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子どもの日に、子ども向けのクライミング教室を行なって|筆とまなざし#327

クライミング、芸術、「恵那の教育」。心の片隅にあった自分にとっての大切なテーマが、ひとつの胎動となって蠢き始める。

子どもの日には、子ども向けのクライミング教室を行なった。午前中はボルダリング、午後からはルートクライミングを企画し、それぞれ4名、5名が参加してくれた。ボルダリングには大学時代の友人家族が参加してくれたのだが、そのうちのひとりは前日の水彩画教室にも来てくれた女の子だ。

笠置山クライミングエリアには「子どもサーキット」がある。ボルダリングが初めての子どもでも登りやすい、ランディングが良く小ぶりなボルダーに60課題ほどを設定。駐車場やトイレからも近くてとても便利だ。

4人ともボルダリングは初めて。名古屋に住んでいるのだけれど、ジムではなく岩からボルダリングを始めるというのがすばらしい。みんなとても上手で、とくに水彩画教室に参加してくれた女の子は体が柔らかくてとても身軽。その弟くんは教えてもいないのにヒールフックを上手に使って必死に登っていく。すっかりハマったようすで、翌日はさっそくジムに行ったのだそう。しかも登れない課題があって泣いてしまったとか。その負けず嫌いがきっとクライミングにさらにのめり込ませてくれるはずだ。

午後からは上のエリアに移動した。ここには、傾斜の緩いルートクライミングの岩がある。10mほどの高さの岩で、上部に4カ所支点を打ってありトップロープで登ることができる。あえて中間支点を打たなかったのは、リードで登るには易しいし、登ろうと思えばカムでプロテクションを取ることもできなくない、ということのほかに、ボルトに沿って登るのではなく岩をよく観察して登りたいところから登ってほしいと思ったからである。そのおかげで、同じ終了点でも易しいラインと難しいラインをとることができる。

ルート教室に参加してくれたのはみんな地元の子どもたちだった。最初は怖がっていたけれど何度か登るうちに慣れてきた。登るのよりもロープにぶら下がって降りるほうが怖い。それは子どもに限らず大人も同じである。これまで何度かこの岩で体験会を行なったが、いちばん難しいラインは未だ完登者が出ていなかった。この日、最後のトライで隣町の男の子がみごとに最後まで登りきった。

この地域には「恵那の教育」という教育実践がある。戦中、皇民化教育によって教え子を戦場へ送ってしまった先生の、国家教育に対するアンチテーゼとして実践された地域に根ざした教育活動である。一種のカウンターカルチャーといってもいいのかもしれない。学生時代、教職員課程授業でレポートを書いたことがあり、自分にとって大切なテーマとして心の片隅にあった。自分の人となりにも、少なからずこの教育活動が影響していると思うからだ。けれども、卒業以来すっかり触れることなく生活をしてきた。

少し前から「恵那の教育」に再び興味が湧き、少しずつではあるけれど自分なりに調べるようになった。そしていま、クライミング、芸術、「恵那の教育」が自分のなかで絡まり始め、ひとつの胎動となって蠢き始めたのを微かに感じている。この場所で、なにかおもしろい実践ができるのではないか。それは、ぼくにとって生涯にわたるテーマになるような気がしている。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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