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温暖な瀬戸内生まれのオリーブ牛が市場を席巻

オリーブの実で作ったオリーブ飼料を食べた香川産黒毛和牛がオリーブ牛だ。
抗酸化成分や旨味成分を含んだオリーブ飼料を一定期間食べることで脂があっさりした旨い肉になるという。
うどん県の新名物を紹介する。

一定期間オリーブ飼料を食べて育つオリーブ牛

肉牛の牛舎。子牛の一部を市場に卸しているが、ここにいる肉牛はほぼすべて子牛の頃から育ている。

うどん県に2010年、新しいブランドがデビューした。瀬戸内海に浮かぶ小豆島で誕生したオリーブ牛だ。温暖な気候風土に恵まれたこの島ではオリーブが栽培されてきた。秋に収穫したその実を搾り、オリーブオイルを生産する。その搾り果実を高温で乾燥させたオリーブ飼料を、出荷前の2ヵ月間毎日100グラム以上食べさせた牛をオリーブ牛と命名したのだ。

2007年、讃岐牛(黒毛和牛)を育てていた小豆島の農家が、オリーブの搾り果実を天日乾燥したものを牛に与えたところ、旨そうに食べてくれた。

翌年、出荷したその枝肉を見た加古川中央畜産荷受(兵庫県加古川市)の市場関係者が、「いい脂だ、ブランド牛として育てたらどうだろう」と提案。当初3人でスタートしたが、2010年春、オリーブ牛のブランド名で販売することになった。

肉牛の牛舎。出荷2ヵ月前から毎日オリーブ飼料を食べさせる。

現在県下で68戸の農家がオリーブ牛を育てている。そのひとりが山種易産業(高松市)を営む倉山建造氏だ。瀬戸内海を望む高台の牛舎で、500頭弱の黒毛和牛を育てているのだ。

一般的に和牛農家は繁殖農家と肥育農家に分類される。母牛とその母牛から生まれた子牛を育て、生後約8ヵ月で出荷するのが前者。その子牛を市場でセリ落とし、肥育して食肉センターに卸すのが後者だ。

片や、山種易産業では繁殖させた子牛を肉牛に育て、出荷するまで自社で一貫生産している。

山種易産業には保育園的な牛舎があり、ひとつの柵の中でほぼ同じ月齢の子牛を飼育する。「2頭一緒に飼うと競うように餌をよく食べます。丈夫な胃袋を作ることで、肉牛にあげる際カロリーが高い餌を食べてくれるようになります」(倉山建造氏)。
「うちは元々繁殖農家でしたが、父親が昭和61年頃、当時としては珍しい一貫生産を始めました。一貫生産なら牛の移動もなくなるし、管理もきちんとできるなどのメリットがあります」と倉山氏。

「繁殖農家では生後約5ヵ月間、子牛を母牛と一緒に育てますが、うちでは生後7日で母牛と隔離します。ほぼ同じ月齢の子牛をひとつの牛舎で飼育したほうがきちんとミルクを飲ませることができるなど管理がしやすく、事故も少ないので安心して肥育できます」(倉山建造氏)

“保育園” を卒園した後は成牛として育てられ、生後26ヵ月頃からオリーブ飼料を2ヵ月間食べさせ約800キロで出荷する。オリーブ飼料を食べたオリーブ牛はどんな肉質になるのか。その特徴を取材した。

カラメルによく似た甘い香り、牛の食欲をそそる県産オリーブ飼料

肉牛の牛舎の柱には、その柵で肥育する牛の性別や、いつからオリーブ飼料を与え始めたのかといった飼育情報が書かれた札が掲げてある。

オリーブの実は、抗酸化成分のポリフェノールや旨味成分のオレイン酸を豊富に含んでいる。その実を搾った果実を高温で焙煎したのがオリーブ飼料だ。カラメルのような甘くて香ばしいニオイに誘われるのか、牛は長い舌でなめるように食べてくれる。

倉山氏がオリーブ牛の飼育を始めたのは10年前。全県あげてオリーブ牛を育てることになり、倉山氏の山種易産業でもその飼育に着手した。現在、山種易産業では母牛なども含め、約500頭を飼育する。その内の180頭がオリーブ牛候補で、年間約180頭を出荷している。

これが小豆島産オリーブ飼料だ。乾燥機で半日かけて高温で焙煎することで、カラメルを思わせる芳しい甘い風味が生まれる。食感は粗く挽いたコーヒー豆に似ている。
小豆島のオリーブオイルメーカーが作ったオリーブ飼料を農協が各農家に販売している。

