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<ウルトラライトハイキングの伝道師> 土屋智哉 【山岳スーパースター列伝】#36

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2018年11月号 No.108

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
日本にウルトラライトハイキングを根付かせた中心人物がこの人である。

 

もう20年ほど前のことだろうか。そのころ私は海外の山岳雑誌を読むのを趣味としていて、アメリカの雑誌を定期購読していた。インターネットが普及した現在とは違い、情報収集の主な手段は雑誌。しかも海外の山岳事情など、雑誌を読むしか知る術はほとんどなかったのだ。

目的は海外のクライマーの動向やニュース的記事だったのだが、ギアレビューや道具の広告を見ることも重要な楽しみのひとつだった。なにしろ、日本では見たことのないブランドや道具がバンバン出てくるうえに、レビューは情報量が多く、けっこう辛口。日本で登山をやっている私には刺激的な情報が多かった。

当時、海外の雑誌を読み込んでいる人などメディア業界でも多くはなく、そこで仕入れた情報や用語を、私は自分の原稿にこっそり混ぜ込んで悦に入っていた。見る人が見れば、「おっ、こいつはやるな!」と気づいてくれることを期待していたのはいうまでもない。

そんなころ、当時はまだ少なかった国内のショップのブログ(というよりホームページ?)に、私はある書き込みを見つけた。そのブログはOD BOX(現アートスポーツ)のもの。そこには、私が海外雑誌で発見して注目していたバックパックブランド「グラナイトギア」のことが記されていた。グラナイトギアはいまでこそ日本でも知られたブランドだが、当時は国内で展開はされていなかったはずだ。

ブログ記事では、グラナイトギアのことがきわめて熱っぽく語られていた。いわく、「画期的な雨蓋レス構造」「きわだつ軽量性」「これがアメリカの先鋭パックだ!」……。

その多くは、私も世人に先んじて仕入れていた情報であるが、ブログ記事の筆者は、さらに細かくグラナイトギアを論評し、私の気づいていなかった点までずばり指摘していた。何者なんだ、こいつは。

ブログ筆者は、どうもすでにグラナイトギアを手にし、あれこれいじくりまわしているらしい。雑誌情報のみで知ったふうな気になっている私とは違う。彼の発している情報は、生きた情報だった。

これが、ウルトラライトハイキングの日本伝道師・土屋智哉との、私のファーストコンタクトである。

当時、少なくとも日本では、ウルトラライトハイキングなど、その理念はおろか名称も聞いたことはなかった。私もグラナイトギアに注目したのは、軽くてシンプルなところがクライミングパックとしてよいのではないかと思ったのが理由だ。

ところが土屋は、当時すでに、ウルトラライトの文脈でグラナイトギアを語っていた。ブログ記事でウルトラライトハイキングという言葉を使っていたかどうか記憶にないが、土屋は単純にグラナイトギアというブランドだけを紹介していたのではなく、その背景にあるアメリカのカルチャーをも伝えようとしていた。いまにして思えば、それがウルトラライトハイキングだったのだ。

以降、ウルトラライトは、国内でも一大潮流となり、登山をやっている人ならだれもが知るムーブメントになった。それが土屋ひとりの力によるものと言うつもりはもちろんないが、土屋がいなかったら、日本のウルトラライトはここまで広がりを持ち得ただろうか。そこは大いに疑問である。

土屋ならではの行動力(どこにでも首を突っ込む図々しさともいう?)に加え、持ち前の発信力(彼はしゃべりがうまく、文章も非常に達者である)。それがなかったら、ウルトラライトが現在のような認知を得たとは思えない。

現在、土屋は、東京・三鷹で、ウルトラライトギア専門店「ハイカーズデポ」を営んでいる。ウルトラライトだけでショップが成り立つとは想像できなかったころに店をオープンし、すでに14年がたった。

いまでも土屋は自店のウェブサイトや他メディア、そしてもちろん店頭で、ウルトラライトギアについて熱く語っている。その熱量は、私が20年近く前に見たグラナイトギアの紹介記事となにも変わっていない。ここまで情熱を保ち続ける力。それも、彼がウルトラライトの伝導師となり得た秘訣であるに違いない。

 

土屋智哉
Tsuchiya Tomoyoshi
1971年、埼玉県生まれ。慶應義塾大学探検部でアウトドア活動を本格的にはじめ、なかでも洞窟探検(ケイビング)に没頭する。ボルダリングに傾倒した時期もあったが、OD BOX(現アートスポーツ)勤務時代にウルトラライトハイキングに出会い、以後、活動の軸足をそちらに移していく。2008年にウルトラライト専門店「ハイカーズデポ」を東京・三鷹にオープン。著書に『ウルトラライトハイキング』(山と溪谷社)などがある。
https://hikersdepot.jp

 

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

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