筆とまなざし#206「苗木城跡から眺める、ふるさとの山・恵那山。」
成瀬洋平
- 2020年12月16日
地元の方にもふるさとの山・恵那山の絵を見てもらいたい。苗木城跡を訪れて。
木曽川の右岸、水面からの標高差約170mの山の上に苗木城跡があります。ボルダーと呼ぶには大きな花崗岩をそのまま活かした非常にユニークな山城で『絶景!山城ベスト10』で堂々の一位に選ばれたこともある、市内の観光スポットです。天守跡に設けられた展望台からは眼下に木曽川、中津川の街並み、その向こうに恵那山を見渡すことができ、絶好のビューポイントでもあります。
先日放映されたNHKのテレビ番組「岐阜・恵那山 ふるさとの山を描く」。ありがたいことにご好評をいただいており、番組の最後に登場するのが苗木城跡から眺めた恵那山でした。これまではたまにしか訪れることのなかったのですが、ここからの眺めはぼくにとって特別なものになっていたのでした。
先日、久しぶりに再会した友人を連れて苗木城跡に行きました。前回訪れたのは9月だったのでおよそ3ヶ月ぶり。木々はすっかり葉を落とし、草刈りや灌木も伐られていてずいぶんすっきりとした印象です。展望台から降りようとすると、階段を登ろうとするジョギング姿の年配の男性がやってきました。
「あれ? 赤井さん!」
「おお! 久しぶり! こんなところで会えるとは。テレビ見たよ!」
それは数年前まで恵那山の山小屋・萬岳荘の管理人をしていた方で、いつもの人懐っこい笑顔でそう言ってくれました。それにしても、こんなに元気にジョギングしているなんてアクティブだなぁ、いや、これがアクティブさの源なのでしょう。しばらく立ち話をしてから、赤井さんは軽い足取りで坂道を下っていきました。
この数年、春の開山祭に合わせて萬岳荘で展覧会を行なっていました(今年はコロナで行なえず)。そのきっかけを作ってくれたのがこの赤井さんだったのです。とはいえ、地元の方々にとってぼくは知られた存在ではなく、ましてや山をやらない方が林道を1時間も走って山小屋まで絵を見に来ることも稀だったと思います。けれど、「恵那山」と題されたテレビ番組は、登山に関心のない地元の方々もたくさん観てくれていたようで、街でときどき声をかけられるようになりました。
そんな地元の方々にも、番組のなかで描いた恵那山の絵を見てもらいたい。この街で、展覧会をしよう。放映が一段落して、そう思うようになりました。地元にUターンして10年。ようやく、この街で展覧会をするための土台ができたような気がします。そしてそれは、自分にとって新しいステージの始まりなのかもしれません。
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