高千穂峰&韓国岳 霧島連山の山旅・後編
PEAKS 編集部
- 2021年10月21日
2011年の新燃岳噴火から一部の区間で立ち入り禁止措置が続いている鹿児島・宮崎の霧島連山。人気の高千穂峰と、最高峰である韓国岳を歩いた2016年の旅、後編をお送りする。1日目の高千穂はあいにくの曇天。はたして2日目は火山らしい荒々しい景色を望むことができたのか?
>>>前編はこちら
文◉高橋庄太郎 Text by Shotaro Takahashi
写真◉亀田正人 Photo by Masato Kameda
取材日◉2016年9月22日、23日
出典◉PEAKS 2016年11月号 No.84
今日は晴れ! たっぷりと時間をかけて、韓国岳へ
翌日は期待通りの好天だった。この日は休日とあって、大混雑する前に山頂へ登ってしまおうと、早めに出発する。
えびの高原からの登りは、比較的ラクだ。急な場所もなければ、足場が崩れるところもない。順調に標高を稼いでいくと、突然のように樹林帯が終わり、あっという間に山頂が近付いてくる。昨日の高千穂峰もそうだったが、火山特有の赤い岩と砂が目の前に広がり、小高い岩場の先は断崖絶壁。直径900mの火口の迫力は想像以上で、その底は300mも下にあり、別世界に迷い込んだ気持ちにさせられる。このスゴい風景を、昨年の僕は見られていなかったのか! 韓国岳を昨日ではなく、今日にまわしておいて正解だった。
しかし、どうして日本にあるというのに、韓国岳というのだろう。一説には、周囲の山々よりも高いために、山頂から「韓の国」が見渡せる、もしくは見渡せそうからだといわれているが、昔の人でもそれが不可能であることは、わかっていたはずだ。むしろ山頂付近にほとんど草や木がないからと「空の国(なにもない土地)」と呼ばれ、それが転じて「韓国」になったという説のほうが信憑性はある。それにしても、日本百名山のひとつだというのに、結果的にお隣の国の名前が正式名称になっているというのが興味深い。
混雑し始めた山頂から脇にそれた場所で休憩する。南東には新燃岳の巨大な火口が眺められ、そこから立ち上がる噴煙もよく見えた。霧島連山に行く計画を立てるのが、2011年よりも先であったならば、きっと僕は韓国岳と新燃岳をつないだ縦走を行なっただろう。いつ噴火するかわからない火山には、行きたいと思う気持ちが高まったら、早めに登っておくべきだ。
2014年9月には御嶽山が噴火し、多くの登山者が亡くなった。偶然にも僕はその3カ月前に初めて御嶽山の山頂に立っていたが、現在も山頂への立ち入りは禁止されている。たまたまあのときに登っていなければ、僕は御嶽山の山頂をいまも知らないままだった。
あの破壊力が火山というものであり、少しでも危ない山には登るなという人がいることは承知している。だが、日本という国で火山を怖がりすぎるのもどうなのか。御嶽山のようになんの兆しもなく噴火が起こる場合もあれど、多くは新燃岳のときのように事前に兆候が現れる。その場合はもちろん登山を中止すべきだが、比較的平穏な状態のときは積極的に登っておいたほうがいいかもしれない。
新燃岳はいつになったら落ち着くのだろう。そんなことを思いながら、韓国岳から下りはじめる。次に向かうのは、山頂からもよく見えていた大浪池だ。
大浪池は「池」という名前がついているが、地質学的にはカルデラ湖である。4万年前といわれる昔、現在の新燃岳をはるかに越える噴火を起こし、その火口に水が溜まってできた池というわけだ。フナが生息しているらしいが、河川がつながらず、孤立した池にだれかがわざわざ放したのだろう。それがどんな人なのか、どんな目的があったのか、そんなことを考えていると、その風景がただ美しいだけではなく、人間の生活にも結びついていくのがおもしろい。
大浪池の外輪山を時計回りに歩き始めると、僕の右側にはいつも池があることになる。しかしつねに見えるわけではなく、木々の間に水面が光っていたり、その先に韓国岳がそびえていたりと、単調に思える登山道ながら、風景は変化に富む。池がある火口を覗き込むと、樹木に囲まれたなかなかいい感じの平地もあり、そこでテントを張り、フナでも釣りながらのんびりしたいな、などと想像が膨らんでしまって困る。
大浪池もその周囲はほとんど断崖絶壁ではあるが、よく地形を見れば、水面まで下りていける場所もいくらかある。もしも僕に強大な権限と資金があれば、きっと池まで下りられる登山道を作ってしまうだろう。そしてできればテント場も。池の水は強い酸性らしいが、飲み水も確保できるようにしたい。もちろん、環境に配慮した方法をとらねばならないが……。まあ、あくまでも妄想である。
大浪池休憩所に到着するころには、韓国岳に雲がかかり始めた。曇る前に見所を十分に楽しめたことに満足した僕は、えびの高原へと戻る。これで今回の山旅は終了だ。振り返れば、思い残すのはやはり初日の高千穂峰である。
だがじつは数日後、この山行とはまた別に、僕はとうとう晴れの高千穂峰に登ってしまったのだ。そのときの感想は……。いつかまたご紹介したい。
ルートマップ
新燃岳付近の登山道は立ち入り禁止のため、初日は鹿児島空港から高千穂峰へ向かい、山頂へ往復。山麓にはいくつかのキャンプ場があるが、翌日の韓国岳登山のルートを考え、高千穂峰からの下山後には、えびの高原キャンプ場へ移動した。翌日は、えびの高原からの周回ルートで韓国岳~大浪池。今回はレンタカーを利用したが、高千穂峰とえびの高原のあいだにはバスが運行されているので、自分でクルマを運転しなくても、同じようなコースを歩ける。
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文◉高橋庄太郎 Text by Shotaro Takahashi
写真◉亀田正人 Photo by Masato Kameda
取材日:2016年9月22日、23日
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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