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河津川の源流から河口へ。ひと筆書き毛鉤釣り・前編

天城峠付近を源頭に、河津町で太平洋に注ぐ河津川。アユの銘川として知られるが、源流部ではヒレピンの天然のアマゴが狙え、河口のサーフでは、夏から秋にかけて毛鉤でヒラスズキが狙える。そこで、日中は涼を求めて原生林に覆われた源流でアマゴを狙い、夕刻からは、夜に活性が上がるヒラスズキを狙って河口へ移動。少々よくばりだが、一本の河川でひと筆書きの釣りに興じた。

取材・文◎遠藤 昇 Text by Noboru Endo
写真◎隈 良男、狩野イサム Photo by Yoshio Kuma & Isamu Kano
出典◎フィールドライフ 2018年秋 No.61

伊豆半島の渓魚・アマゴと沿岸の主・ヒラスズキを狙う

砂礫、岩石の多い萩ノ入川源流付近は、あちこち流れが分断され、魚の隠れる場所が多い段差のある急な渓流だ。規模は小さいが渓相も良く、林道や谷のなかでは気温が2〜3°C低くなるほど涼しい。しかし残念ながら、日中の魚影は濃いとはいえず、下手な釣り人としては、なんとか1匹釣れたのは幸運だった。

まだ昼すぎだというのに、広葉樹に覆われた河津川源流は薄暗く、毛鉤のアイにティペットを通すのも苦労するほどだった。

河津町の駅前で早めの昼食をすませ、河津川沿いに北上した。さらに河津の七滝(ななだる)から河津川への西からの支流、萩ノ入川の奥の奥へと車を走らせる。林道の車止めゲートから徒歩で林道に入り、砂防堰堤を越えた地点から入渓した。魚止めとも思われる、砂防堰堤の落ち込みから150mほど下流は、小渕の連続でアユにはほど遠く、アマゴの領域だ。

河津川は、標高1125m地点にある天城山・八丁池の南側山中を源流点に、途中、萩ノ入川、大鍋川、河津谷津川等の支流を合わせて、南東方向に流下する総幹川流路延長約16・4㎞の二級河川だ。

流域はすべて静岡県賀茂郡河津町に属しており、その約9割が山地だ。河津川水系の上流部は、巨岩、奇岩が顔を出す渓谷や滝があり、冬fの季節風(西風)から守られた温暖で多雨な気候は、まるでレインフォレストのような豊かで複雑な植生が覆っている。

河畔林に埋もれていたシカの骨。
花びらの少ない原種のアジサイ。
色づき始めたイヌビワ。伊豆半島の自然は深さと広がりがある。

岩肌に張りつく苔植物や枝に垂れ下がる地衣類が織りなす、濃密な源流部の風景は、まるで屋久島に来たかのような錯覚を覚えるほどだ。そうした原始的な風景が数多く存在している一方で、上流4㎞付近に位置する峰橋付近を境に、下流域は三方を山地に固まれた沖積低地(ちゅうせきていち)が河川沿いにわずかに形成され、その中央を河津川が流れ、相模湾にまで注いでいる。

朱点が少なめな伊豆東海岸型と呼ばれる天然アマゴ。体高もあり元気のよい個体だった

今回、その河津川の支流のひとつである萩ノ入川源流でアマゴを釣り、さらに河口でヒラスズキを釣ることを目指した。伊豆半島の大地の亀裂ひとつでもある、河津川の始まりと終わりを釣ることで、今年4月にユネスコから世界ジオパークの国内9地域目に認定された伊豆半島の在りようを、“毛鉤のひと筆書き”のような釣りで確かめようとの思いからだ。

*  *  *

「チチッ、チチッ」と、森の奥から小鳥のさえずりが聞こえてくる。砂防堰堤の上では、森から染み出た清水が小さなせせらぎとなって、浅いコバルトブルーのプールに注いでいた。小さな丈の木立は何度も大水に削り取られ、角々しい岩石に囲まれながら、かろうじて根を張っている。その木立の陰から膝を折り、景色に溶け込むように気を配りながら、そのプールへフワッと毛鉤を落とす。

萩ノ入川源流付近は、原始河川のような手つかずの河川環境が残っている。ウェイダーを履いてリバーウォッチだけでも楽しい場所

8月の日中の渓流では、ドライフライで釣るには陽が落ちてから、というのが一般的だ。そこで選んだ毛鉤は、ニンフ。マーカーを付け、定番だが14番フックのフェザントテイルを選び、その下に羽アリのような、プリンスニンフの16番を結び流れに乗せる。沈めてなんとか1匹、天然アマゴの顔が見たいという苦肉の策だった。

中・下流域は、地元の釣り人が多く見られる。

しかし、変化の多い細流では、水量も少なく魚影さえ見ることができない。そこで一旦車止めに戻り、砂防堰堤までの150mを釣り上がることにした。

>>>後編に続く

遠藤 昇(えんどう のぼる)

編集者、ダンス・オン・ザ・グラウンド代表、1961年横浜生まれ。『アウトドア・イクイップメントマガジン』(ネコパブリッシング)創刊編集長。ネイチャー・クォリティーマガジン『SOLA(ソラ)』(日刊スポーツ出版)創刊編集長。環境雑誌『ソトコト』(木楽舎)副編集長などを経て現在『Fishing Cafe』(木楽舎)編集統括などを努める。沖縄本島で釣ったイソフエフキが2012年4月4日付けで、『JGFA』クラス別世界記録に認定された。

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PROFILE

フィールドライフ 編集部

フィールドライフ 編集部

2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

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