世界遺産・大峯奥駈道を行く・後編|釈迦ヶ岳〜笠捨山〜玉置山
PEAKS 編集部
- 2021年10月14日
世界遺産・大峯奥駈道を行く・後編
吉野と熊野を結ぶ約80km修行の道・大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)。そのなかの釈迦ヶ岳~玉置山の区間を歩いた旅の記録、後編をお送りする。一行は平治ノ宿で1泊の予定を急遽変更し、次の山小屋である行仙宿山小屋へ急ぐことに。
>>>前編はこちらから
文◉高橋庄太郎 Text by Shotaro Takahashi
撮影◉矢島慎一 Photo by Shinichi Yajima
取材期間◉2019年9月18日~20日
出典◉PEAKS 2020年11月号 No.132
予想もしなかった小屋泊まり。こんな予定変更もたまにはいい。
いったん途切れた気持ちをつなぎ合わせて歩行を再開。行仙宿山小屋には17時30分くらいに到着した。陽は傾きつつあったが、まだ十分に明るく、これでひと安心だ。
陰鬱なオーラを感じた平治ノ宿とは異なり、一見で行仙宿山小屋は気分よくすごせる場所だと感じられた。ただ、ここにはテント場がなく、楽しみにしていたテント泊の日数は減る。予定外の無人小屋泊まりだが、無理に平治ノ宿でキャンプするよりは気楽だ。
この日は僕よりもあとに2名が到着。歩行中はだれにも会わなかったのに、思いのほかにぎやかな夜になった。それにしても今晩、平治ノ宿に泊まっていたらどんな夜になったのか? もしも平治ノ宿のファンの方がいたら申し訳ないが、僕とはきっと相性が悪かっただけなのだ。
3日目は出発して1時間少々で笠捨山に到着した。山頂が樹林で覆われ、茫洋とした印象の山が多い大峯奥駈道にあって、東峰、西峰というふたつの山頂を持つ笠捨山は眺望もよい。僕が昨日、平治ノ宿で感じたマイナスの気分はいつしか霧散し、先へ進もうという気分が盛り上がってくる。
笠捨山の先には稜線上の道と巻き道に分かれる分岐があった。こういう場合、一般的には巻き道のほうが起伏は少なく、体力的にラクだ。それなのに、この分岐の看板には「巻き道(難路)」とわざわざ書いてあり……。
あえて選択した巻き道はたしかに難路だった。崩れかけた道や倒木の多さは、さほど問題ではないが、稜線ルートとふたたび合流するはずの登山道が途中でほとんど消滅したのには大苦労。無駄に体力を消耗する。道なき道からなんとかメインルートに戻ったときは、長々と休憩したくなった。
そこから先、玉置神社までは道迷いしにくい明確な登山道だ。車道が近くを走り、標高も1000mを切っている。距離が長いわりには時間がかからない。
玉置神社が近付くと、天気はふたたび悪化し、周囲は真っ白なガスに覆われた。しかしさすがは世界遺産で、観光客の姿は多い。これまで延々と大峯奥駈道を歩いてきた人間には、もはや深山感は薄れた場所だ。
ガスのために周囲の状況がよくわからないまま、玉置山に到着。それから少しだけ標高が下がった場所にある玉置神社に参拝する。景色を楽しむためには、ガスはじゃまな存在だが、神社の神秘性を増すには好都合ともいえる。ここまで無事に歩けたことに感謝し、手を合わせた。
ここまで来ると、僕に残された大峯奥駈道の区間は「玉置神社~熊野三山」のみ。もう一日どころか半日でも歩けなくはない距離だ。
だが、この区間には大きな問題があった。それは「泊まる場所がない」ということだ。山小屋もなければテント場もなく、このまま連続縦走していくことが難しいのである。裏技的に玉置神社の駐車場にテントを張って縦走を続ける人もいるようだが、気楽に真似はできない。いったん麓におりて宿に泊まることもできるだろうが、お金がかかりすぎる。
この問題の解決方法として、僕には一案があった。僕はカメラマンと2台のクルマで来ており、そのうちの1台を玉置神社の駐車場に配置し、“車中泊” という手を使うのだ。そうすれば無理にテント泊をしなくても、熊野へ向かって歩き続けられる。
最後は玉置神社に参拝。大峯奥駈道の旅はまだ続く?
だが結局、ここでやめることにした。予報によれば天気はさらに悪化するらしく、たんに天候の問題でこれ以上は山旅を続ける気分にならなかったのだ。僕はこういうとき、わりと簡単に計画を中断できる性格なのである。
ただ残念なのは、編集部との約束でこの大峯奥駈道のルポを『PEAKS』に書くのは今回が最後と決められていたこと。だから4年間続いてきた大峯奥駈道の話はこれで終了だ。とはいえ、残りの区間を歩き終えたときは、きっと書く機会が得られると思う。楽しみにしていてほしい。
>>>ルートガイドにつづく
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文◉高橋庄太郎 Text by Shotaro Takahashi
撮影◉矢島慎一 Photo by Shinichi Yajima
取材期間◉2019年9月18日~20日
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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