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筆とまなざし#177「中学生のときに作った思い出のナイフと地形図」

ちょっと立ち止まって過去を思い出し、新しい未来を想像する時間。

「懐かしいものが出てきたよ」

そう言って母が見せてくれたものは、中学生のときに自分で作ったナイフでした。実家の押し入れに積み重ねたダンボールの中に入っていたそうです。

アウトドアに興味を持ち始めた中学生のころ。鉄鋼用の鋼のノコギリをグラインダーで削り、砥石で研いで木で柄をつけ、皮を縫ってケースを作りました。それを振り回しては近所の山を探検していたのです。いくつか作ったものの、お気に入りのものはどこかでなくしてしまいました。ダンボールから出てきたものは四つで、いちばん最初に作った薄くて小さなもの、折りたたみ式のフォールディングナイフ、木の枝に切り込みを入れやすいように刃を独特の形にしたもの、そして背にノコギリの刃を残したままのものです。いちばん完成度が高いのは最後のもので、お気に入りのナイフをなくしてから作りました。ポイントは刃がぐらつかないように柄の部分に銅板を溶接して作ったタガをはめているところ。皮ケースもいちばん見栄え良く作ることができ、もっともよく使っていたナイフです。

ダンボールを整理していると少し黄ばんだ地形図も出てきました。村を取り囲む山々の地形図です。中学生のころ、毎年春休みなると友だちとキャンプに出かけていて、そのときに使っていたものです。あるときは川原で焚き火をしながらキャンプし、あるときは営林署の小屋の軒先で夜を明かし、あるときは藪漕ぎをして村の最高峰に登ろうとして敗退し、あるときは幻の滝を探しに出かけました。ポイントごとにペンで地名が書き記されているのですが、英語で書かれているのは異国への憧れのため。なんだかおかしいものです。

ナイフも地形図も、20年以上経ってもほとんど変わっていないことに驚きました。そしてそれらを見ていると子どものころに夢見てワクワクしていた気持ちが蘇ってくるのでした。そうそう、ついでに実家に置いたままになっていたギターを引っ張り出してきて弦を張り替えたりしました。学生時代にはよく弾いていたのです。ちょっと立ち止まって過去を思い出し、新しい未来を想像する。出かけることもままならないゴールデンウィークは生活を少し豊かにしてくれる時間でした。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

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