【ロングボーダーズ・ムーブメント】ヌーサ・ロングボード・オープン
FUNQ NALU 編集部
- 2021年11月18日
今、世界のロングボードシーンで同時多発的にあらゆるムーブメントが巻き起こっている。仮にロングボードのスタイルを大きく2分するならば、クラシックとプログレッシブ……いや、はたしてそんな簡単な括りで片付けられるのだろうか? もはやロング乗り達の想像力と行動力は次なる段階へと突き進み、波に乗るというサーフィンの本質を同志らと共に昇華させる域にきている。ロングボーディングならではのスタイルを魅せ合うのか、同じ土俵で戦うことの少なかった2大勢力の競演なのか、ある技にのみこだわり続けるのか、それとも、ボードのスタイルにこだわるのか……。いずれにせよ、それらは視野を広く、もっと大きな世界でロングボードのすばらしさを捉えようというムーブメントに他ならない。そして華麗に波間をダンスするというロングボーディングらしさは不変だ。おそらくはそのアプローチの部分にそれぞれの個性が内包されている。
これらを読み解くカギとして、今回の我々は“コンテスト”に注目した。真のサーファーであればサーフィンを一つのスポーツという括りで片付けることにはいささか違和感を感じずにいられないわけだが、単に滑った転んだでどっちが勝った負けたということを言いたいわけではない。トッププロから一般サーファーのローカルコンテストまで、独自の解釈でロングボーディングを突き詰めようとする彼らのカルチャーは、まさしく今世界で起こる同時多発的ムーブメントの一つなのである。つまるところ、それぞれに明確な答えを見出すことはおそらく難しいだろう。しかし、これから紹介する国内外で昇華された“コンテスト”というカルチャーを読み解いていくと、その先に世界のロングボーダー達の突き進むムーブメントの一端が見えてくるに違いない。
今回紹介するのは、世界最高峰リーグ、WSLのロングボードツアー第1戦として開催された「ヌーサ・ロングボード・オープン」。これまでコンテストという舞台で交わることの少なかったクラシックとプログレッシブという対極的なスタイルが、ロガー達の聖地を舞台に共演した。このイベントから読み取れる世界トップレベルのムーブメントを、目撃者であるフォトグラファー三浦安間の話を元に探ってみたい。
◎出典: NALU(ナルー)no.114_2019年10月号
大きく2極化するスタイルのガチンコ勝負に世界が注目
2019年からWSL LTの試合数が増え、その第1戦目がオーストラリア・ヌーサで開催されることになった。いわずもがな、ヌーサといえばロングボーダーの聖地として知られる土地だ。岬に沿って割れるパーフェクトなライトブレイクは世界中のレギュラーフッターの憧れである。
▲クラシックなシングルフィンとハイパフォーマンスの2プラス1が混在する珍しい光景
▲優勝を決めたジャスティン・クインタルのウイニングライド。ダクトテープの覇者でもある彼はクラシックなスタイルで、より際どくより美しく波に乗る
▲勝利者インタビューをするマット・チョナスキー。ロングボードの知識と見解の深さは世界でも類を見ないほど
▲クラシックもプログレッシブもどちらのスタイルでもトップレベルにあるサーファー達が、どちらのボードをチョイスするのかも興味深かった
▲海外選手の中に入っても遜色ないピロタンこと吉川広夏。海外を回ることで年々進化を遂げる
そんなヌーサで毎年開催される世界的サーフイベントが「ヌーサフェスティバル」。その名の通りフェス的要素もあるが基本はロングボードの大会が主体であり、とりわけクラシックスタイルを貫く世界的なロガー達が集まってくる。そして今年は、このイベントに合わせてWSLのツアーが組まれることになった。これにより、普段はWSLのコンテストに参加することのないクラシックスタイルのロガーと、ハイパフォーマンス系のコンペティティブなロガーとの夢の共演が実現したわけだ。
▲返り咲きとなったクロエ・カルモン。優勝から遠ざかっていたので感動もひとしお
▲クロエの代名詞でもあるクロスフットターン。流れるようなラインは女性ならではの美しさがある
▲世界王者テイラー・ジャンセン。波に恵まれずセミファイナル敗退
