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南部鉄瓶に伝統工芸の美しい技を見る

400年もの歳月を経ても続く岩手県の伝統工芸、南部鉄瓶。インバウンドに加え、国内でも人気再燃中の南部鉄瓶の魅力を探りに、盛岡へ向かった。

再評価の機運高まる南部鉄器の魅力とは

「うちの工房だと、2カ月かけて40個作るのが精いっぱい。つまり1年だと240個。鍋や小物などは近代的な手法で作るものもあるけど、うちの鉄瓶は全工程手作業でどうしてもローペースになってしまうんです」

注文から平均で3年待ちになるという理由を、鈴木盛久工房の代表取締役鈴木成朗氏はそう説明する。それに加えて、中国を中心としたインバウンドの人気が急激に伸びたことも。

鈴木盛久工房 代表取締役 鈴木成朗さん

「2008年に中国で開催された万博に、岩手県がブースを出展し、そこで南部鉄瓶も紹介されたのがキッカケ。もともと青銅器文化が根付いていて、鉄器文化があまりなかった中国の人たちの目には、ある種、新鮮に映ったのでしょうね」

また、欧米では南部鉄器の芸術性の高さが評価されて、調理道具としてよりもアート作品として買い求める人々が増加。かくして、いまや数年待ちの人気ぶりになっている。

環付(かんつき)の原型もすべて手作り。多彩なモチーフがある。

そもそも南部鉄器とは、江戸時代初頭に、南部藩主が京都から盛岡に釜師を招き、茶の湯釜を作らせたところから始まると言われている。盛岡周辺は砂鉄や火山灰が砕けた川砂など良質な原材料に恵まれ、また藩による庇護を受けたため、江戸年間に鉄器の名産地として発展。18世紀に入ると、茶釜を改良した鉄瓶の生産も始まり、より多くの人に普及していった。

だが、明治維新で藩の後ろ盾を失ったり、第二次世界大戦中は軍需関連品以外を作れなくなったりと縮小を余儀なくされる時期もあった。それがこの10年ほどで再評価されているのは、先に述べたインバウンド需要が高まったという理由もあるが、南部鉄器そのものが持つ魅力が国内でもようやく再認識されてきたためではないだろうか。

シンプルなデザインの角鍋。シンプルな鍋料理でも味が優しくなる。

例えば、きちんと手入れをすれば長く使えること、ただ普通の水を沸かすだけで湯が美味しくなること、工芸品として美しく、なおかつ使えば使うほど風合いが出て、美しくなることなど。そしてそれぞれの工房ごとに個性や味わいがあること。

「たとえば、うちの工房の場合、“盛久ブラウン” と呼ばれる茶色がかった色合いが特徴だと言われます。また、量産しにくいけれども使い勝手が良く、美しい仕上がりも、代々守ってきた盛久の特徴です」と語る。将来16代目を襲名する鈴木氏の誇り高い笑顔が眩しかった。

肌打ちをする鈴木成朗さん。力の加減で肌目の凹凸が変わり、それは仕上がりの風合いにも大きく影響する、慎重な作業だ。

砂作りから始まる、およそ80もの工程

江戸時代から使われてきた木型(現在は鉄板を使用)や絵杖、使用前の中子やこれから中子に組み込まれるのを待つ鉄パイプなどの廃材が並ぶ。

鉄瓶作りは一度取りかかると、工程のやり直しや入れ替えは許されないため、今日どんな工程が行われているか、実は当日まで分からなかった。鈴木氏が言う。

「今日はほぼ土作りだから、写真を撮っても地味になるかも しれないですね」

確かに鋳物である鉄瓶作りで、見た目が華やかなのは吹きと呼ばれる、溶解作業だろう。コークスと鋳鉄を交互に鋳型に入れて、甑(こしき)と呼ばれる溶解炉で約1400〜1500度まで温度を上げる。真っ赤に熱した鉄を鋳型に流し込むフキは、まさに鋳物らしい作業だが、この日はフキではなく、土作り。延々と砂をふるいにかけ、古い鋳物砂を叩き潰す、一見すると地味な作業。

「でも、この砂がきちんとできないといい鋳型はできない。ガスの抜けが悪いと穴が開いてしまうこともあるんです」。特に鈴木盛久工房の鉄瓶は繊細な形状や模様が特徴なため、鋳型の厚みも薄く、こまかな砂作りが求められるのだという。「だからこそ、機械生産ではできない、薄さと模様を実現できる。それが手作りの工房の真骨頂ですからね」

それぞれの代の感性で新作を生んできた鈴木盛久工房

当主が変わるごとに、代々、新たな感性で新作を生み出し、それぞれの作風が開花するのが鈴木盛久工房。ただし、どれだけ代が変わっても、完成度の高さ、クオリティは変わらないのが老舗たる所以だ。

13代(大正13年〜)

無形文化財、繁吉の真骨頂。優美なフォルムの独鈷釜
日展連続入選、特選受賞のほか、海外でも評価が高く、文化庁から無形文化財として指定された13代。精巧な細工と美しい形が特長だ。

14代(昭和52年〜)

木の枝ぶりを釜に取り込む粋な14代
長く東京芸術大学の教授を務めた14代の貫爾。文化庁委嘱で復元模造を行ったほか、盛岡駅のオブジェ、フクロウの樹のデザインも担当した名士。

15代(平成5年〜)

