魚の鮮度に革命を起こした「神経締め」をウエカツ水産 上田勝彦氏に訊く
buono 編集部
- 2022年12月30日
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最近、料理屋などでも「今日の鯛は神経締めで……」という旬のワードが飛び交っているが、「神経締め」とは一体どのような技なのか。神経締めを世に広めた立役者の上田勝彦氏は話す。
魚がもつ様々な旨味をあらゆる技術で開かせる
「神経締めの目的は、死後硬直までの時間を延ばし、2つの旨味成分の生産を増やすこと。魚は死後20時間までは甘みを主体に感じさせるイノシン酸が中心。その後、硬直期に入ると始めは旨味はあまり感じられなくなりますが、硬直が解けるにつれて魚の細胞が分解し始め、アミノ酸などの複雑な旨味(熟成味)が徐々に増加します。この2つの旨味のピーク時間を高めながら、保存期間を長くするのが神経締めの主な狙いです。魚の旨さというものは締めた直後から腐敗するまで、様々に質が変化する、その段階に合った調理法で味わうのが魚の醍醐味です」
そう聞くと、魚の旨味のピークやグラデーションをもっと知りたい! と渇望してしまうが、我々のような素人料理人にも、神経締めは挑戦できるものなのだろうか。
「頭骨の形や位置、神経の通るルートや太さは魚種やサイズによって異なり、それなりの知識と経験が必要。ただ、この技術の根底には、もし自分が魚だったらどのように安らかに絞められたいかという思索があります」
まずはその辺りを理解するためにも、上田氏に本場の神経締めをご披露頂いた。
上田氏の神経締めを拝見!
上田流神経締めは魚への愛情が細部に光る。鯵でその手順を見せていただいた。
(撮影協力=ひまわり市場上大岡店)
使用道具
手順
1.活け越し
できるだけ海に近い環境で活魚を休ませ、体内の疲労物質を分解し、元のエネルギー物質を温存するに戻すことで、それが旨味に変わる。
2.即殺
休ませた魚の頭蓋骨を手カギを使ってしっかりと壊し、魚を脳死状態にする。魚は無理に抑えつけず、マットなどの上で優しく扱う。
3.放血
即殺して大人しくなった魚のカマ骨の膜を切り、エラの間から、奥の太い喉元の血管を1か所切る。内臓や身を傷つけないよう注意。
魚を海水に放つと魚自身の血圧で全身の血液を押し出し始める。頭と尾を切る方法もあるが、筋肉中の毛細血管に血液が残ってしまう。
魚を海水から持ち上げた時に、赤い水が出なくなったら、放血でほとんどの血液が出きったサイン。
4.神経抜き
脳死後も出る分泌物を止めるため、頭から尾まで神経に沿ってワイヤーを差込む。
5.予冷
神経締めの魚には一定の体温があり、時間が経つと変色が始まるため、薄めの海水氷で5度前後まで一気に冷やす。
予冷後、魚の色は生きている状態に限りなく近く、目もくっきりして色味も鮮やかにもどる。予冷しないと鯵の場合は黒っぽくなる。
6.保冷
発泡スチロールの温度さえも魚に直接当てないよう、容器内を濡らした新聞紙を敷き、表面にはラップをかけて蓋をする。
薄い海水で作った氷を少しだけ置くが、直接魚に当てないよう配慮する。庫内は5°C前後をキープし、配送距離によって調整する。
魚ポテンシャルを最大限に引き出し、釣りたての魚を凌ぐ極上魚に!
まず、保冷ボックスから取り出して驚いたのは、臭いがほとんどしないということ。包丁を入れてみるとそのサクッとした切れ味、身の締まり方、透明感、どれをとってもこれまでに触れたことのない究極の鯵であることが分かる。味は当然、極上だ!
一般的な鯵と比較すると……
まず論外。近所の魚屋で仕入れた鯵だが、買ってすぐでも臭いがプーン。包丁を入れた感触はぐにゃり……。
教えてくれた人
ウエカツ水産
上田勝彦さん
大学卒業後、元漁師という異色の水産庁職員に。2015年に水産庁を早期退職し、株式会社ウエカツ水産を設立。魚食の復興の為に漁業関係者向けの講習会から、魚の料理教室の講師まで幅広く「魚の伝道師」として活動。
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PROFILE
buono 編集部
使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。
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