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この季節にしか味わえない山の幸を堪能する日々。|筆とまなざし#276

ヒトリシズカとヤブカンゾウ。新たなる植物との出逢い。

岩場へ行くと、林床に不思議な植物が群生していました。細い茎の上部に、蕾のように閉じた濃い緑色の葉っぱ。その葉っぱはまるでにぎり合わせた手のよう。葉の間からは白い線状の花のようなものが見えています。クライミングを終えて帰るころになると蕾のような葉は開き、ブラシのような白い花が姿を現しました。ヒトリシズカ。調べるとすぐに名前がわかりました。花だと思った白い部分は雄しべなのだそう。静御前がひとりで舞っているようすを連想して名付けられたと言いますが、群生しているため、さながら賑やかな演舞会のようです。

暖かくなり、一気に芽吹きが加速しました。薄い緑だった山々はずいぶんと濃い緑になり、コシアブラは少し大きくなりすぎたくらい。アトリエのある森にはたくさんのコシアブラの木があります。絵の具を乾かす間に収穫し、お昼や夕ご飯のおかずにするのがこの季節の日課。天ぷらは美味しいのだけれど揚げ物ばかりだと体に悪い。炒めものにすると爽やかな苦味が楽しめるし、パスタにもおすすめ。ほかにもタラノメ、わらびなどが近くで収穫でき、この時期はいましか食べられない山菜をもりもり食べています。一年分の山菜を食い溜めしているのです。

「これ、ヤブカンゾウですよ。たくさん生えてる。お浸しにするとすごく美味しいんです」

知人がそう教えてくれたのは、薄い緑色の柔らかそうな草でした。茎の部分が平らになっていて、そこから左右に幅広の葉が伸びています。あたり一面に生えたヤブカンゾウ。知らなければただの草ですが、これが全て食べられるとは。夏になるとオレンジ色のユリのような花が咲き、花や蕾も食べられるのだそう。新芽を袋いっぱい収穫し、家に持ち帰りました。

さっと茹でてお浸しにすると、シャキシャキした歯応えでほんのり甘い。アクは一切なくて優しい味わい。これは美味しい! たっぷりあったヤブカンゾウはすぐになくなってしまったけれど、新しい山菜を覚えることができました。

ゴールデンウィークを控え、田んぼに水が張られ始めました。このところ雨が多く、肌に湿り気を感じるようになりました。岩も乾きにくくなり、近所の岩場はそろそろシーズンオフかな。季節が足早にめぐる前に、もう少し山菜を堪能しようと思います。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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