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釣りまくって学ぶ”十勝テンカラ道場”

日本の伝承毛鉤釣り”テンカラ”は、この数年で北米を中心に注目を集めている。そのシンプルにして奥行きのあるこの釣りは、まったく釣りをしたことがない人から、高度化されたルアーフィッシングのプロの釣り師まで魅了する。そこで「魚がいなければ釣りは学べない」を合言葉に、 鯛ラバ釣りの第一人者でテンカラ初心者の佐々木洋三氏と北海道へ。ニジマスやオショロコマ、ミヤベイワナやサクラマスを先生に、十勝の河川、そして天然記念物ミヤベイワナの生息する然別湖(しかりべつこ)で第1回「テンカラ道場」を試みた。

取材・文◎遠藤 昇 Text by Noboru Endo
撮影◎狩野イサム、知来 要  Photo by Isamu Kano, Yoh Chirai
画◎シノハツミ Illustration by Hatsumi Shino

釣りを学ぶには多くの魚に出会うこと

「『竿は時計の針の12時で止め、10時まで振り下ろして止めるだけです。力は必要ありません。ヒュッと振り上げ、少しの押し出し加減で、ヒュッと止める。たったそれだけです』と、テンカラ大王の愛知工業大学教授・石垣尚ひさ男お先生は言っていました」と声をかける。

すると「12時で止めて10時まで振り下ろすは、わかるんやけど、その『ヒュッ!』の加減やね」と、酒造メーカー・サントリーの『Lure & Fry fishing Club OPA』の会長を務める佐々木洋三(ひろみ)さんは、独り言のようにささやく。

佐々木さんは海の鯛ラバ釣りの第一人者で、川ではイトウの1m超えや海では100㎏近いマグロの首根っこを押さえてしまうほど、強靭にして経験豊かなルアーアングラーだ。

20年以上も前にサハリンのイトウ釣行で使った思い出のウェイダーに身を包み、倒木を跨ぎながら十勝川支流を遡る佐々木さん。

その佐々木さんと釣行を重ねるたびに「今度いっしょにテンカラ釣りの武者修行をやりましょう」と計画を練っていた。そして、テンカラのちょっとだけ経験者である筆者とテンカラ初心者の佐々木さんが、北海道の十勝で思いきり竿を振るという機会に恵まれ、念願の”テンカラ”がかなったわけだ。

その記念すべき第1回をなぜ十勝で行なったのか? その理由は、これまでのふたりの釣り経験から得た共通認識からだ。

釣りで一番大切なことは、魚がいる場所で釣ることだ。魚がいれば魚は釣れるし、釣れない釣りは勉強にならない。魚が釣れることで、さらにテクニックを磨くことも可能なのだ。

「釣りを学ぶ」ということは難しいことではなく、いたってシンプルである。教則本などを読んで必要以上に難しく考えると、こんがらがってくる。”魚を釣る方法は魚が教えてくれる”、原野での自然へのさまざまな対応方法は”自然が教えてくれる”というわけだ。

そこで初日は知人からの情報をあてに、帯広空港から車で1時間半ほど北西に走った屈足(くったり)ダム湖の上流へと向かった。

河畔林の樹高があり頭上が抜けている河川は、テンカラ初心者にとってもっとも竿を振りやすい渓流だ。テンカラ道場、最初の一歩はここから始まった。

屈足ダム湖は、砲弾型のロケットレインボーと呼ばれる、たくましいレインボートラウト(ニジマス)が生息する十勝川の源流にあたる。そのさらに上流には岩松湖や十勝ダムがあるが、向かったのは屈足ダム湖と岩松湖の中間地点にそそぐ、名もない支流だ。十勝川沿いの舗装道路から支流沿いの林道を15分ほど走った、川幅10m足らずの小河川。

しかし河畔林は、そのまま深い森につながり、明らかにヒグマを含む野生動物のテリトリーである。

「遠藤さん、テンカラにぴったりの河川を見つけましたよ。川沿いの木立も背が高く、竿が振りやすいし、30㎝弱のレインボーとたまにオショロコマ(イワナの一種)が釣れる、いい川です」と出発前に貴重な情報を伝えてくれたのは、田淵行男賞を受賞した写真家の知来要さんだ。

十勝川源流で釣ったオショロコマ。朱点が美しく、本州のイワナとは違う神々しさがある。

その言葉どおり初心者でもロッドは振りやすく、毛鉤を枝に引っ掛けるなどのトラブルが回避できる河川だった。そして、その好条件と相まって、以前に授かったテンカラ大王・石垣先生のキャスティング指導の言葉が功を奏した。

川岸に立ち、右足を一歩前に出す。「竿は時計の針の12時で止め、ヒュッと振り上げヒュッと止める……」と口伝えし5分ほど練習しただけで、佐々木さんが送り出すラインはシャープに伸び、毛鉤が一直線に水面を叩く。

