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福島、新潟県境「銀山湖」を行く。湖上からしか行けない幻の渓谷へ

地形図に目を落とす。林道と一度も交差せず、湖に流れ込む一筋の沢。その楽園に立つ唯一の手段は、湖面を約13㎞漕ぎ続けるのみ。新しい旅道具SUPを手に知れた野郎3人は、生活道具をのせて、銀山湖を歩く。

文◎森山伸也 Text by Shinya Moriyama
写真◎太田孝則 Photo by Takanori Ota
出典◎フィールドライフ No.53 2016 秋号

幅80㎝のデッキで寝たり釣ったり宴会したり
SUPは水面に自由を与えてくれる乗り物だ

鏡のような湖を切るように。筋斗雲に乗っているみたい。乗ったことないけど。

訪日外国人観光客に向けたアウトドアフリーペーパー『トラベラー』の編集長、ガードナー・ロビンソンさんはある雑誌のインタビューでこんな主旨のことを言っていた。

「欧米人はカヤックからMTB、山歩きまでいろんなアクティビティーを楽しむ傾向にある。けれど、日本人はトレランならトレランとひとつの遊びに絞って熱心に取り組む人が多いですね」

休日の短さがそうさせるのか。日本人の勤勉さがそうさせるのか。変化を拒む保守的な国民性がそうさせるのか。とにかく脇目もふらず、ただ1点に向かって時間とお金、労力を注ぎ込む。そういう人、たしかに多い。それを「えらい! 一途!」と賞賛するお国柄でもある。どちらが良い、悪いという問題ではない。

付属ポンプでSUPを膨らませる。なかなかの重労働。

しかし、食べず嫌いのようになんにもやらないうちからコレと決めてしまうなんてもったいないなあと思う。井の中の蛙である自分に気づかないまま「自分にはコレが合っている」などと自分の可能性を狭めるヤツなどつまらないではないか。懐は、自然に向かって、大きく柔軟に、いつも開かれているべきなのだ。

去年、37歳にしてSUPと渓流釣りにハマった。すっかり生活の一部となっていた山登りはぼくから離れていき、今夏はSUPで仁淀川、佐渡島、粟島、竿をもって飯豊連峰や日高山脈などに足を運んだ。

そんなアウトドア夏場所の両横綱を組み合わせて、水辺が恋しいうちにもういっちょ遊べないものか(ちなみに冬場所の横綱はテレマークとBCクロカン)。そんな想いに冒され地形図を眺めていると、ルートが浮かび上がってきた。湖からしかアクセスできない山奥の渓流だ。こうして移動=SUP、目的=テンカラという両横綱ががっぷりよつに組む新たな旅がはじまった。

全装備は防水バッグに入れ船首に固定。これで雨が降ろうが沈しようが怖いもんなし。

メンバーは僕をSUPの世界へ引きずりこんだエイアンドエフ安曇野店店長のシゲさん、最近SUPを購入し「どっか連れてけ」と鼻息が荒いモチヅキの西脇さん、長野県在住でSUPを所有するカメラマン太田、計4名のオトコSUP旅だ。

われわれがめざす水辺は、福島県檜枝岐村と新潟県魚沼市に跨る銀山湖(奥只見湖)。銀山湖の西端、銀山平からSUPを出し、片道13㎞ほど漕いで片貝沢という、周囲に道などの人工物がまったくない手つかずの渓を遡る行程だ。

銀山湖はのっぺりと切り立った岩壁に囲まれ上陸地点が少ない。だが、SUPなら休憩も昼寝も小便も湖上でできる。なんて自由!

湖面を滑るようにやってくる晩夏の清々しい風が汗ばんだ足や腕を撫で心地よい。撮影を優先するためSUPではなく、推進力の高いカヤックに乗ってきたカメラマン太田が、汗を拭いながら恨めしそうに僕らを見ている。コックピットの中はサウナ化しているようだ。「もう暑くてかなわんよ」

わざと太田に聞こえる声で叫び、湖面に飛び込んで、しばし漂う。太田は鼻を曲げそそくさと先へ行ってしまった。

ジリジリと体を焦がす太陽から逃げるように湖面へダイブ。体が冷えたらよじ登る。これがSUPのいいところ。

SUPのいいところはこうして風を体に感じられ、いつでも落水できることだ。サザエを見つけたらジャボン。暑くなったらジャボン。さらに立ってもいいし座ってもいい。なんなら寝てもいい。カヤックのコックピットが苦手な閉所恐怖症ぎみのぼくにとっては、翼を与えられた気分になれる自由な移動手段だ。

50㎝オーバーのモンスターイワナがゆらゆらと足元を泳いでいる、はず

漕ぎながらトローリング。お、釣れた。あ、流木でした。

ここ銀山湖は50㎝オーバーのサクラマスやイワナがじゃんじゃん釣れることから釣り師の間で聖地と呼ばれる。釣り好きとして知られる作家の開口健もこの地によく足を運び、湖面に竿をたらしたという。

「銀山湖畔の水は水の味がし、木は木であり、雨は雨であった」。これは開口健が銀山湖の様子を激賞した言葉である。

うまいこと言うなあと思う反面、疑問が湧く。なぜならここ銀山湖は水力発電を目的にして造られた人造湖である。「水は水の味がし、木は木であり、雨は雨である」の言葉は、われわれがいまめざしている片貝沢にこそ当てはまる。いざゆかん、何百年と変わらぬ原生の地へ。

遊覧船の邪魔にならぬよう、タイミングを見計らって素早く片貝沢の入り江へ滑り込んだ。左右から切り立ったナメ滝と深い森が迫り、もはや簡単には脱出できない秘境感が湖面に漂ってきた。