肉牛の一貫生産には、管理のしやすさ以外にもメリットがあると倉山氏は語る。

「牛は繊細でストレスを感じやすい動物です。子牛市場で買った子牛をいきなり一緒に飼うとストレスを感じたり、いじめにあうことも。うちではほぼ同じ月齢の子牛を頭ずつ同じ柵で飼います。頭が競って餌を喰むことで体力もつき、丈夫な胃袋を作りやすくなります」

その後、4頭ずつひとつの柵で飼うのだが、幼馴染の牛たちは鼻を突き合わせながら、藁や配合飼料を喰む。出荷前の2ヵ月間、配合飼料などと一緒にオリーブ飼料を食べることでポリフェノールやオレイン酸を含んだ旨い肉になる。

カワイ国分寺工場
住所/香川県高松市国分寺町国分890-1
TEL/087-874-2941
営業/9:00〜17:00
http://kawai-meat.com/corporate/
※オリーブ牛の赤身肉は100g 1,000円で購入可能(税別・送料別)

食べ比べた末ミスジを選んだ地元の総料理長も下を巻いた

『高松国際ホテル』(高松市)の松原勉シェフは、オリーブ牛がブランド化される前からこの肉を使っていた。オリーブ飼料を食べることで、モモ肉やランプなどの赤身肉でもやわらかく、脂がさらさらで甘みも旨味もある肉になると松原シェフは説く。

『高松国際ホテル ぐりる屋島』 洋食総料理長 松原 勉 1965年香川県さぬき市生まれ。 2004年にドイツで開催された世界料理オリンピック大会に日本代表チームのメンバーとして出場。3部門において銀メダルを獲得した。2016年11月、調理師関係功労者厚生労働大臣賞を受賞。

「あっさりしているのに旨味や香りを含んでいるのがオリーブ牛の特徴。ロースやヒレなど色々な部位を食べ比べた結果、ミスジ(肩肉)に行き着きました。オリーブ牛のミスジは、これが肩肉かと驚くぐらい筋もないし、モモ肉よりもキメが細かいところも気に入っています」

高松国際ホテルにオリーブ牛を卸しているのが、食肉販売会社の『カワイ』(高松市)だ。カワイでは、山種易産業などが出荷したオリーブ牛の枝肉を市内の工場で食肉処理をほどこし、それを県内外のレストランなどに出荷している。脱骨作業と呼ばれる工程を見せてもらった。この日は去勢したオスのオリーブ牛を脱骨していた。骨に付いている筋を牛刀など大小様々な道具で切り取りながら、枝肉をさばいていく。

指を指している部分が、高松国際ホテルの松原シェフが使っているミスジ。「アメリカ牛とオリーブ牛のミスジでは香りも食感もまったく違います。私は香り高いオリーブ牛のミスジがとても気に入っています」(松原シェフ)。

その肉を部位ごとにパッキングしたものをレストランなどに配送する。シェフの間で人気が高いオリーブ牛の赤身肉を本誌の読者も購入できる。「これがあの赤身肉か」と驚きの声を上げるはずである。

松原シェフが太鼓判を押すオリーブ牛のミスジを使った「オリーブ牛の讃岐味噌 風味グラチネ」。ロティしたミスジに、バターと木の芽を和えた讃岐味噌(白味噌)を塗り、パン粉を付けて焼いた一品。ノビルや芽キャベツなど旬の野菜を添えて料理を供している。

 

高松国際ホテル ぐりる屋島
住所/香川県高松市木太町2191-1
TEL/087-831-1575
営業/要問い合わせ
休み/なし
http://tkh.anabuki-enter.jp/restaurant/yashima.html

オリーブ牛の肉質に惚れ込んだシェフによる3品のレシピを紹介

和牛の中ではほぼオリーブ牛しか使用しないというシェフが都内にいる。『丸ノ内ホテル』(東京都千代田区)の山口仁八郎シェフだ。オリーブ牛が誕生する以前は讃岐牛を愛用していた。その赤身肉に惹かれ、讃岐牛を選んだと山口シェフは告白する。

「霜が降っているように見える讃岐牛のモモ肉を高く評価していました。でも、今はオリーブ牛により魅力を感じますね。讃岐牛にオリーブ飼料を与えたことでより赤身が強調された肉質になったと思います。オリーブの実に含まれるポリフェノール効果で赤身がより甘くなり、脂がさらりとしていて美味しいです」