さすが大学で教鞭をとる方の教えだ。テンカラ釣りを解析し、さまざまな普及活動を続けてきた大王のツボを得た言葉は、的を得ている。口伝えにも関わらず、その成果は1投目から実を結んだのだ。

かわいいレインボーの数釣りを行い、取り込みからリリースまで一連の動作を熟達。

「狙いはあの筋やな」とつぶやきながら、流れのたるんだ場所へキャストした佐々木さんの毛鉤に水面を割って躍り出たのは、元気な25㎝ほどのレインボートラウトだ。25㎝とはいえ、テンカラロッドの先端をしっかりと曲げ、流速の強い流心へとラインを引っ張っていく。

そして、針を外そうと必死にジャンプまで見せてくれる。しかし、テンカラ初心者ながら”掛けてしまえば釣りのプロ”である。佐々木さんの見事なロッドワークはレインボーの執拗な抵抗を軽くしのぎ、ゆっくりと手元に導くと、苦もなくランディングネットに収めてしまった。

少々サイズの良い音更川でアメリカン・テンカラともいうべき、道糸にフライラインを使ったテンカラ釣りを行なった。長いロッドを高くあげ、左手でそっと魚を取り込む佐々木さんの動作はさすが。

「いやー、感動です。テンカラ1投目の1匹ですから。それにしても綺麗ですね。最近はマダイとかタチウオ、ブリやキジハタなど海の魚ばかり相手にしているから、渓流魚の繊細な美しさは、なんともいえません」と、晴れやかな笑顔をこちらに向ける。

その後、テンカラのキャスティングのコツをつかんだ佐々木さんは、わずか数百メートルほど川を遡上する間に、25㎝〜30㎝弱のレインボーを釣って釣って、釣りまくった。

以前、この連載でテンカラ釣りを取り上げた際にも話したが、テンカラは、同じ毛鉤を使うフライフィッシングのように高度なキャスティング技術を覚える必要もなく、水面直下に毛鉤を流すため、捕食昆虫に合わせた厳密な毛鉤の選択も必要ない。

テンカラの毛鉤は羽化した”水生昆虫風”に見えればそれでよい。しかも、ラインシステムが軽いため、流れにラインが取られる心配もない。速い渓流でも竿先を持ち上げれば、自然に毛鉤を流すことができるのだ。

大きく羽を伸ばした水生昆虫のカゲロウ。アップで見るとかなり美しい昆虫だ。そのカゲロウは渓流魚にとって一番のごちそうだ。

テンカラ大王・石垣先生に言わせると「釣り人がポイントに近づきやすい河川の場合、テンカラはフライフィッシングの何倍も釣れる。ただ、欠点はキャスティングの範囲が限られていること」だという。

遠くの魚を狙える遊撃手的なフライフィッシングの釣りに対して、テンカラは至近距離から一発で仕留める釣り、と理解すればよいだろう。どちらの毛鉤釣りが勝るというのではなく、どちらもおもしろい。これまで、まったく釣りを知らない女性がテンカラの講習を受け、その場で天然イワナを釣り上げる圧巻な光景もさんざん目にしてきた。

そうしたテンカラのおもしろさを受け、3年ほど前にフライフィッシングの楽しさを十分に理解しているアメリカのアウトドアメーカー、パタゴニアから、日本のテンカラをベースに”アメリカン・テンカラ”ともいうべき教則本やロッド、ラインなどがセットになった商品が売り出されたほどだ。

その背景には、日本の伝承的毛鉤釣りであるテンカラのシンプルな醍醐味が、西洋の毛鉤釣り師たちの目に新鮮に映ったことが大きな要因だろう。渓流釣りの解禁日に釣りに行くと、そうした釣りへの流れが目に見える形でわかるほど、テンカラ愛好者が増えている。

果てなき免許皆伝への道

【オショロコマ】本州のイワナと比べ、さらに寒冷気候に適応した種である。然別湖の固有種ミヤベイワナは、このオショロコマの湖封型。

十勝川支流でイラストのようなかわいらしいオショロコマを釣り上げ、初級トライアルを終了した我々は、何度か訪れた大雪山を源流とする音更川(おとふけがわ)がわの中流域へと足を延ばした。ここは過去にフライフィッシングで、40㎝クラスのレインボートラウトを釣った実績がある川だ。

あいにくの増水で川幅が広がり、ポイントまでの飛距離が必要なため、道糸をナイロンの4号からロッドの全長より長くとったフライラインに変えてのアプローチだ。テンカラ竿にフライラインを使うこのシステムは、アメリカで流行しているテンカラスタイルである。

増水した音更川で果敢にロングキャストを繰り返す。空いた左手は腰、ロッドは12時でぴたりと止めた完璧なキャスティングフォーム。

「おっ、掛かりました。引きが結構強いですね。走ります、走ります」と佐々木さんは、その手ごたえを楽しみながらレインボーと格闘している。自分は段差のある落ち込みの渦の脇に立ち、毛鉤の30㎝ほど上部に噛み潰しオモリをかませ、淵の奥へと毛鉤を流し込んでみる。もちろん、淵に潜む大型のレインボーを引きずり出すためだ。

