、人間的な成長の糧となる本を手にしています」
佐藤さんがおススメする本と一言レビュー
1.「ARIgATT」IMAGICAパブリッシング
業界デビュー期の一冊
佐藤氏が飲食の門を叩いた2000年代初頭、“飲食スタイルマガジン”として一世を風靡した雑誌。
「ウェブが今ほど一般化していなかった時代 に、ほかの店の様子を知ることのできる雑誌として、まわりのスタッフとともに読み込んでいました。写真を見ながら、自分だったらこんな内装にするな、と想像を膨らませていた覚えもあります」
2.「20歳のときに知っておきたかったこと」ティナ・シーリグ・著/CCCメディアハウス
ブレイクスルー期の一冊
鮨屋での厳しい修行を経て、新天地として移籍した麻布十番の和食店『尾崎幸隆』時代に出会った本。
「盲目に料理人として突き進んでいた人生、生き方が世の中とズレていないか確認したく開いた本です。知人に 紹介された本ですが、タイトルを知った時に読まなければと思いました。といっても、手にしたのは30歳になってからなんですけどね(笑)」
3.「人を動かす」デール・カーネギー・著/創元社
『とかみ』開業期の一冊
「気持ちにも余裕が生まれ始め、まわりが見えるようになってきた時に手にしました。それまで自分のスキルを磨いてきましたが、仲間と一緒に仕事をすることについてあらためて考えたことがなかったのです」
技術だけで勝負してきた料理人から、人をマネージメントする経営者としての視点を持った飲食業界人へと一 歩踏み出すきっかけとなった一冊。
4.「サーフ・レジェンド・ ストーリーズ」山森恵子・著/枻出版社
『とかみ』発展期の一冊
「サーフィンを始めたのは24歳です。自然と遊ぶことの楽しさに魅了されました。波が立たないこともあり、 同じ波は来ない……。今はそんなサーフィンから人生を教えられています」
波に立ち向かう苦悩と波に乗る快感。早朝の河岸から深夜までの営業と多忙を極める佐藤氏にとって、海に入れないときに波を感じるための手段がこの一冊だという。
5.「なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか」本田直之・著/ダイヤモンド社
現在の一冊
「鮨に携わる人間は、鮨の世界から逃れられないものです。しかし、料理の世界は広い。つまり、料理人としての可能性は際限なく広いのです。気付かないのは料理人自身です」
いままでになく、世界的に和食がブームとなり、中でも鮨が注目を集める時代に、再認識すべくページをめくり確信を得たという。その後のとかみ香港進出は記憶に新しい。
Profile
鮨とかみ 大将 佐藤博之氏
日本屈指の鮪と赤シャリを巧みに操り、30代にしてミシュランで星を獲得。異例の若さの星付き江戸前鮨職人と彼が率いる「鮨とかみ」は、国内外のグルメたちの注目を集めている。
鮨とかみ
住所/東京都中央区銀座8-2-10 銀座誠和シルバービル B 1 F
TEL/03-3571-6005
営業/12:00〜14:30、17:30〜23:00
休み/日、祝日
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PROFILE
buono 編集部
使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。
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