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【道具研究】生ける伝説、日本中のシェフが頼る包丁研ぎ職人とは?

包丁に人生を捧げた職人ここにあり

「ものすごい包丁職人がいるから、是非とも『buono』で取材してほしい」。そう情熱的に話すのは、『六雁』のシェフ秋山能久氏である。10年以上前にその包丁の存在を知り、今年ようやく縁があって自身の包丁を造ってもらうことができたのだという。

『日本橋蛎殻町 すぎた』、『銀座しのはら』、『銀座 和食ひまわり』、京都の『未在』、『杢兵衛』、『菊乃井』、大阪『鮨処 平野』、そして銀座『六雁』……。そうそうたる名前が並んでいるが、これらの店の料理人の包丁を作っているのが佐賀県にある『二葉商会』の坂下勝美氏だ。
坂下氏の包丁に惚れ込んだ料理人たちは、その包丁を手にして料理に対する姿勢に襟を正すことになったという。

「包丁に人生のすべてを捧げている坂下氏の包丁を手にした瞬間、自分の中に一本の芯が通ったような気がしたんです。料理人人生の中で、私は40本以上の包丁を使ってきました。けれど、坂下氏の包丁を使ってからは、これ以外は使いたくないという思いが湧いてきたんですよ」
そう秋山氏は話す。そこまで、料理人を魅了する包丁とはどのように生み出されているのだろうか。どうしても知りたい。それを確かめるべく、12月のある日、佐賀に飛んだ。

本場・堺での修行と地道な独学

佐賀県鳥栖市の中原の駅からほど近くに『二葉商会』は工房を構える。出迎えてくれたのは、御年74歳の坂下氏。坂下氏は高校を卒業して電気関係の仕事に就いたあと、病気が発覚したため故郷である鳥栖に戻ってきたという。そこが坂下さんの包丁職人としてのキャリアのスタートだった。
「鳥栖に包丁を研ぐ機械を作って特許を取った人がいると聞いて、話を聞きにいったんよ。そしてその機械を魚市場で販売することになって、九州中の魚市場を回ってたんだが、『あんたの包丁は最初はよく切れるけど、すぐに切れなくなるな』と言われてな。やっぱり包丁は、昔ながらのやり方で研がなくてはいけないと砥石の勉強を始めたんよ」

そうして坂下さんは、独学で砥石の勉強を始め、本格的に包丁研ぎの世界に入った。勉強を始めて6年が経った頃、やはり包丁の本場で職人の和包丁造りを勉強したいという思いが高まり、意を決して、刃物の産地として名高い大阪・堺の門を叩いたのだという。

「昭和52年の頃に、3万円を握りしめて堺に行ったんよね。そこで、若い職人さんの鍛冶屋さんにお世話になって色々な仕事を見せてもらったんよ。けれど、職人さんはやっぱりよそ者に技術は教えてくれない。目で見て技を盗むしかない。ぽつりぽつりと話しはしてくれたけど、その意味を理解するのに結局5年はかかったね」

そうして佐賀へ戻り、またひたすら独学で包丁を研究し続けたという。「昔は包丁屋というのは、社会的身分が低くてね。機械販売の時に魚市場を回っていた時も、『包丁屋の分際でネクタイをしてきやがった』とかなんとか言われたんよ。自分の仕事が認められ始めたのは、この工房を作った平成元年頃だったかね」。坂下氏の仕事は口コミで広がり、日本中の料理人から注文が入るようになった。

坂下さんは自らのことを「自閉症の引きこもり」と自嘲する。正月も休みなしに、毎日工房に入って包丁を研ぎ続けているのだ。
研いだ包丁に水を落として、研ぎの様子を見る。水が刃先から落ちるということは、しのぎの削りが甘いということ。切っ先から水が落ちれば、しのぎがきれいにそっている証拠となる。

包丁の研ぎが料理の味わいに一役買う

坂下氏は日本中から届く包丁を研ぎながら、自らの包丁造りも行う。「包丁屋の中にも今は、造るだけで包丁のことを知らない職人が多い。包丁を造れても、研ぎができなければ一流とは言えないんよ。私は包丁を買ってくれた料理人たちに、包丁とはどんな道具かまでを教えてるんよ。そこで、『包丁は研ぐな、減らすな』と口をすっぱく話してる」