もともとテンカラ毛鉤は、水面直下を流す毛鉤で、その流し方にもいろいろある。まさに魚が水生昆虫を捕食している流れに乗せる場合や、流れの向こう側へ毛鉤を飛ばし、川の流れを横切るような形で、ロッドの先端を小刻みに震わせながら手元に毛鉤を持ってくるルアーのような誘い方の釣法もある。

また、テンカラ毛鉤のタイプも少ないとはいえ、日本各地にその対象魚や地勢から生まれた伝承毛鉤がある。

以前、日本の伝承毛鉤の研究を行なっている、京都府在住の藤岡美和(よしかず)さんを取材した際に聞いた話によれば、伝承毛鉤には公家や武士が使ったレジャーや鍛錬のための”都の毛鉤”という流れと、山住みの人が夏の大切なタンパク源を確保するために使い続けてきた”山釣りの毛鉤”というふたつの系統があるという。さらに明治以降になると西洋毛鉤も入り、ここでいろいろ混じったのではないかと推測していた。

38㎝のレインボー。このサイズなら満足。

「毛鉤釣りのルーツをたどると、けっこう謎の部分が出てきます。近年、葛飾北斎の『千絵の海』という錦絵が発見されました。そのなかの1枚に『蚊かばりながし針流』という絵があります。その絵の中で”蚊かがしら頭釣り”をしている人の姿が描かれているのですが、3本の針があり、受けタモを使って短い竿で釣っている。これはテンカラ釣りとまったく同じです。

テンカラは、いまでは毛鉤を1本しか付けませんが、伝承毛鉤の文献によると枝針を付けたという例もたくさん紹介されています。上に毛鉤を付け、下に掛け針を付ける例もあるし、その逆もある。毛鉤を食いそびれたら、掛け針をアワセたりする。

またテーパーライン(先端が細くなる道糸)を使わないで、枝毛鉤が付いている釣り方もある。ひょっとしたら情報が流通して、テンカラと蚊頭が少し混じったのではないだろうか」と、藤岡さんは言っていた。

事実、市販されているテンカラ毛鉤を見ると、蚊頭毛鉤の特徴が強く出た毛鉤はたくさんある。それは、伝承毛鉤といえども絶えず進化していることにほかならない。

この日、佐々木さんは音更川でさらに40㎝弱のレインボーを見事に釣り上げた。やはりルアーフィッシングのプロである。毛鉤の流し方、誘い方、そしてアワセから取り込みまで、どこを見てもテンカラ初心者には見えないほどだ。

然別湖は、ミヤベイワナの保護を目的に入漁規制を行っている。『グレートフィッシング然別』shikaribetsu.com/

そして翌日、テンカラ道場の最後の仕上げに、天然記念物である固有種ミヤベイワナやサクラマスが生息する然別湖に訪れると、なんと50㎝オーバーのレインボーを釣り上げてしまった。しかも、ボートから木立の覆う岸に向けて、右手にテンカラ竿、左手でオールを握り操船しながらである。

はっきりいって、テンカラ初心者の大暴れである。それほどテンカラ釣りはシンプルでトラブルも少ない釣りなのだ。

十勝テンカラ道場の最後の締めは、この50㎝オーバーのビッグレインボー。次はどこで道場を開こうかと検討中。乞うご期待。

ハリスに毛鉤を付けてヒョイと投げ、水面近くで魚がキラッとしたら竿を上げる――。

そのシンプルさは餌釣りも含め、ほかの渓流釣りにはない魅力がある。アメリカを中心にテンカラブームが訪れ、フライフィッシングが市民権を得ている日本で、その釣技を見直すムーブメントが訪れているのは、当然の結果といえるのではないだろうか。

全国伝承 テンカラ毛鉤地図

宮城:南蔵王温泉郷のマタギが伝えた「遠刈田毛鉤」

栃木:前日光足尾に伝わる「日光毛鉤」

山梨:山梨と長野を結ぶ交通の要所で伝承されてきた「甲州黒森毛鉤」

愛知:矢作川上流「足助の毛鉤」。奥三河高では、空針と呼ばれる掛け針仕掛が伝承されてきた

和歌山:奈良県の最南端にある十津川村、西中地区の光野直計氏の考案の毛鉤

新潟:日本海に注ぐ荒川の樋倉地区で1960年代まで職漁師をしていた佐藤兼次氏による「佐藤氏の毛鉤」

岐阜(右):「飛騨高山の逆さ毛鉤」

岐阜(左):「飛騨荘川の毛鉤」

※資料提供:テンカラ毛鉤研究科・藤岡美和

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フィールドライフ 編集部

フィールドライフ 編集部

2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

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