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深い谷のダウンリバーで蘇った、あの日の縦走の記憶・後編|grateful days

文・写真◎佐藤拓郎 Text & Photo by Takuro Sato

>>>前編【2019年山旅】はこちらから

深い谷のダウンリバーで蘇った、あの日の縦走の記憶・前編|grateful days

深い谷のダウンリバーで蘇った、あの日の縦走の記憶・前編|grateful days

2021年12月04日

【2020年川旅】

スタート前はメンバーに緊張感が漂う。口数少なく、それぞれが黙々と道具のセッティングを入念に行なう。僕はこの時間が好きだ。

うなりをあげる道具満載のハイエースの後部座席で、左右に揺られながらルーフ下に差し込んだパドルを必死に押さえていた。すれ違いなんかできそうもない道は蛇行しながら切り立った深い谷の上まで駆け上がり、ボートを浮かべるはずの川は遥か下に見える。前日下った天竜川とのあまりのギャップに面くらいつつも、間違いなく自分史上もっともウィルダネスな川でのダウンリバーになることにワクワクしていた。

林道脇からボートを降ろし、ダッキー(インフレータブルカヤック)にフットポンプで空気を入れる。今回は8人の大所帯。5名がパックラフト、2名がカヤック、ダッキーは僕ひとりだ。

落石が頻発するような林道を進んだ山奥に、ボートを浮かべられるほどの水量があることが不思議でならなかった。この澄んだ流れは、あの山から始まっているに違いない。

水量は多くないものの、出だしから瀬のなかに岩が絡みかなりテクニカル。しかも慣らし運転する間もなく次々と瀬が現れる。見た目以上にパワーのある流れにボートが流され、みんなの二艇分ほどある僕のダッキーは岩の間をうまく抜けられず、岩に引っかかった。小回りの利くパックラフトやカヤックは水面を泳ぐ蛇のようにクネクネ、スルスルとそのあいだを抜けていく。

切り立った左右の沢からは、ここ最近のうちに起こったであろう土砂崩れの跡がいくつも見られ、川に向かって大量の土砂が流れ込んでいる。初めての瀬や大きな瀬は岸にボートを付け、スカウティングといって瀬のようすやルートを岸からいったん確認する。自分たちの力量と危険度を天秤にかけてから下るのだ。こういう活きのいい川はスカウティングがより重要となる。川の様相がどんどん変化するからだ。

感覚をつかんでリズム良く岩をかわせるようになったころ、谷のなかにいままでにない轟音が鳴り響いた。これはかなりのやつだ。そんな予感がした。右岸と左岸に分かれスカウティング。右岸にいた僕から見る左岸には、大規模な土砂崩れで人間よりはるかに大きな岩がゴロゴロと転がり、その隣に立つ仲間が小さくぽつんと見えた。瀬は岩の絡んだ落ち込みを繰り返し、200mほど続いている。瀬の入口は岩の右側落ち込みから入って、すぐに左へ転回して大岩をかわし……とイメージしてみるが、あまりにポイントが多すぎてルートを整理できないでいた。「ここはポーテージしよう」とだれかが言った。セルフレスキュー体制が整っているなかで、チャレンジしたい気持ちがあった僕は、深呼吸とため息が混じった息を吐きながら空を見上げた。両サイドに切り立つ緑の壁。それに視界を奪われた狭い空。すぐにエスケープすることのできない、深い深い谷のなかにいることに気づいた。その瞬間、肩の力がすっと抜けた。

ボートを担ぎ、轟音を耳にしつつ木々のなかを歩きながら、間違いないと思った。地図を確認すらしてもいないのに。茶臼岳から見たどこまでもつづく森、そのなかに僕らはいるのだ。

11年前からこの旅は始まっていたのかもしれない。あの日僕らのレインウエアを濡らした雨とボートで下るこの川。僕の知らないところですべてがつながっているような気がした。

「イザルヶ岳の平らな頂上で、靴脱いで地べたで昼寝したの気持ち良かったな〜」。忘れていた旅の記憶が鮮明に蘇ってきた。

ギャラリーに見守られながら、心地よい瀬を下る。
スマホで川の水量をチェックし、水量が多そうな場所へ向かうダウンリバージャンキーたち。暖かい時期は毎週末のように川へ向かうそうだ。

佐藤 拓郎 (さとう たくろう)

ノローナ、フーディニなど北欧アウトドアブランドを取り扱うFULLMARKS 原宿店店長。山・川・海なんでも好きで、一年中忙しい毎日。大きくなってきた子どもと山へ行くことが楽しい今日このごろ。

※この記事はフィールドライフ 2020年秋 No.69からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっています。

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フィールドライフ 編集部

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2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

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