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安曇野山岳美術館主催のスケッチ教室。残雪期の北アルプスを描く|筆とまなざし#279

安曇野の田園と北アルプスの眺望を長峰山から描く。

安曇野の東に位置する長峰山は標高933.5mの里山です。一般的な里山と違うのは、頂上から残雪の北アルプスの山並みが一望できること。そんな長峰山の頂上でスケッチ教室を行ないました。安曇野山岳美術館の主催で開催した今回の教室。以前、展覧会でお世話になったときにスケッチ教室の計画が持ち上がったのですが、その矢先にコロナ禍となってしまいました。状況がずいぶん落ち着き、そろそろ良いのではないかということで、数年来の計画がようやく実現されたのです。

開催するとしたら、いつ、どこが良いだろう。せっかく安曇野に美術館があるのだから北アルプスを描きたい。雪とのコントラストが美しい残雪期の山々は格好のモチーフだと思いました。アクセス、眺望などをリサーチしていただいた結果、長峰山が候補地になりました。頂上まで車で行けてトイレがあることも、教室を行ないやすいポイントでした。今回の参加者は5名。遠くは千葉県や東京都からも駆けつけてくださり、ありがたい限りです。

展望ポイントに立ったとき、この場所にして大正解だったと思いました。眼前に、すばらしいまでの北アルプスの眺望が広がっていたからです。左に見えるのは常念岳。麓から眺める三角形の山容とはずいぶん違う印象です。稜線は大天井、燕と続き、遠く白馬のほうまで見渡せました。その裾野には安曇野の田園が広がっています。天気は曇り。けれどもかんかん照りだと暑いので、絵を描くにはこのくらいのほうが快適です。

ベンチで絵の具の使い方をレクチャーしたあと、さっそく思い思いの場所でスケッチを始めました。

「一枚にかける時間を15分と決めているんです」

山では天気が変わるし集中力ももたない。それに仲間を待たせないように休憩時間の15分で描くことにしているのだといいます。ボールペンで下絵を描き、淡彩で着色。明るく軽快な絵が次々と仕上がっていきました。山のスケッチは短時間で描くことも大切なポイントで、かの吉田博はすばやく描く画法を自ら編み出したほど。なるほど、時間を決めて描くというのはとてもおもしろい。

「常念のコントラストと有明山の重厚感を出したいです」

山と安曇野の風景を横長のスケッチブックに描かれていた男性は、滲みを使って山の色彩を巧みに表現されていました。広い風景のため時間切れになってしまいましたが、丁寧に描かれていく絵はすばらしかった。

「残雪の常念と新緑を描きたいのだけれど」

「この山並みをグラデーションで表現したい」

決まった描き方はありません。いつになっても試行錯誤の連続です。参加者といっしょに悩み「たとえば……」といいながら絵筆を手に取り、描き方を考えました。その間にぼくも残雪の常念岳の絵を一枚描きました。

午前中に2時間、お昼休憩を挟んでさらに2時間。初めましてのみなさんもあっという間に打ち解け、いつの間にか不思議な一体感に包まれていました。それは参加者、美術館スタッフのみなさんの心遣いのおかげです。みなさんにとって充実した1日となったことを願うばかりです。

スケッチ道具を片付けていると稜線が白く霞み始めました。山の上は雨なのか、それとも雪なのか。暑さ寒さを繰り返し、季節はめぐっていきます。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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