筆とまなざし#268「恵那山の夜景を描くための水彩画紙を考える」
成瀬洋平
- 2022年03月02日
自分が描きたい絵を描くための考察と挑戦。
先回で描いた恵那山からの夜景。夜景を描く場合、宵の空の群青色と山影の濃さ、そして光とのコントラストがポイントとなります。どうやったらこの絵が描けるだろう。そう考え、紙を変えてみることにしました。
水彩画を描くときは水彩画用の紙、水彩紙を使っています。厚手で水をたくさん使って描いても波打が少なく、表面が丈夫なので毛羽立ちにくい。普通の画用紙では色を塗っているうちに表面がボロボロと削れてしまいます。発色も悪い。
絵を描き始めたときは近所の画材屋さんで買えるマーメイドリップル紙を使っていました。若干ベージュがかったナチュラルホワイトが好きで、水彩画を描いている気分に浸れました。その後、もっと素直で描きやすい紙をと探して出会ったのがモンバルキャンソン紙。白くて発色がよく、鉛筆での細かな描写が可能で絵の具ものせやすい。鉛筆での下描きをしっかり行なう自分にとってはとても使いやすい。以来、20年近くその紙に絵を描いてきました。けれども、色を塗り重ねてもあまり濃くならないという特徴があり、ゆえに影の部分も比較的淡い色合いになっていました。
先に書いたように、この絵のポイントは明暗のコントラスト。しかも塗り重ねることでの色のくすみは少なくしたい。そこで、色が定着しやすく重ね塗りに定評のあるウォーターフォードという紙を使ってみることにしました。
紙を買ったついでに筆も新調しました。高価でなかなか手が出せなかったラファエルというフランスの老舗メーカーの筆です。木の軸に柔らかいリスの毛が針金で止められているもので、まず見た目が愛らしい。少し膨らんだ筆先は水の含みがとても良く、一気に絵の具を置きやすい。毛先が細いため細かな描写もできます。これまでは日本画用のさらに細い筆を使っていましたが、ラファエルのような筆が使いやすいと思うようになったのも、描き方が変わったからなのでしょう。そのような新しい画材を使って描いたのが、恵那山から見る夜景と今回の一枚です。
使い慣れたものはもちろん良い。けれど、毎回同じように描いていたのではマンネリ化してしまうしつまらない。それは絵に限らず、きっとどんなことにも言えることなのでしょう。
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