筆とまなざし#238「山行中止からの岩探し。新しい可能性を感じる宝の山との出会い」
成瀬洋平
- 2021年08月11日
以前から気になっていた場所へ、ドライブがてら岩探し。そこには魅力的な岩々がありました。
朝一番のバスで千畳敷に向かおうとする登山者で、バス停には長い列ができていました。チケットを買ってその列に並び、臨時便のバスに乗り込むのを待っていたのだけれど、やんごとなき理由で山行を中止せざるを得なくなってしまったのは、始発のバスが出発した朝5時半ごろでした。チケットは払い戻してもらえたし、天気もあまり良くなかったので結果的には良かったのですが、転戦しようにも長野方面の岩場はどこも雨予報。早朝から行き先がなくなってしまったのでした。近くの岩場に偵察に行くものの早くも小雨が降ってくるし、クライミングジムに行くにも開店までまだまだ時間があります。家がある地域は晴れ予報になっており、とにかく暑いので川で涼んで帰ろうと、一路、峠を越えて木曽谷へ向かいました。
木曽川に沿って走る国道19号線を南下。目当ての渓谷へ向かうと、最近人気スポットになっているようで、川遊びをする行楽客でごった返していました。川に行くのにシャトルバスに乗り換えなくてはならないとのことで、それは大変だと、もうひとつ南の渓谷へ向かうことにしました。そちらも多くの人が涼を求めてやってきていましたが、駐車場は空いていました。あまりの暑さに服のままドボン。花崗岩の岩間を流れる清冽な水で涼んでから、そばで腹ごしらえをし、ついでだからと以前から気になっている場所へドライブがてら岩探しに出かけることにしました。
恵那市の北西に位置する笠置山は、標高の高いところは凝灰岩、低いところは花崗岩地帯になっています。付近には似たような山があり、笠置山と同じ岩があるのでは? と思っていたのです。山には林道が走っていて、猛暑から逃れるように車を走らせたのでした。
いくつも枝分かれしている林道を進むと、予想通り笠置山と同じ岩質の岩がありました。ボルダーとして申し分なく、なかには30m近くある魅力的なフェイスも。けれども、笠置山ほど密集はしておらず、思ったより少ないな、というのが印象でした。
林道の途中に展望台があり、真正面に恵那山が見えました。ここから見る恵那山は頂上が三角形に見えてなかなか凛々しく、夏雲が湧くその風景は木立を渡る風と相まってとても心地よい。小休止したあと、一旦里に下りてから別の林道へ突入。標高が高くなると、魅力的な岩は次々と現れてきました。林道から見るだけなので、山を歩けば笠置山クライミングエリアと同じくらいの岩が見つかるかもしれません。
この辺りには、遠くからも確認できるような大きな岩は少ないけれど、魅了的なボルダーは非常に多い。この山のなかに、どれだけの宝物が眠っているのか……新しい可能性の輪郭が朧げに浮かんでくると、すっかり今朝のできごとを忘れてしまっている自分に気がつくのでした。
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