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<エベレスト世界最高齢登頂記録保持者> 三浦雄一郎 【山岳スーパースター列伝】#48

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2018年3月号 No.100

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
エベレストを直滑降して世界を驚かせ、80歳で再び世界を驚かせた男の冒険人生を紹介。

 

三浦雄一郎

日本人で「スーパースター」という言葉がもっとも似合うのは、野球の長嶋茂雄なのではないかと思うが、どうだろうか。とにかく明るく、大舞台に強く、実力とか実績はもちろんのこと、なによりも人を惹きつける力がある。

山の世界で、いつもこの長嶋茂雄を彷彿とさせる人物が、個人的に3人いる。ひとりはクライミングの平山ユージ。もうひとりはエベレスト女性世界初登頂の田部井淳子、そして3人目が、今回の主役、三浦雄一郎である。

みんな、野球が、岩が、山とスキーが大好きだ。実績は申し分ないのに、それを鼻にかけるようすがみじんもない。中年になっても、老年になっても、まるで子どものようにやりたいことに突き進んでいく。大御所はもっとえらそうにしていてください、あなたたちにはその資格が十二分にあるのだから。と言ってもまったく通じないような無邪気さが、彼ら彼女らの器の大きさであり、魅力なのだ。

ところが、このなかで三浦だけが、十分な評価を得ていないように感じるのは私だけだろうか。いや、スキー界ではいうまでもなく巨匠である。しかし登山界ではどうか。いまひとつ傍流というか、イロモノ的に扱われてきた期間が長かったように思うのだ。

もちろん、三浦自身がそもそもスキーに軸足を置く人で、純粋な登山に本格的に取り組み始めたのが年をとってからだったというせいもある。だが、三浦は若いころから競技スキーというよりも、山を舞台にした冒険スキーで活躍した人物であり、いってみれば、いまでいうバックカントリー的なスキーを半世紀も前から実践していた人なのだ。しかも驚くべきレベルで。

冒険家としての三浦の金字塔が、1970年に行なわれたエベレスト滑降。頂上からではなく、標高約8,000mのサウスコルからの滑降ではあるが、これは登山の観点から見ても大変な偉業である。考えてみてほしい。当時は、日本人はエベレストに登頂したことすらない時代である(同年1970年に松浦輝夫と植村直己が日本人初登頂)。現在とはワケが違う。

しかも、パラシュートをブレーキ手段としてエベレストを直滑降するという。そんなことを思いつくだけでも呆れるのに、本当に実行してしまう行動力。

この一大パフォーマンスは、当時の常識としては、スキーとして評価するべきなのか、それとも登山としてか、その狭間に陥ってしまって、日本ではいまひとつ価値が認識されなかった。だが、命知らずという意味で、森田勝の谷川岳第3スラブ冬期初登攀にも十分以上に匹敵する、1960~70年代を代表する大山岳冒険だと私は思う。

中年になって以降の三浦は、自身の活動はトーンダウンし、後進の育成などの裏方的な活動が目立っていたが、老年といえる年齢になってから、また取り憑かれたように山に登り始めた。今度はスキーではなく、歩いて登る高峰登山を目標に。

その行き着いた頂点が、2013年の、80歳でのエベレスト登頂。これはいまに至るも、最年長登頂の世界記録となっている。私は「最年長」という記録には大して価値を感じないほうだが、これは別だ。80歳でエベレストというのは、とんでもないのである。

これについては、「あんなにお金と人員を投入すれば登れて当然だ」というような批判の声も聞く。ならば問いたい。あなたが80歳だとして、三浦と同じ環境を与えられたら、エベレストに登れるのかと。

私は自分が80歳になったときにそれができるとは到底思えない。私の父親は現在82歳だが、その姿とエベレストは結びつきようがない。どんなにお金をかけようが、どんなにサポートされようが、80歳でエベレストに登るというのは、猛烈な意思の力が必要になるはずなのだ。

もちろん意思だけでなく、三浦はエベレストに向かうにあたり、膨大なトレーニングも積み重ねている。40~50歳代に匹敵するような肉体を作り上げていたらしい。これらの事実は、世の高齢者に巨大な希望を与えたはずである。

「やると決めたらやる」。ど真ん中160kmストレートみたいな三浦の人生。その生き方を通じて人々を惹きつけてきた。これこそがスーパースターという言葉にふさわしいのではあるまいか。

 

三浦雄一郎
Miura Yuichiro
1932年生まれ。青森県出身のスキーヤー・冒険家。日本の山岳スキー黎明期を開拓した三浦敬三を父親に持ち、幼少のころからスキーに親しむ。1960年代からプロスキーヤーとして活動し、スピード世界記録、エベレスト滑降、世界七大陸最高峰滑降などの記録を残す。70歳を前にして高峰登山を再開し、2013年にエベレスト世界最高齢登頂(80歳)を果たす。
http://www.snowdolphins.com

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

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