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“リトルヨセミテ”とも称されるオルコ渓谷で、世界的に有名なクラックルートを求めて|筆とまなざし#296

オルコの名を世界的に知らしめたルーフクラック「グリーンスピット」にトライ。

最初の一週間は雨ばかりでした。雨といっても日本のゲリラ豪雨のようなものではなく、また1日降り続くこともないのですが、晴れていたかと思うとシャワーのような雨が1日のうちのどこかの時間帯で降りました。洗濯をしても乾かず、あるいはせっかく乾きかけた衣類をうっかり雨で濡らしてしまうのの繰り返し。標高は1,500mほどで雨が降ると急に寒くなります

最初の一週間はキャンプ、そのあと谷を20、30分ほど下った町の安アパートに移動するつもりでしたが、4泊キャンプしたところで早々にアパートに移ることにしました。キャンプ場より1,000円ほど高いだけだし、キャンプ場周辺には小さな食料品店しかなくて割高。トータルでアパートのほうが経済的なことがわかりました。

オルコ渓谷はリトルヨセミテとも称されるように、渓谷沿いに花崗岩の岩壁が続いています。ヨーロッパのフリークライミングといえば石灰岩のスポートルートが知られていますが、北イタリアには花崗岩のクラックエリアが点在し、なかでもよく知られているのがオルコなのです。

決して世界的なビッグエリアではないオルコの名を世界的に知らしめているのが、一本のルーフクラックです。グリーンスピットと呼ばれるクラックで、1980年代に地元のガイドでありクライマーのロベルト・ペルーカによって発見。緑色のハンガーボルトが打たれ、おそらくはエイドで初登されました。ペルーカはほかにも数々のルートを初登しており、これまた有名なルーフクラックレゴランドのフリー初登を成し遂げています。グレードは7b、5.12a/b。80年代にこれらのルートを初登しているペルーカはまさにオルコのレジェンドです。しかし、彼は2000年に大きな荷物を背負って山を歩いているときに滑落、帰らぬ人となってしまいます。

圧倒的なルーフクラック、グリーンスピットはやがてフリーで初登されることとなります。登ったのはカナダのスコーミッシュでソニー・トロッターとコブラクラックの初登争いをしたスイス人クライマー、ディディエ・ベルトー。彼はペルーカが打ったハンガーボルトを撤去し、2003年にプロテクションをプリセットしたいわゆるピンクポイントのスタイルで初登。その2年後に自身の手でレッドポイントを果たし、このルーフクラックには8bというグレードが与えられました。ちなみに、ペルーカの打った緑色のハンガーはその象徴のようにいまも取り付きに一本だけ残されています。

オルコに着いて3日目、グリーンスピットを触ってみることにしました。トンネル手前の空き地に車を停め、小さな橋を渡ります。小道をたどって進むも、すぐに藪になってしまいました。トポを見ると合っているようですが、アプローチの踏み跡がありません。行きつ戻りつしながら、とりあえず岩の方向はわかるからと藪漕ぎをして急斜面を登ってたどり着きました。

ぽっかりと開けた岩棚の空間。見上げると、写真で見たとおりのクラックがありました。下から見上げるとそれほど傾斜があるように見えないのですが、取り付きに立つと空へとほぼ水平に続くそのクラックの傾斜、と言うかその空間に圧倒されました。

その日は雨の翌日でした。湿度90%、気温は20℃くらい。何便か出してみるものの数カ所のムーブができませんでした。クラックのなかが湿っぽく、ただでさえ甘いハンドジャムが滑って抜けてきてしまいました。数日後に再訪すると、1カ所のムーブはなんとなくわかったものの、それほどの進展はなし。さらに数日後に訪れると以前よりもずいぶんとクラックのなかが乾き、辛うじてすべてのムーブを解決することができました。けれどもその確率は非常に低くまるで話になりません。

オルコに来て一週間がすぎると晴れの周期になり、空気にも少しずつ秋の気配が感じられるようになりました。とはいえ街の最高気温は28℃。このクラックは北面にあるため比較的涼しいものの、午後になると日差しが迫ってきて非常に暑い。現地の人によるとベストなクライミングシーズンは6月と10月とのこと。それも来てみないとわからないことでした。9月後半から気温も下がり始める予報です。もう少し、このルーフクラックに取り組んでみたいと思います。

ところで、これほど有名なルートがあるにもかかわらず結局明瞭な踏み跡は見つけることができず、自分たちが歩いた道が唯一それっぽい踏み跡になったのでした。この岩場はメインエリアから外れた場所にあり、またグリーンスピット以外に7bのルートが一本あるきりなので、訪れる人もほとんどいないのでしょう。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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