ショートボード界の頂点は、パフォーマンスショートボードを操るジョンジョン・フローレンスやガブリエル・メディーナといったWSL CTのコンペティターであることに間違いはないが、ロングボード界の頂点には大きく分けて2つの分野が存在する。ひとつは、歴史を継承した長く重たいシングルフィンに乗るクラシックスタイル。それに対し、軽く薄いロングボードでノーズだけではなくマニューバの限界にも挑戦するのがプログレッシブスタイルである。これらの決して交わることのない2つの分野が、コンテストという同じ土壌において世界一を決定する、そんな夢のような舞台がヌーサに用意されることになったのだ。
▲重たいシングルフィンをさらっと持つクールな女性に彩られ会場も華やか
▲ピロタンと田岡なつみ。海外では一緒に行動する良き友人でありライバルでもある二人は世界基準の女性サーファー
▲ファイナリストの南ア出身スティーブン・ソウヤー。スタイリッシュな出で立ちでアーティスト活動もする2018年世界チャンプ
ロングボード・コンペティションに新たな扉が開かれた
注目されたのはやはり、一体どちらのスタイルが勝つのか? ということだった。波を選ばず常に世界の第一線で戦う万能なコンペティター達にノーリーシュでシングルフィンに乗るスタイル重視のロガー達は勝負を挑めるのか? しかし、そんな不安は試合が始まるとすぐに払拭された。クラシックの代表格である地元のハリソン・ローチはワールドチャンピオンのピッコロ・クレメンテを下し、ジャスティン・クインタルはネルソン・アヒナを退けた。一方、「ヌーサフェスティバル」のノーズライディングコンテストでも優勝するほどの実力を持ちながら、プログレッシブスタイルでワールドタイトルを3度も獲得したテイラー・ジャンセンらも持ち味を発揮しながら危なげなく勝ち上がるが、試合が進むにつれて過去のワールドチャンプや有名シングルフィンロガー達も次第にふるいにかけられていった。
▲クラシックもプログレッシブもハワイのカニエラは次世代の期待の星
▲デヴォン・ハワード。彼のロングボーディング哲学がコンテストやジャッジなどに大きく影響を与えたはずだ
セミファイナルの時点で残ったのは、それぞれの分野でトップ4と呼べるロガー達。ヒート1には2018ワールドチャンピオンのスティーブン・ソウヤーと一昨年のチャンプ、テイラー。ヒート2にはともに世界最高峰シングルフィンコンテストのひとつ、ダクトテープのチャンピオン経験者であるハリソンとジャスティン。各分野でいま考えうる最高のカードが実現した。その白熱したヒートを制したのは、プログレッシブのスティーブンとクラシックのジャスティンという2名。そして、ハイスコア連発のファイナルはジャスティンがスティーブンを僅差で破り、優勝をもぎ取ったのだ。
▲スティーブンと称え合うジャスティン。新時代の到来を告げる勝利
▲ハリソン・ローチは全てが別次元のレベルにあり、クラシックスタイルでもWSLで通用することを証明
▲最高のパフォーマンスを高台から望むことができる場所
▲写真左:テイラーとデヴォン。時代を創ってきたカリフォルニア出身の二人、写真右:今大会で間違いなく一番の盛り上がりを見せたハリソンとジャスティンのセミファイナル。ハイポイント連発の熱戦をジャスティンが僅差で制した
波の状況や開催場所などによって一概には判断できないが、重いシングルフィンにノーリーシュで戦うサーファーがWSLのコンテストでバキバキのプレグレッシブサーファーを相手に勝利を手にしたことは、ある意味革命的でもある。この事実は、今後のロングボード・コンペシーンにおいて、新たな扉が開かれた瞬間だったといっても過言ではない。そして、今年からデヴォン・ハワードをツアーディレクターに迎えたWSLの改革が、早速カタチになって表れたと捉えることもできるだろう。
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FUNQ NALU 編集部
テーマは「THE ART OF SURFING」。波との出会いは一期一会。そんな儚くも美しい波を心から愛するサーファーたちの、心揺さぶる会心のフォトが満載のサーフマガジン。
テーマは「THE ART OF SURFING」。波との出会いは一期一会。そんな儚くも美しい波を心から愛するサーファーたちの、心揺さぶる会心のフォトが満載のサーフマガジン。