春山ハートフルスノートリップ! in蔵王・後編
PEAKS 編集部
- 2021年12月03日
前編に引き続き、4年に一度のパタゴニア社員企画のスノートリップ。4回目となる2018年は、宮城・蔵王。
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文◉森山伸也 Text by S.Moriyama
写真◉杉村 航 Photo by W.Sugimura
出典◉WHITE MOUNTAIN 2019
入山規制がしかれた蔵王の仲間を応援するスキー合宿
「今日はなに着てるの?」
車内ではだれからともなくレイヤリングの会話が始まった。製品の特徴は店頭でも、パソコンの画面でも知ることができる。しかし、天候、気温、風、体調などあらゆる要素を考慮してチョイスされるレイヤリングは、現場で試しながら自分のルールを確立するしかない。どの場面で着て、どういうシチュエーションで脱ぐかという判断は、場数を踏んで身につくもの。ウエアのイロハを勉強するにはこれ以上ない機会である。
雪上車から降りると、蔵王連峰を吹き上がってくる西風が鳥肌を立てた。板を手に持って、刈田岳山頂へハイクアップ。営業部の日向野(ひがの)さんが「今回、初めてのバックカントリーなんですよ」と言いながら笑った。
「知らぬ間にメンバーに入れられていました(笑)。BCをやりたいと思っていても、なかなかひとりだと動けなくて。連れ出してくれる先輩がいて、ありがたいですね」
山頂で板にクライミングスキンを貼り、お釜の縁をトラバースしてドロップポイントへ。入山規制が解かれても3月は天気が安定する日が少なく、ガイドの加藤さんは今シーズン初のお釜滑走だという。
ひとり、またひとりと、斜面へと消え、お釜のボトムで集まる人の塊が大きくなっていく。スキー、テレマーク、スノーボード、ひとつに偏ることなく、3種バランスがいい遊び手たち。ときどき歓喜がお釜にこだました。斜度は最大で30度を越えたが、雪が適度に緩んでいて滑りやすく、タテ溝もない最高の斜面。
みんなが待つボトムに近づくと、囃し立てる声が聞こえてきた。取材陣も1日社員になったような温かみを感じる1本となった。
最後に大きな高速ターンを描きながら竹内宏之さんが滑ってきた。ボトムで待つガイド加藤さんのもとへ滑り込むと、ふたりは力強い握手を交わした。鬱屈した日々を振り返り、こみ上げるものがあったのだろう。ふたりの目には輝くものがあった。
透きとおるような青空と極上の雪。あまりの気持ち良さに「もう一本」との声が上がる。登り返して別の斜面へ。太陽が蔵王の裏に隠れるまで雪面にシュプールを描き続けた。
2日目は、日帰りのメンバーと辻井さんも参加して、サイドカントリーセッションへ。ゲレンデトップからハイクアップして谷をクルージング。辻井さんは、昨日の時間を取り戻すように、社員とコミュニケーションをとりながら何度も登り返して、だれよりも長く滑っていた。
パタゴニアファミリーのガイド加藤さんが嗚咽をこらえながら「蔵王に来てくれてありがとう」とみんなにあいさつした。続いて、主催者の島田さんがこう締めくくる。
「みなさん、練習して4年後はもっとうまくなっているように。次回は、西日本でやりたいですね。大山とか氷ノ山とか?」
2018年夏、中国地方初出店となる国内23店舗目の直営店「パタゴニア広島」がオープンした。モノを売るだけじゃなく、その店舗を拠点として、スタッフを含めたローカルの人たちとフィールドで積極的に絡んで、人間関係を構築していく。職業、性別、年齢にとらわれず、ヒトとして。モノとヒトと地球を大事にするパタゴニアらしい4年に一度のトリップである。
※この記事はWHITE MOUNTAIN 2019からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっています。
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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