BRAND

  • FUNQ
  • ランドネ
  • PEAKS
  • フィールドライフ
  • SALT WORLD
  • EVEN
  • Bicycle Club
  • RUNNING style
  • FUNQ NALU
  • BLADES(ブレード)
  • flick!
  • じゆけんTV
  • buono
  • eBikeLife
  • HATSUDO
  • Kyoto in Tokyo

STORE

MEMBER

  • EVEN BOX
  • PEAKS BOX
  • Mt.ランドネ
  • Bicycle Club BOX

イタリア・クライミングトリップ中のレスト日に。ムアンデ平でのスケッチ|筆とまなざし#297

ターニャが教えてくれた「ムアンデ平」へハイキング。ポンテーゼ小屋のパオラを訪ねて。

「時間があったら『ムアンデ平』がおすすめ。1時間くらいのハイキングで行けてとっても景色がすばらしいところなの。周辺の山にはたくさんクライミングルートもあるわ。途中のポンテーゼ小屋に行ったらパオラによろしく伝えてね!」

トリノで立ち寄った山岳図書専門店「La montagna」の女主人、ターニャはそう教えてくれました。登り始めて1週間ほどが経った晴れたレスト日、さっそくムアンデ平に行ってみることにしました。ちなみにイタリア語では「Piano delle Muande」。Piano delleで「〜の床」と言う意味で、平な場所を指すようなので「ムアンデ平」としました。地図を見ると標高3,000m以上の山々に囲まれた谷で、小さな池がふたつ描かれています。

拠点にしているロカーナの村から車で5分ほど谷を遡ったロゾネ村から、チェレゾーレ・レアーレ方面に行く道を右に折れ、細いくねくね道へ。ちょうどグリーンスピットの対岸にあたり、こんな急斜面に車道があるのかと遠目で見ていたのですが、案の定、車がなんとか一台通れるほどの細い道がいくつもの急カーブを繰り返しながら続いていました。慣れないミッション車、こんな急斜面の途中で停まりたくない。対向車がないことを祈りながら、なんとか無事に急坂を登りきると小さな集落がありました。こんなところにも人が住んでいるなんて。冬はさぞ大変だろうなと思わず心配になってしまいます。

道は深い谷沿いに続いていました。廃村を通り抜け、放牧地を横切るとやがて森林限界となりました。林道はさらに続き、ロゾネから1時間ほどでようやく登山口となるテレシオ湖に到着しました。平日にも関わらず駐車場にはたくさんの車が停まっていました。

テレシオ湖は標高2,000m近く、正面には荒々しい岩山がいくつもそびえ立ち、そのなかにちょうど槍ヶ岳に似た、けれども大きさは軽く5倍を超える三角錐の端正な山が見えました。人間の生活圏と山岳地帯との近さに思わずおどろいてしまいます。

しばらく湖畔に沿った道を歩くと山道となり、気持ちの良いハイキングで黄色い屋根のポンテーゼ小屋にたどり着きました。小屋の前で一休みし、ムアンデ平に向かいました。

カランコロン、カランコロン……カウベルの音が聞こえて谷を見上げると、こんな標高の高い場所でも牛が放牧されているのでした。点在するフレッシュな牛の糞に気をつけながら、秋色に染まり始めた草原の広がる谷を進みました。谷の真ん中には小川が流れ、明るい日差しに輝いていました。周りにはボルダーが点在し、見上げる山々は険しく、美しい。なんてステキな場所なんだろう。もう少し山を登れば氷河があります。この谷も氷河によって削られてできたのでしょう。ムアンデ平にあるはずの小さな池は見当たらず、代わりに放牧小屋のような石造りの建物がありました。池は雪解けの時期にだけできるのかもしれません。ここまで来ると山が近すぎて「イタリアの槍ヶ岳」が見えなくなってしまうので、少し戻ってその秀峰が見える場所で絵を描くことにしました。

風の穏やかな谷間。日差しは暖かく、遠くでカウベルの音が聞こえます。山と谷を描きたかったのだけれど、山が大きすぎてとても画面に収まらず、描いていたら山の一部だけになってしまいました。それもまた良し。スケッチブックに収まりきらないことが、この場所の特徴なのだから。

絵を描き終えてポンテーゼ小屋に戻ると、さっきはだれもいなかった小屋の前はランチを食べる人や日光浴を楽しむ人で賑わっていました。なかにはロープを持った年配グループの姿もありました。良い匂いがしたのでちょっと遅めの昼食を取ることにしました。注文したものの名前はわからないけれど、黄色く少しねっとりした硬めのお粥のようなものにミートボール入りのトマトソースがかけられた料理がとても美味。あとで知ったところによると「ポレンタ」と呼ばれるトウモロコシの粉を使った郷土料理でした。

「La montagnaのターニャに教えてもらって来たんです。ターニャから『ポンテーゼ小屋に行ったらパオラによろしく伝えてね!』と言われました」

料理を運んでくれたスタッフにそう言うと、初老の女性がデザートを持って来てくれました。

「よく来てくれましたね、とてもうれしいです」

パオラはとてもチャーミングな女性で、とびきりの笑顔でそう言ってくれました。長年この小屋を切り盛りしている女主人なのでしょう。日に焼けた顔はまるで草原を渡る風のように温かい。そんな温かさに包まれたまま、ゆっくりと山道を下りました。

SHARE

PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

No more pages to load