「ここで暮らし、描き、登る」をテーマとした講演会と展覧会|筆とまなざし#315
成瀬洋平
- 2023年02月08日
地元での展覧会はやっぱりこの場所の絵、そしてやっぱり恵那山を描きたい。
3月に地元の公民館で行なう講演会に合わせて、10日間の展覧会を開催することになっている。しかし、その主軸になる絵をなににしようかとここのところずっと悩んでいた。講演会のテーマは「ここで暮らし、描き、登る」。依頼をいただいたとき「とくに自分にお話できることもないけれど、どのようにしていまの仕事や暮らしに至ったのかならお話できます」ということで決めた。一般的な社会のレールから脱線してこんなふうに生きている人間もいるのだと、とくに中高生への悪い見本(?)になれたらうれしい。そして、せっかくならばと展覧会も開催することになったのだった。
展覧会のタイトルも講演と同じにした。そこには「この場所」だけでなく「この場所を拠点に描き、登りに出かける」という意味も含ませている。その意味で、展覧会のメインとなる絵はこの場所ではない絵でもいいかなと思ったりもしたけれど、やっぱり地元での展覧会である。この場所の絵、そしてやっぱり恵那山がいい。そう思い、描きたい恵那山を求めて車を走らせた。
地元の村からは、手前にある山々が立ちはだかり恵那山があまり見えない。笠置山クライミングエリアの記帳所からはよく恵那山が見えたはず。そう思ってひさしぶりに笠置山へ出かけた。たしかに恵那山は見えるけれども、手前の山が重なって絵のモチーフとしてはちょっとイマイチ。たくさん訪れている場所なのに、記憶というのは適当なものだ。それならばと、農道を少し走ったところにあるとっておきの場所に出かけた。
その場所からは、木曽川を挟んだ向こうに街並みが広がり、街を見守るかのように鎮座する恵那山が見渡せる。別名「舟伏山」と呼ばれる恵那山は、まさに舟をひっくり返して伏せたようなこんもりとした山容である。地理的には中央アルプスの南端なのだが独立峰といったほうがしっくりとくる。恵那山は頂上稜線まで樹林帯なので降雪の直後は真っ白に雪化粧するものの、数日すると樹上の雪が落ちて青く見える。ところどころ木の生えていない場所があり、そこだけ白いコントラストとなっていた。
わずかに青空が見える曇り空。晴れた日は岩登りに出かけてしまうので、曇天の風景を描くのもありだろう。田んぼの土手に腰を下ろし、真正面にそびえる恵那山と対峙する。今日は暖かく、土にも冬の冷たさがない。足元に目をやると冬枯れの草の下に微かに緑の若草が見える。春は近い。曇り空のなかに鮮やかな光を探して描く。ようやく展覧会の主軸となる絵が決まった。
講演会情報はこちら↓
https://www.city.nakatsugawa.lg.jp/soshikikarasagasu/chuokominkan/20297.html
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