オリーブ牛のモモ肉のステーキと、オリーブ牛のバラ肉を煮込んだカレーライスとハヤシライスが、丸ノ内ホテルのメインダイニング、ポム・ダダンの人気メニューだ。

「オリーブ牛はステーキが一番。焼く際は肉汁を逃さないように注意しながら焼いてください。周りを先に焼き、片面を焼いたらもう片面を焼けば肉汁が逃げにくい(後述の「オリーブ牛イチボのサラダ仕立て 赤ワインビネガー風味」のレシピ参照)」

オリーブ牛にゾッコンだという山口シェフに、オリーブ牛を使ったレシピを3品教えてもらった。山口シェフは希少部位のイチボを使ったが、一般家庭ではモモ肉などの赤身肉で作ると淑女も目尻を下げてくれるはず。

オリーブ牛イチボのサラダ仕立て 赤ワインビネガー風味

赤ワインビネガー風味のソースをかけて食べる、牛肉のたたき風の一品。野菜もたっぷり用意したい。

材料(2人分)

オリーブ牛イチボ……170g
ハチミツ……6g
赤ワインビネガー……20cc
牛脂……適量
EXVオリーブ油……20g
ピンクペッパー……20粒
ドライグリーンペッパー(潰す)……20粒
パセリ(みじん切り)……少々
塩、コショウ……各少々

作り方

1 温めたフライパンに牛脂を溶かす。塩コショウで下味をした肉を中火で周り、両面の順に焼く。200°Cに熱したオーブンで5分焼く。

2 ボウルにハチミツ、赤ワインビネガー、塩、コショウ、オリーブ油、ピンクペッパー、グリーンペッパー、パセリを入れて混ぜる。

3 1の肉が焼けたらアルミホイルに包み、10分程度休ませる。

4 肉を繊維に逆らい、8mm厚に切る。クレソンやトレビス、チコリなどの野菜(分量外)と一緒に盛り付け、2のドレッシングをかける。

オリーブ牛イチボと旬野菜のグリエ マスタードソース

グリルしたオリーブ牛をマスタードソースで供する。肉と野菜にオリーブ油をかけて焼くのがポイント。

材料(2人分)

オリーブ牛イチボ……80g×2枚
ブイヨン(粉末で可)……50cc
白ワイン……25cc
粒マスタード……20g
ハチミツ……15g
塩……少々
コショウ……少々
EXVオリーブ油……適量

作り方

1 ブイヨン、白ワイン、粒マスタード、ハチミツを鍋で沸かしソースを作る。1.5cm厚に切った肉に塩コショウ、オリーブ油をかける。

2 中火で温めたグリルパンで肉を焼く。肉をのせ1分焼き、90度ずらしてさらに1分焼く。裏側も同様に焼い たら少し休ませる。

3 野菜(分量外)にもオリーブ油をかけ、グリルパンで焼き、皿に盛る。好みの大きさに切った肉も皿に盛り、1のソースをかける。

オリーブ牛イチボのエスカロップ唐揚げ風

唐揚げと言えば鶏肉だが、オリーブ牛の唐揚げも絶品。酒のアテにもぴったりなので、前菜にもおすすめ。

材料(2人分)

オリーブ牛イチボ……160g
白ワイン……45cc
醤油……75cc
生姜(スライス)……少々
レモン汁……1/8個分
長ネギ(青い部分)……少々
白ゴマ……2g
ゴマ油……少々
片栗粉……適量
サラダ油……適量
レモン(くし切り)……1/2個

作り方

1 白ワイン、醤油を鍋で沸かす。生姜、レモン汁、焦がして香りを出した長ネギを鍋に入れる。白ゴマ、ゴマ油を入れて一晩寝かせる。

2 肉を薄切りにする。肉を広げ、1のマリネ液をかけて1分間マリネする。

3 肉に片栗粉をまぶし、200°Cに熱したサラダ油で20秒間揚げる。好みの野菜(分量外)と一緒に盛り付け、レモンを搾って食べる。

レシピを教えてくれた人

『丸ノ内ホテル』総料理長
山口仁八郎
1964年群馬県生まれ。都内や横浜のフレンチで修業後、丸ノ内ホテル入社。2004年の移転開業と同時に総料理長に就任。香川の食材に惚れ込み、オリーブ牛はもちろん、瀬戸内海産の魚介類も愛用している。

丸ノ内ホテル ポム・ダダン
住所/東京都千代田区丸の内1-6-3
TEL/03-3217-1117
営業/要問い合わせ
休み/なし
https://www.marunouchi-hotel.co.jp/ja/pomme

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