BRAND

  • FUNQ
  • ランドネ
  • PEAKS
  • フィールドライフ
  • SALT WORLD
  • EVEN
  • Bicycle Club
  • RUNNING style
  • FUNQ NALU
  • BLADES(ブレード)
  • flick!
  • じゆけんTV
  • buono
  • eBikeLife
  • HATSUDO
  • Kyoto in Tokyo

STORE

  • FUNQTEN ファンクテン

MEMBER

  • EVEN BOX
  • PEAKS BOX
  • Mt.ランドネ
  • Bicycle Club BOX

<現代最速の山岳王者> キリアン・ジョルネ 【山岳スーパースター列伝】#37

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2017年7月号 No.92

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
人間離れした無尽蔵の体力を誇る、ニュータイプのスーパースターがこの人だ。

 

キリアン・ジョルネ

2017年春、エベレストにとんでもないモンスターが現れた。

たったひとりで、酸素ボンベも使わず、まる1日(26時間)で登頂。驚かされたのは、その6日後に、再び山頂に立ったのである。しかも所要時間は1回目のときよりさらに速く、わずか17時間。

標高8,000m以上の高所というのは、低酸素のため、いるだけで体が激しく消耗するといわれる。そんな場所で登山をすれば、通常は下山後は抜け殻のようになり、回復には長い時間がかかる。

このモンスターはそれを身ひとつでやってのけ、4日間休んだだけで、「また行ってくらあ」と出発し、さらにタイムを縮めて下りてきた。もはや意味がわからない。北アルプスの登山をしているんじゃないんだから。

エベレスト(チョモランマ)のサミットプッシュには通常で4日かかるという。モンスターはその4分の1。このすごさをどう表現したらいいのかわからないが、上高地から槍ヶ岳を5時間で往復し、わずかな休みをはさんでまた出発し、今度は4時間で下りてきた、みたいなことだろうか。いや、たとえになっていないな。これではほかにもやれる人はいそうだもんな。

前置きが長くなったが、この怪物の名はキリアン・ジョルネ。スペインのトレイルランナーであり、山岳スキーヤーであり、登山家である。一般的にはトレイルランニングの王者として知られていると思う。

世界最高峰のレースのひとつ、「ウルトラ・トレイル・ドュ・モンブラン(UTMB)」を3度も制覇し、その他の世界的レースでも無敵を誇った。私自身はトレイルランニングはやらないが、知り合いにトレイルランニングに詳しい人が多く、ジョルネの名前はとにかくよく耳にしていた。

それがあれっと思ったのは2013年ごろだっただろうか。マッターホルンを登るジョルネの動画がインターネットで回ってきたのである。それには度肝を抜かれた。マッターホルンの、あのけわしい岩稜をまさに「飛ぶように」走り抜けている。Tシャツ短パンのトレイルランスタイルで、バックパックすら背負っていない。雪の付いた岩稜で、それは異様に見えた。

もともとマッターホルンはけわしすぎてトレイルランニングの対象となる山ではない。そこをこれだけ軽々と駆け抜けるとは。これはただのトレイルランナーではないとそのときに感じた。

以降、アラスカのデナリを登ったり、南米のアコンカグアを登るなど、登山の舞台でジョルネの話題を聞くことが増えた。しかも、そのことごとくが「ファステスト・ノウン・タイム(FKT)」。要するに、これまでの最速記録ということ。これがちょっと考えられないようなスピードで、トレイルランニングの絶対王者が登山に進出すれば、こんなことが可能になるのかと呆れたものだった。

アルパインクライミングの分野で最強とされていたウーリー・ステックとも組んで登っている。並み外れた体力とスピードを誇ったステックについていける人間はほとんどいないが、ジョルネは別だ。ステックはこう語っている。

「地形がおだやかなところでは、とてもじゃないがかなわない。クライミング技術が必要なセクションでは勝てるんだけどね……」

超一級のスピードを持つふたりは互いの持ち味をリスペクトし合う関係だったらしい。

ジョルネはエベレストでもFKTをねらっていたが、それまでの記録16時間45分には、15分およばなかった。1週間に2回登頂というのも、すでにやったことがある人はいた。ではなんでそんなに驚くのかというと、ジョルネは「2回とも」「無酸素で」「FKTに近いスピードで」これを行なっているからだ。

わかりやすいタイトルは得られなかったが、これは人類の限界を明らかに押し広げた行為だ。登りやすくなったとはいえ、エベレストはエベレスト。そんな裏山を往復してくるような感覚で登れるところでは本来ない。

しかし研ぎ澄ました山岳エキスパートの手にかかれば、これだけ近い存在になるのだ。ジョルネの超弩級のパフォーマンスに、そういう新時代を感じたのは私だけだろうか。

 

キリアン・ジョルネ
Kílian Jornet Burgada
1987年スペイン出身のトレイルランナー。2007年ごろから世界のトレイルレースで注目され始め、2008年にUTMBで初優勝。2013年ごろから登山の世界にも積極的に進出し、モンブラン、マッターホルン(ヨーロッパ)、デナリ(北米)、アコンカグア(南米)、エベレスト(ユーラシア)の最速登頂プロジェクトを行なう。2022年のUTMBでは、大会記録を更新して4度目の優勝を果たした。
https://www.kilianjornet.cat

 

SHARE

PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

No more pages to load