観光遊覧船が通りすぎるのを岸影で待つ。観光客が湖面に立つ僕らを不思議そうに凝視した。

漕ぎ出して約3時間、ようやく片貝沢の流れ込みに着岸した。片貝沢の水流は想像していたよりも細く、勢いがない。

「ほんとに大イワナ、いるのか?」とだれもがこの疑問を抱えたであろう。しかし、ここはボートでしかたどり着けない釣りの聖地・銀山湖に隠れた幻の沢である。じゃんじゃん釣れるはず、と持ち前の根拠なき思い込みを発揮してひとまずビールを喉に流し込み、寝床設営に取りかかる。

片貝沢の流れ込み、右岸に幕営。風によって流れ着いた流木がごっそり転がり、座ったまま手を伸ばし一晩分を集められるほど! 裏のブナの森で獣がゴソゴソと動いていた。

片貝沢のインレット付近にテントを張れる平地があるか否かは不明だった。なので、西脇さんとシゲさんは2本の木さえあればなんとかなるハンモックテントを用意。雪の重みで曲がったブナの幹を支点にして、急斜面もなんのその、器用にハンモックを張った。

風がアブや蚊を吹き飛ばす極上のテント場。

ぼくはというとこれまでハンモックでゆっくり眠れたためしがないので、タープの下にSUPを滑り込ませ、その上に寝る作戦だ。固めのベッドがお好みの人には、SUPは格好の寝床となる。

ソーセージとベーコンは直火でカリカリに。トマトとズッキーニ、シイタケ、エノキなどをぶち込んでアヒージョに。
イワナ不在でちょっと寂しい焚き火。米を炊き、つけ込んできたタンドリーチキンを焼く。

クマが背中の下をのそのそ通りませんように。ブナの間に寝る秋の夜長

もっとも恐れていたアブもおらず、天気も安定し、酒も薪もたんまりあって、これぞ幸せの極み。足りないのは大イワナのみ!

15時、いよいよインレットから釣り上がる。2時間あれば、今宵の肴くらい確保できるだろうという読みは、甚だ甘かった。

ふたりが用意している間に竿を振ると、早速水面に飛沫があがって毛鉤が消えた。小さいけれど青い斑点がくっきり美しいヤマメだ。

第一投に食いついたちびヤマメ。パーマークがくっきりとして美しい。銀山湖、およびその河川での釣りは遊漁券¥1,050が必要。

なだらかなナメが行けども行けども続く。イワナなどの渓流魚は岸から張り出る岩や大きな石の影に隠れて、流れてくる羽虫や昆虫などを狙う。ナメにはその隠れ家がない。10㎝ほどのイワナとヤマメ、仕舞いにはハヤが顔をだす散々な釣果に少々アセる。

プールで竿を振る森山。あたりなし。「川底がつるっとしていて魚が隠れる岩がないね」と言い訳。

1時間ほど釣り上がると、幅が狭まり高低差のある大きな淵が続く渓相になった。そっと岩陰から乗り出し淵を覗きこむと、形のいいイワナが水深15㎝のところをゆったりと泳いでいるではないか。

あの鼻先にドライの毛鉤をゆっくりと落とせば、釣れるだろう。釣れなかったらいっそ釣りなんて辞めたほうがいい。そう思える絶好の条件であった。

歩くのは気持ちよいが、釣りには向かない美しいナメが続く。ポットホールで形のいいイワナがでたが、バラした。

死角となる岩を抱えながら息を止め、手先に意識を集中し竿を振る。イワナの頭から30㎝ほど上流、想い通りのポイントに毛鉤が落ちた。次の瞬間、岩の裏に隠れていたイワナが3匹、一斉にススーッと毛鉤に寄ってきた。

本命のイワナは「これはオレのエサだ」と思ったのかわからんが、慌てたようすで毛鉤に食いついた。グンと竿がしなる。これはデカイ! と期待したが23㎝ほどのイワナであった。


長い年月をかけ水が大きな岩盤を削った渓谷美。川筋は狭いが河原は広く竿を振りやすい。23㎝のイワナがあがった淵でネバる西脇さん。

豪雪の雪解け水にも流されず渓に棲み着くイワナだもの、元気がいいわけだ。野生に閃く命とのかけひきを制し、ぼくの心は満たされた。

テンカラ遡行はじめてのシゲさん。陽が沈むと早くテン場に帰って焚き火&ビールをたしなみたいご様子でした。

サイズなどを問題にしては、イワナに申し訳ないと思える会心の一投であった。釣り人はどうしてもサイズの話をしたがるが、大事なのは命を奪うため一投にかけた集中力などの重みなのである。負け惜しみではない。

片貝沢の流れ込みから釣り上がること2時間。魚止めの滝で毛鉤を食べてくれた22㎝くらいのイワナ。

その後、22㎝のイワナを魚止めで釣りあげ、タイムアップ。刺身にするにはどれも小さいので「大きくなって戻ってこいよ」とすべて渓に放った。

テンカラ初挑戦の西脇さんが釣ったイワナ。骨酒にするか?と迷った末「大きくなって戻ってこい」と放流。

翌日、風速5mほどの向かい風のなか必死に銀山平をめざした。SUPはカヤックほどの推進力はなく、風に弱い。涼しい顔をしながら先行するカヤッカーの太田が豆粒くらいに小さくなった。全力で漕いでも向かい風が少々肌寒い。復路はSUP組が苦虫をかみつぶす番になった。秋がやってきたのだ。

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フィールドライフ 編集部

フィールドライフ 編集部

2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

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