毎日、大切に包丁の手入れをしている料理人であれば、ひっくり返ってしまうような話だが、実際に坂下氏の包丁は研ぐ必要はない。ただ、毎日、返し(バリ)を新聞紙で取ってあげればいいのだという。

包丁を研ぐ必要がないというのは、どういうことか。

「包丁がキレないというのは、刃先が丸くなっているんじゃなくて、しのぎが抵抗するからなんよ。私の包丁は、刃先からしのぎまでの間を研いでくぼませて作ってるんよ。今は包丁屋がその研ぎをせずに問屋に卸しているから、すぐに包丁は切れなくなると感じる。でも、それは刃が切れないんじゃなくて、包丁の刃の厚みが素材を切る時に当たって抵抗になるからなんよね」

研ぎ卸しの仕事がきちんと施された包丁は、日々のお手入れはほんの少しでいいのだという。そうして3〜4年経った頃に集中的にメンテナンスしてほしいと坂下氏は話す。

「包丁というのは円なんよ。根本から刃先に向かって包丁は薄くなっていく。弧を描いているというのは、つまり円。刺身を引くという行為も円運動でしょ。そうすると砥石も円でなくてはいけないんよ。包丁の研ぎ方の基本でよく刃の角度で研ぐ、と言われているけれど、私に言わせると刃の角度で削ってしまうと、しのぎが広がるか刃が削れてしまうかどちらか。包丁は、本当は円運動で研いでいかねばならん。けど、毎日忙しい料理人が本当の研ぎをマスターするのは、時間がもったいないでしょ。だから、3〜4年経ったら私のところに持ってきなさいといっているわけ。包丁が良く切れると、素材の繊維がすーっと切れて、そこに出汁がきれいに染み込んでいくんよ。包丁の研ぎは、料理の味を左右することを料理人にしっかりと教えてあげたいんよね」

包丁職人は料理人を想い、包丁を研ぐ。料理人は食材や食する人々のことを敬いながらその包丁を日々使う。そして、お客様に感謝された時、料理人は包丁、そしてそれを作り上げた職人にも同時に感謝の気持ちが湧いてくるという。包丁と料理人の関係は、包丁職人と包丁、料理人、食材の生産者、そしてその料理をいただく私たちまでがその円の中に入っているのだ。坂下氏の仕事は、忘れかけていた相手を敬い、感謝をするという心を思い起こさせてくれるような仕事だった。

坂下氏の工房には、造った包丁が立てて置かれている。包丁の背中、しのぎ、刃の線の集合が一番美しく見える姿なのだという。

やすりをかける圧力で変形した指は坂下氏の仕事の勲章だ。

なぜ切れる!? 匠のシゴトを追ってみる

当然、その工程を見ても神業の域に達している坂下氏の真似をできるわけではないが、唯一無二の研ぎ技術はどうなっているのか気になる。ここでは特別に研ぎの工程を見せてもらった。

1 320番の円形のセメント砥石で1時間ほど研ぐ。

2 砥石は使い終わったら、目を起こすためにグラインダーの120番の砥石で研ぐ。これは、すべての砥石に行っている作業。

3 1000番のセメント砥石で研ぐ。

4 返しが出てきたら、1500番のセメント砥石でバリを取る。砥石に対して刃は平行にして研ぐ。

5 800番のセメント砥石で研ぎ、しのぎの目を合わせる。

6 1500番の砥石で研ぐ。粒子が細かくなるので、砥石の水の色がだんだんと黒くなっていく。

7 セメント砥石の4000番で研ぎ、つやを出す。

8 ダイヤペーパーを600番、1000番、2000番、3000番、4000番、6000番、8000番の順にかけていく。

9 しのぎの部分は刃先が残るようにペーパーをかける。

10 砥石のかけらで研ぎ、紋を出すようにくすませる。

11 天然砥石で45 度の角度(糸刃)で1~2回研ぎ刃腰を付ける。

12 密度のある天然砥石で裏の返しが完全に取れるまで研いで完成。

取材したのはこの人!

坂下勝美さん

昭和18年生まれ。徳之島出身の母と佐賀県鳥栖出身の父の元に生まれる。22歳の頃より包丁研ぎの世界に入り、現在に至るまで包丁一筋で仕事を請け負う。包丁についての知識を広めたいと料理人たちに包丁は何かということを伝える仕事も担っている。

二葉商会
佐賀県三養群みやき町原古賀939-5
TEL/0942-94-4980

出典

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buono 編集部

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使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。

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