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新年初クライミング。「釣り師のテラス」を再訪|筆とまなざし#312

 魅了されてしまったルーフクラック。そこで味わった全身の感覚も、独創的なムーブも、岩や海や空の色も。すべては自然からの贈りもの。

年が明けた1月3日、釣り師のテラスを再訪した。正月太りが気になったがそれなりに節制していたし、身体がフレッシュならきっと登れる。ムーブの感覚を忘れないうちに訪れたかったのはもちろん、あのルーフクラックにすっかり魅了されてしまい、1週間を待たずに訪れたのだった。

昼ごろ到着。6日前よりもコンディションが良い。ときどき吹く海風が心地よい。アップがてらムーブを確認。最初のトライは釣り師の核心で落ちた。この部分は右足のフットジャムが鍵になる。微調整をして次のトライ。ところどころジャミングのポイントが狂って苦しかったがなんとかレストポイントまでやってきた。チョークアップし、核心へ。右足をていねいにセットして左手を甘いシンハンドへ。思いきって右手を飛ばすと指先がガバを捉えた。スタートから強度の高いムーブが続くため、釣り師では感じることのなかった疲れを感じる。けれどもう落ちるわけにはいかない。ルーフの出口になんとかレイバックで這い上がり、7mのハイボルダーへ。呼吸を整えながら慎重に登ると岩棚の上に立つことができた。

友人の情報で、このラインは2017年に初登されていることがわかった。けれどもそれはほとんど知られておらず、課題名もグレードも与えられていない。それで十分。このラインに魅了され、絵を描きながら釣り師のテラスですごした数日間はとても芳醇な時間だったのだから。「ハサマリング」(岩と岩の間にできた隙間をクラックとして登る)ではなく、これほどみごとで純粋なクラックボルダーは日本ではほかに聞いたことがない。日本を代表するクラックボルダーであることは間違いない。とにかく、内容もロケーションもすべてがすばらしかった。

翌日は近くのナサ崎へ向かった。ここには「スカイフォール」という、これまたルーフのクラックがあるが、波の影響か地盤の影響か、数年前にクラックの幅が広がったのである。以前はハンドサイズでこれも秀逸なクラック課題だったのだが、いまはワイドクラックになっている。強傾斜のワイドクラックを登るテクニックにインバージョンというものがあって、通常の体勢だと両手を離すことができないので、手より上に足をスタックさせ、足にぶら下がる格好で手をズラして登っていく。要するに身体を逆さまにして登るわけで、アクロバティックでとてもおもしろい。最初は一度のトライで相当疲れたがコツを掴むとそれも軽減され、奮闘の末に登ることができた。幅が変わるだけでこんなにも表情を変えるクラックというのは本当におもしろい。

ときどき、登ってからもしばらくその感覚が身体に残る課題に出合うことがある。釣り師のテラスのルーフクラック左バリエーションもそのひとつで、そんな感覚を味わいながらすごす時間を、もしかしたら幸せと呼ぶのかもしれない。ルーフに見つけた一本のラインも、そこで味わった全身の感覚も、独創的なムーブも、岩や海や空の色も、テラスから見えた魚たちの姿も、そして幅の変わったクラックも、すべては自然からの贈りものだった。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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