筆とまなざし#200「初体験の珍事件。野生動物との共同作業で完成した絵画」
成瀬洋平
- 2020年11月04日
思わぬ珍事件。ネズミに齧られた絵を前に……
事件が発覚したのは、車をガードレールにぶつけた二日後の朝でした。アトリエの机の引き出しに絵を入れているのですが、仕上がった絵を仕舞おうと引き出しを開けると、細かな紙屑が散らばっていました。いっしょに入っていたビニール袋はボロボロ。
「やられた!」
びっくりして絵を見ると、数枚の絵が何者かによって齧られていたのです。紙屑はノミで削ったように細長くてまるで削りカス。齧られた跡には歯形がついているような気がします。被害を確認すると、展覧会でよく飾る「剱岳の朝日」「白馬大雪渓」、そして家の近くから地元の山を描いた「阿木山」の右上部分が、縦2センチ×横6センチほどが齧り取られていました。それ以外は、齧られてもそれほど痛くない絵が数枚。
被害にあった3枚は、マットを小さくすれば飾るのにそれほど大きな影響はなさそうでした。しかし、まさか絵が齧られるとは……。野ネズミの仕業でしょうか。小屋には小さな隙間はたくさんあるけれど、ネズミが通れる穴は思いつきません。一体どこから侵入したのか。そして、とくに美味しくもなかっただろうに、どうして絵(紙)を齧ろうと思ったのか。そういえば、今年は栗も柿も実があまりならないと聞きます。食べものが少ないための苦肉の策だったのでしょうか。
そもそも、この森は僕より前にネズミたちが暮らしている場所。ネズミを恨む気持ちは湧かず、きちんと保管していなかった自分の失態が原因です。ネズミに絵が齧られたなんて聞いたことがありません。これはちょっと貴重な体験かもしれません。いってみればネズミとの共同作業。ネズミが絵を仕上げてくれたんだと思うとなんだか楽しくなってきます。そう、野生動物との共同作業でようやく完成したのです。そう思うことにしました。
とはいえ、これ以上齧られたのでは困ります。ホームセンターでラックを買ってきて机の横に設置しました。なんだか珍事件が多発する最近。もう少しなにかが続きそうな予感がします……。
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