感性を発揮するためのセオリーを学ぶ|『élan vital』深作直歳さんが読んできた本
buono 編集部
- 2020年10月02日
ストーリーを紡ぐためのバックボーンとなるもの
「“スペシャリテ”という概念を知り、自らの“感性”を表現する必要を知りました。そして、感性が独走しないために、“セオリー”は欠かせないと考え、書物を読み漁りました」
まるで映画館のような扉の先で繰り広げられるプロジェクションマッピングをも駆使した分子ガストロノミー。語り始めた深作シェフが提供するのは、食欲を満たす食事に留まらない、エンターテイメントだ。
「和食からスタートした私が辿り着いた今のスタイルは、ストーリーのある料理を通して、お客様に満足してもらう真剣勝負です。この勝負には感性だけでは勝てません。調理法、盛り付けといった料理の作法は当然のことながら、表現に直結する演出、仕掛けにおいても原理を知ることで可能性が広がります。私は料理を考える際にスケッチから始めますが、そこに描いた一皿を実現するためには、どんな食材、装置、技法が必要かは、セオリーが答えを導き出してくれるのです」
深作シェフが手にしてきた書物のレンジは実に幅広く、ジャンルを問わない料理本に始まり、科学装置のカタログ、科学の実用書が書棚に並ぶ。そんなシェフが今、気になっているのはガスだという。一体全体、ガスがいかに料理に活きるのか。 書物を紐解くシェフの姿が新たなストーリーの序章なのだ。
深作さんが読んできた本
【高校時代の一冊】
「鉄鍋のジャン」西条真二/メディアファクトリー
高校時代と今を繋ぐ不思議な料理漫画とは?
「高校時代にハマった漫画です。純粋に面白いと思って読んでいましたが、今読み返すと、火力や食材の使い方など、実に科学的なんですよね。 それにフレンチの技法もちょっと登場していたんです」。
料理原体験でありながら、今のスタイルにも通ずる科学的ノウハウを描いた『鉄鍋のジャン』。今また読み返して興味深いという、実に数奇な漫画である。
【修行時代の一冊】
「飾り切りと料理のデザイン」主婦と生活社
上京後に何度も開いた、修業をともにしたバイブル
振り返り、“苦難の時代” とシェフが語る上京後の修業時代に欠かせなかったのがこの一冊。
「茨城の和食料理店から東京に出て、レベルの違いに愕然としました。それまで左利きで通用していた厨房では、“右” を強要され、必死に練習したことを思い出します。しかしながら、当時の悔しさと鍛練が、今に繋がっているとも感じています」
【転換期の一冊】
「日本料理 デザート曼荼羅」丸田明彦/柴田書店
料理にストーリーを、その意味を再確認した一冊
「料理におけるストーリー性を模索している頃に参考とした一冊です。和食の盛り付けは規律に則るところが多いのですが、この本に掲載されている和のスイーツは、テーマに沿って作られたものばかりで、一皿の中にストーリーが盛り込まれていました。今提供している、ジャンルを問わないストーリー性のある料理と通ずるところがある本です」
【ブレイクスルー期の一冊】
「EYELA」(2015-2016)東京理化器械
シェフの願いを叶えるのは知る人ぞ知るカタログ
深作シェフらしい選書といえる、科学機器メーカーのカタログは2年前から愛読しているという。
「いわゆる“科捜研”の人たちがDNA鑑定をするための機器や、血液検査に使う遠心分離機が掲載されています。作りたい料理や生み出したい世界観、演出があるが、実現方法が見えない時にページをめくり、最適なツールを 手に入れています」
【現在の一冊】
「今さら聞けない科学の常識—うろおぼえを解消する102項目」朝日新聞科学グループ/講談社
気になることは調べ尽くす。それが深作流の料理術
「量子力学や物理、恐竜やニュートリノ……。言葉では聞いたことがあっても説明ができないことが多い。分からないことは放っておきたくないですし、そこに料理のヒントがあるんです。この本で紹介されている『遠赤外線』も正しく原理を理解することで、狙った効果が得られます。分かった気にならずに学び続けることが、料理の発展につながるのです」
Profile
élan vital シェフ 深作直歳
仕出し弁当店の実家に生まれ、進学校に通うも高校卒業後に料理の道へ。和食、フレンチで修業を積み、2016 年より北参道『élan vital』で独自の世界観を反映した料理で話題を集める。
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PROFILE
buono 編集部
使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。
使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。