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筆とまなざし#232「雨上がりの瑞牆山。十一面岩、マルチピッチルートへ。」

久しぶりのマルチピッチクライミング。雨上がりの瑞牆山へ。

土曜日に降り続けた雨は日曜日の朝方まで止まず、明るくなっても瑞牆山の駐車場では霧雨が降っていました。路面も森も、もちろん岩もびしょ濡れ。けれども、日中は次第に晴れてくる予報で、ガスの向こうにうっすらと十一面岩の岩峰が浮かび上がっていました。多分問題ないだろう。そう思い、バックパックを背負って歩き出しました。久しぶりのマルチピッチクライミング。今回登るルートはグレードが易しいので濡れていてもそれなりに登れるだろうし、クラックではなく露出感のあるラインが主体なので乾きが早いだろうという算段です。

瑞牆山には、十一面岩、カンマンボロン、大面岩、小面岩など、マルチピッチルートのある岩がたくさんあります。正面から見れば壁なのですが、それらはそれぞれ岩峰であり、ピークを持っています。ピークまで登り詰めるマルチピッチクライミングは、いわば岩山登り。フリークライミングをして頂上を目指す登山だともいえます。

静かな瑞牆の森を歩き、沢沿いの道から急登へ。途中のボルダーは当然のようにびしょ濡れでした。1時間ほどで目的のルートの取り付きに到着しましたが、あたりは依然としてガスのなか。1ピッチ目の取り付きはもちろん濡れていました。左にトラバースしてスラブ面に乗り越すと開けるようですが、登らなければその先のようすは分かりません。準備を済ませ、とりあえず登ってみることにしました。

正面のフェイスからスラブに出ると、期待はみごとに裏切られました。岩の表面に付着した赤紫の苔が、海苔の佃煮のようにヌルヌル滑ります。簡単なピッチなのでスラブといえどもエッジもあり、それらを繋いで登っていきました。5.10aの3ピッチ目までそんな状態が続きましたが、予想したとおりそこから先は少しずつ乾いた岩の感触に変わってきました。青空が広がりはじめ、気持ちのいいフェイスを調子よく登っていきます。核心のワイドクラックはヌルヌルでしたが、ドロドロになりながら登りきり、簡単な2ピッチで岩峰の頂上へたどり着きました。

空には夏の青空が広がっていました。広い頂上からは、瑞牆山の名だたる岩峰が一望に見渡せました。これまでたまにしか登りに行かないマルチピッチですが、この夏はもっと岩山登りを楽しもう。画材を持って登り、頂上で絵を描くのはどうだろう?簡単なルートなら、そしてパートナーが付き合ってくれるなら、そんなこともできるかもしれない。ふと、そんなアイデアが頭に思い浮かびました。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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