初の女性当主。やわらかく優しい作風
現在の当主である志衣子氏は、この工房始まって以来の女性当主。写真の手毬紋鉄瓶のように、流れるような造形と手毬のようにやわらかな紋様が美しい。

鈴木盛久工房の南部鉄瓶が生まれるまで

「ざっくり言うと鋳型作りで1カ月。鉄になって1カ月」という南部鉄瓶づくりの工程を、工房で見せてもらった。大まかな流れを追ってみよう。

地元で採れる砂と鋳型を崩した砂を再利用で真土作り

鋳型を焼く際、温度が1,000度以上になるため、耐火性が十分でないと割れてしまう。使用するのは玄武岩などの地元産の砂と、使用済みの真土を叩き砕いたもの。砂の粗さや配合により、出来上がりが左右される。

美しいフォルムを生み出すのが「型挽」

木型を中心軸でぐるりと回転させて、ペースト状の真土に形をつけていく。粗い真土から徐々にきめの細かい真土にしていき、最後に絹真土と呼ばれるもので仕上げ。

仕上がりの厚みを決めるのが中子の作成

前の段階の木型よりも2〜2.5mmほど小さめに中子用の木型を制作。挽き上げた鋳型を焼き、川砂と粘土を混ぜ合わせた土をつめ、中子を抜き取る。

仕上げに向けて細かなバリを落とす

鋳型を型焼きし、吹きと呼ばれる鋳込みを行った後、窯焼きで酸化被膜をつける。釜焼きを終えたあとは仕上げへ。写真はヤスリや砥石で注ぎ口などに生じたバリ(反り)を滑らかにしていく作業。

職人手作りの絵杖で微妙な紋様を描く

鋳バリを落とした箇所は鋳肌も落ちているため、肌打ち用の鏨(たがね)で肌を打つ。鏨や金槌の先端には様々な凸凹がつけられており、それで打ち付けることにより鉄瓶の表面に砂肌と同様の風合いを付ける。

風合いを決める着色は別部屋で作業

鉄瓶を約200〜300°Cに熱しながら、くご箒を使って漆、おはぐろ(鉄さびとお茶を混ぜたもの)などで表面を着色する。この作業はチリ・埃が厳禁のため、土間に隣接する仕上げ部屋で行われる。

同様に着色した鉉を取り付けて完成

鉄瓶の取っ手である鉉(つる)にも着色し、鉄瓶本体の環付(かんつき)に鉉を取り付ければ完成。下の写真は鈴木成朗氏の作品、甑口鉄瓶(226,800円)。水や風が流れるような動きのある紋様が印象的。

長く正しく使ってこそ真価が表れる南部鉄瓶

「南部鉄瓶は手入れが難しい」なんて思いこんでいないだろうか。鉄である以上、サビに弱いのは確かだが、きちんと乾燥させれば大丈夫。「ただし、内側を洗剤で洗ったり、擦ったりは絶対ダメ」と鈴木氏。せっかく付いた湯アカが取れると、鉄瓶の良さである湯のまろやかさがなくなってしまう。「軟水なら赤茶色、硬水なら白い湯アカが付きます。どちらも付くほどに味が良くなるんです」。湯が濁って「サビかも」と思ったら自分で無理に落とさず、その鉄瓶を作った工房で相談してみよう。

【使用前】購入した直後は、湯が無色になるまで湯を沸かすべし

鉄瓶の使用前に必須なのが水を沸かし、それを捨てるという作業。沸かした湯が無色になるまで2、3回繰り返すべし。湯が無色になればOK。「鉄瓶がその良さを発揮し始めるのに約2週間かかるので、この期間中は鉄瓶を毎日お使いになることをおすすめします」

【使い方】鉄瓶が熱いうちにフタを取って乾燥を

鉄瓶を台無しにしてしまうサビ。サビを防ぐためには、沸かした湯をすべて出し、鉄瓶が熱いうちにフタを取って乾燥させるのが一番。火にかけて乾燥させる場合は弱火で、必要以上に熱しないのが重要。

【お手入れ】煎茶を浸した布で表面に光沢が出る

鉄瓶の外側、表面のお手入れは、乾いた布で軽く拭くだけで十分ですが、鉄瓶が熱い時に煎茶を浸した布でぽんぽんと叩くように拭くと、落ちかけた漆の光沢を補い、艶やかさを回復できる。

こんな使い方はNG!

  • 水分厳禁。使い終わったら、必ず内部を空にしてフタを開け、よく乾燥させること。表面の漆が変色してしまうため強火は厳禁。
  • ガスコンロ、IHヒーターなら弱火厳守。
  • 空焚きはNG。もし空焚きしてしまったら、水で急激に冷やさず、そのまま放置。
  • 内部をたわしでこすったり、洗剤で洗ったりしないこと。内側の被膜が台無しに。

これって赤サビ?と焦る前に湯を沸かして確認を

鉄瓶は使うにつれ、内部に湯アカと呼ばれる褐色の斑点や白い沈殿物が付着する。この湯アカこそ、鉄瓶の湯のおいしさのもと。沸かした湯が透明なら問題ない。

褐色の斑点が出ているからといって、サビだと早合点しないように。まずは湯の色を見てみよう。

 

鈴木盛久工房(すずきもりひさこうぼう)
住所/岩手県盛岡市南大通1-6-7
TEL/019-622-3809
営業/9:00〜17:00
休み/日曜
http://www.suzukimorihisa.com/

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buono 編集部

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使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。

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